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012 魔法バトル!!(室内)














  ──キャメロット王城・書庫──


  焦げ茶色の木製長机を挟み向かい合う蒼流とヤミリー。魔法講義はまだ続いていた。


「魔法には火、風、水、地、雷、聖、闇、時空、(きよ)の九つの属性が存在し、個人によって扱える属性は異なります」

「火、風、水、地、雷、聖、闇はなんとなく分かるけど、なんだ時空と虚って?」

「時空魔法は主に空間移動系のものが多いですね。空間に穴を開けて遠くの場所に一瞬で行けたり、右手に持っている物を左手に瞬間移動させたりできます。──ただ、消費魔力が多過ぎることから、使う人は殆どいませんね」

「右手から左手に瞬間移動って、それ使えるか?」


  ただの手品のようにも思えるその魔法。蒼流にはそれになんの応用性も見い出せなかった。・・・・・・何より魔法という奇跡でそんな地味なことをする奴がいるのかと。しかしヤミリーは頬に手を当て、蒼流の考えと相反の答えを提示した。


「なんでも昔その魔法を使う凄腕の殺し屋がいたらしいんですよ。戦闘スタイルはその魔法をフル活用したもので、圧倒的な強さを誇ったと言われています」


  ──成程、地味な魔法も使いようによっちゃ矛となるってわけか。・・・・・・そうりゅうもうわかんない!


「虚属性の魔法は身体の部位や寿命を媒体として莫大(ばくだい)な魔力を生み出すことができますが、悪用されかねないため固く禁じられています。──因みに私はレベル6で火属性魔法使いですよ。・・・・・・だって、この想いは、私の胸で燃えているから♡」


  頬を赤らめヤミリーがたわわに実った巨峰に手を乗せる。その何処か儚げな彼女に、蒼流は満面の笑みで返した。


「ハハッ、俺にはどっちかって言うと闇属性に見えるけどねっ!」

「私ってそんなに色っぽいですか?そんなこと言われると、先生、変な気分になっちゃう♡」


  くねくね動くな。てかまだその設定引きずってたのかよ・・・・・・。


  両頬に手を当て、恥じらうように甘味(かんみ)な幸せに浸かるヤミリーに、蒼流は諦めのため息を漏らす。


「こいつポジティブ過ぎて会話が成立しねえ・・・・・・」

「褒めても出るのは愛ぐらいですよ?」

「大丈夫!何時もびっくりするくらい溢れてるから!」

「それでは愛を育みましょうか」


  ヤミリーが唐突にドレスの後ろのボタンを外す。服がはだけ、その反動でまーるいお胸がぶるんと揺れる。


「ちょちょちょ、なにやってんのあんた!?」

「なにって、〝ナニ〟をヤるんでしょう?今ここには私と蒼流様の二人っきり、おまけにこの書庫は完全防音機能も備わっています。こんなにシュチュエーションが揃っていてヤらないことがありましょうか?いいえありません!」

「何その要らない機能!?図書館では静かにしなさいって言たでしょっ!!」


  蒼流が勢いよく立ち上がる。その反動で椅子の重心が傾き倒れるが、気にもとめずに出口の扉に向けて全力疾走。

  木製の扉までおよそ三十メートル。無駄に広い作りとなっているのが(あだ)となった。果てしなく長い道のりを越え、遂に扉間近まで辿り着く、蒼流が手を伸ばす。あと五メートル。


  ────が、突如背中が押される。虚をつかれた現象と不安定な体勢とが重なり、蒼流ははその場に膝から崩れ落ちる。背中に感じる柔らかい感触と温もり。


  ・・・・・・悪くない感触だ。──こんな状況じゃなければね!!


  腕が胸を這い、耳に吐息がかかる。


「ああっ!これが蒼流様の背中、これが蒼流様の胸!!さあ!愛し合いましょう!!さあ!さあさあさあさあ!!」

「愛が重い!!止めろっ!まさぐるな!!」

「うふふふふ、もう、蒼流様ったら照れ屋さ────ッ!!」


  ヤミリーが〝()()〟を感じ飛び退()く。

  ──瞬間、蒼流の背中スレスレの空気を白い光線が(つらぬ)いた。そのまま光線は本棚にぶつかり小爆発を起こす。本が宙を舞い四方八方に飛び去る様を、蒼流は目を丸くして呆然と眺めることしかできなかった。


「・・・・・・・・・・・・ん?」


  ぽかんと口を開ける蒼流を他所(よそ)に、光線によって穴の()いた扉が倒れ、彼女が姿を現す。

  光を反射させ(ほの)かに光る白銀の髪を揺らし、その細い声音に最大限の怒気を乗せ呟く。


「・・・・・・なに・・・・・・やってる、の・・・・・・!!」


  怒りの(にじ)む双眸を一身(いつしん)に受けるヤミリーは、不敵に口端(くちはし)を吊り上げ右手を前に差し出した。


「──〈ファイヤー・ボール〉」


  その一言を合図に、空中から湧き出た炎がヤミリーの掌に収束する。瞬く間に己の顔程もある巨大な火の玉に姿を変えた炎は、次の瞬間、(はじ)かれるように風を切って放たれた。

 直撃したら無事では済まないだろう。放たれる熱気がそう語っている。

  だが、シルは迫り来る灼熱(しやくねつ)の弾丸を前に、瞬き一つせずにただただ冷ややかな視線をヤミリーに送る。

  〈ファイアーボール〉がシルの顔スレスレを横切り、熱風で髪を揺らす。そのまま無造作(むぞうさ)に倒された扉の上を抜け、やがて廊下の壁に衝突する。


  爆発。黒煙が空気を侵食し、一瞬でシルまで届く。黒々とした煙が肌を撫でる中、シルはその凄まじい爆風に身を任せる様に、ふわりと前に飛び出した。ゆったりとした一歩目とは対照的に、二歩目は大きく膝を曲げ、全力で踏み込む。(あし)に伝わる確かな地面を感じながら、溜め込んだ力を解き放ち、シルは僅か二歩にして全速力に辿り着いた。

  疾風と成り己との距離を喰らうシルに、ヤミリーは邪悪な笑みを刻む。


「〈ファイアー・アロー〉」


  広げられたヤミリーの右掌がちかり、と(ひらめ)いたかと思うと、そこに(くい)に近い形状をした炎の矢が現れる。ヤミリーはなんとそれを()()()(つか)み大きく一歩。


「────ハァッ!!」


  王女とは思えない豪快(ごうかい)な動きを見せヤミリーは思いっきり振りかぶり、鬼気(きき)(せま)る鋭い声で、(いま)だ速度を(ゆる)めぬシルに向かって投げつける。


 え?手動で投げんの?


  〈ファイアーアロー〉は宙を(かけ)紅蓮(ぐれん)迅雷(じんらい)となってシルに(おそ)いかかる。

  シルは身体を回転させつつ、右手でさも当然かのように〈ファイアーアロー〉を()()と、その力さえ利用して左足を軸にくるりと一回転。


 え?熱くないの?


 遠心力とシル自身の腕力により、〈ファイアーアロー〉を更なる速度で打ち返す。────が、シルが炎の矢を放った先では、ヤミリーが仁王立(におうだ)ちで両手を突き出し、掌を上下に開いていた。口元に不穏な暗い笑顔を覗かせ、静かに言い放つ。


「──〈インフェルノ・ドラグニル〉」



  突如肉体が炎で形成された龍が虚空(こくう)から現れ、巨大な口を開けて、炎の身体を揺らしながら床を滑るように突進する。


  ──上級魔法〈インフェルノ・ドラグニル〉。〈ファイアーボール〉や〈ファイアーアロー〉などの下級魔法とは比べ物にならない程の技術と消費魔力を要するため、この魔法を使えるだけで魔導師としてそれなりの地位が約束される。また、その威力は言わずもがな、追尾機能と広い攻撃範囲まで備えていて、熟練の戦士でも完全に回避するのは難しいだろう。

  そんな大魔法を前に、シルは少しだけ目を見開き、直ぐに戦士のそれにもどす。そして、荒ぶれながらも一直線に進む龍を静謐(せいひつ)に見据えると、脱力したように腕を垂らす。一見諦めにも思える光景は、爛々(らんらん)と光る銀色の双眸により否定される。


  炎の龍とか弱い少女とが激突するその瞬間、シルの口から、燃ゆる炎の轟音(ごうおん)()き消えそうな声が零れた。


「──〈フールセルミン〉」


  ──衝撃、その大きな口でシルを呑み込まんとした炎の龍は、しかし直前で動きを止めていた。理由は明白、シルを覆うドーム状の透明な膜の様な壁が、妖しい光を放ち目の前の炎でできた幻獣を押さえている。()く言うシルは、眼前に迫る不可避(ふかひ)の魔獣と灼熱の熱風を、まるでそよ風かの如く涼しい顔で受け流す。


  意思のない筈の実体を持たぬ火炎の龍が、憤怒(ふんぬ)した様に纏う炎を大きくして押し込む。──が、光のバリアは微動だにせずに鎮座する。やがて、火炎の龍は己の重圧に耐えきれずに自らの頭を潰した。だが、その勢いは止まらない。頭が潰れたことを切っ掛けに、次から次へと炎が波となって光の壁に押し寄せる。二つの矛と盾がぶつかり、衝突面から出た赤い閃光が辺りを包む。光線にも似た巨大な炎が、裂かれるように中心から幾つかに分けられ通過して行き、(くれない)のレーザーとなって壁や床に降りかかる。超高温であるが故に、爆発も発火も起こさず、ただ触れた全てを(えぐ)り溶かす。


  数秒、されど永遠と感じる程の濃密な時の果てに、シルは一歩も動かずに上級魔法〈インフェルノ・ドラグニル〉を受けきってみせた。

  書庫の至る所に残る戦いの爪痕と立ち上る煙が、その激闘の壮絶さを伝えていた。


「なかなかやるようですね、シルヴィアさん」

「あんな・・・・・・()()()()が・・・・・・奥の、手?・・・・・・ふふっ、笑わせる」

「あらあら、そんな訳ないじゃないですか。()()()()で勝ったつもりとは、貴方は何処までも小物ですねぇ」


  上級魔法を〝弱い〟と断じる二人が、沈んだ空気に再度火をつける。そしてその矛先は、戦いとは全く別の方向へ向けられる。


「蒼流・・・・・・どっちの方が・・・・・・強いと、思う──?」

「蒼流様、この貧乳と私、どちらのほうが強いとお考えで?」


  即ち、主人公(そうりゆう)である。────しかし、肝心の蒼流の姿が見当たらない。首を傾げ視線を巡らす二人、そしてその姿をほぼ同時に捉える。


「「・・・・・・・・・・・・あ」」


  そこには、崩れ落ちたのであろう数多(あまた)の書物に埋もれ、白目をむいて倒れる勇者の姿があった。














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