1-5
「「ポカ~ン……」」
「……声に出てますよ」
「「っは!?」」
仲いいなこの人達……。
「ごほん、失礼したのじゃ。それで……そなたは【金色の狂戦士】で間違いないかの?」
「「金色の狂戦士?」」
姉を見ながらそういった。なにそのやばそうな二つ名……。
「あ~……そんな風に呼ばれてたかしら」
「なにやらかしたんだよ姉さん……」
「何もしてないわよ?……多分。いつから呼ばれはじめたのかわからないのよねぇ」
「たしか仮イベントのサバイバルイベントの後だったと思うのです!紅く光る目と合ったら最後、いつの間にか目の前に現れて気づいたら倒されていた、と掲示板で騒がれていたのです!」
うわぁ……。襲われた人はトラウマものだな。
「ちなみに我もやられたのじゃ!」
「……ああ!あのときの「我はメノウ!そなたに~~~」とかなんとか言ってた人ね。思い出したわ!」
「おお!覚えていたか!」
名乗り上げとか……どこの戦国武将だよ。
『グギャッ、グギャッ!』
「うおっ!?ホブゴブリンか」
声がしたところには3匹のホブゴブリンがいた。
が、俺たちが驚いている間にマヤが速攻でボコボコにし、塵となっていた。
「ふぅ~……ここにいたらゆっくりとお話しできないし、いったん町に戻りましょう」
「「「「了解 (です)(なのじゃ)(なのです)!」」」」
町に戻るまでに、二人のことをいろいろと聞いた。のじゃロリ犬人族の魔法師、メノウと、なのです兎人族の神官、リーゼはお互いにリアルで友達で、この春高校二年生になる一つ上の先輩らしい。それを知り、敬語で話したのだがゲームの中では敬語は不要と断られてしまった。
メノウさんの口調について聞いてみたが、やはりロールプレイらしく、リアルでは普通に喋るらしい。まあ当たり前だよな……リアルでこんな喋り方の知り合いがいたらちょっといやだ。
「そうだ!二人ともうちの固定パーティー入らない?歓迎するわよ!」
唐突に姉が二人を勧誘しだした。
「おいおい、急すぎるだろ姉さん?相手のことも感がえ……」
「「いえ、是非お願いする(のじゃ)(のです)!」」
「よし!決まりね!」
どうやら心配は杞憂だったようで、二人とも即決で誘いを了承した。どうやら二人とも容姿がよく、βテスターだったこともあり町での勧誘が鬱陶しかったようだ。
「これで5人揃いましたね」
「だな。ジョブのバランス最悪だけどな」
「確かに、魔法師3人に神官2人ですもんね。見事に偏ってます」
「でも、私とヨシノは前衛だからパーティーとしては何も問題ないわよ。リーゼもバッファー志望みたいだし!」
バッファーというのは神官からの派生ジョブである付与魔術師のことだ。STRとINTを上昇させるアタックエンハンスや、VITとMNDを上昇させるディフェンスエンハンスなどの付与魔法を得意とする上級ジョブだ。もちろん神官の得意な回復魔法や光魔法も若干劣るが使用できる。
「しかも全員獣人ね!」
「もふもふパーティーなのです!」
「もふもふは正義だ」
「正義ですね」
「正義なのじゃ」
「うんうん、みんなわかってるじゃない!」
今ここに志しを同じくした者たちが集結したのだった。いいよねもふもふ。
「あ、そういえばパーティー名は何にするのじゃ?」
「はいはいはい!ケモノフレ○ズ!」
「アウト」
「アウトです」
「アウトなのです」
「アウトなのじゃ」
なんか姉さんがとんでもない名前にしようとしている。それはダメだ。絶対ダメなやつだ。
「ええ~、いいじゃないケモノフ○ンズ!このパーティーにぴったりじゃない!」
「ダメなものはダメだ。諦めろ」
「ちぇ~」
「誰か他に案はないか?」
「う~む……」
「う~ん……ケモナーズなんてどうですか?」
「「「「捻りがない(わ)(のです)(のじゃ)!」」」」
「ぐふぅ……じゃあヨシノちゃんが考えてください!!」
「え、俺!?う~ん……あっ、【春風】なんてどうだ?」
「……今風が吹いたからじゃないでしょうね?」
エスパーですかあなたは。
「まあいいんじゃないですか?」
「いいんじゃないかの?」
「いいと思うのです!」
他に案もなさそうなのでパーティー名は【春風】に決定した。
~ オウカの町 ~
町に着いた俺たちはお互いにフレンドになり、20:00に集まる約束をして、宿を取ってログアウトした。視界が現実に戻されていく。
「ん、ん~~~!……はぁ」
体を起こし、手を上に上げて伸びをする。長時間潜っていたのにほとんど疲れがない。これならこのゲーム続けられそうだ。
「よ~し~と~ちゃ~ん!ご飯作って~~~!」
ストレッチしていると1階のリビングから姉の晩ご飯催促が聞こえてきた。
「はいはい今から作りますよっと……」
階段を降り、リビングに行くと、姉がグデ~とだらしなくソファに寝転がっていた。
「芳人ちゃ~ん、晩ご飯な~に?」
「クリームシチュー」
「ひゃっほ~い!くりぃむしちゅぅだぁ~!」
「……すぐ作るからおとなしく待っててくれ」
今日の献立を聞いて手足をばたつかせ、喜びをあらわにする姉。小学生か!と突っ込んでやりたいところなのだが、遅いとまたうるさくなるのでさっさと作ってしまおう……。
シチューを食べ終えた俺たちは、20:00までまだ1時間ほどあるので、先にログインしてレベル上げをすることにした。あまり遠くに行く時間はないので、昼に行かなかった南に行く。
「そうだ!このままじゃ簡単すぎてただの作業になりそうだし、どうせならどっちが多く狩れるか勝負しない?」
唐突にそう言ってきた。まあ姉はいつでもこんな感じだが……。しかし、姉の言うことも一理ある、というか全理あるので提案に乗ることにする。魔法でワンパンしてるだけとかつまらんからな。
「オッケー、ルールはどうする?」
「19:40までにどっちが多く経験値を獲得できるかよ!ただしここのエリアⅠのみで狩りを行うこと!時間になったら連絡するから手を止めるように!……やっぱりヨシノちゃんがやって」
「はいはい了解」
時間に無頓着な姉がそんなこと出来ると思えないので素直に了承しておく。
このゲームのパーティーにおける個人の獲得経験値の割合は、自身のレベルに応じた量になる。例えば3人パーティーでレベルがそれぞれ15、15、11だったとすると、獲得できる経験値はそれぞれ15:15:11となる。このシステムだとパーティーに入るだけで何もしない、いわゆる寄生をする人たちが出てくるのだが、これはGMコールをすれば審査してくれて、あからさまな迷惑行為だと認められれば一定期間のアカウント停止が施される。
まあ、つまり何が言いたいかというと、俺と姉はゲーム開始からパーティーを組んでずっと一緒の敵を狩っているためレベルも経験値も一緒なのだ。なのでこの勝負は単純に、終了までにどちらがレベルが高いかで判断できるわけだ。
「よ~し!それじゃあ、パーティーの解散がスタートの合図ね!」
「わかった」
「じゃあ行くわよ、スタート!!」
姉がそう言うと同時にお互いに反対方向に駆け出す。このゲームはスタミナという概念がなく、永遠に疲れることなく走り続けられる。ただし、他のゲームなどにある速度補正のステータスがないため、移動速度は基本的に現実の自分の早さと一緒になる。"基本的に"というのは、STRの値によっての補正があったり、APを消費しながら通常より速く走り続けられる無所属スキルが存在するからだ。ちなみに俺のSTRは今117だが、体感現実の1.1倍ほどの速度で走れている。大体100につき、0.1倍分上乗せされているのかな?
「やあぁ!」
「はあぁ!」
「ウォーターボール!」
一体につき二発ずつ杖で殴ってMPを回復しつつ倒し、もう一体にロックラットの弱点属性の水魔法、ウォーターボールを撃ち込みワンパンする。殴るとMPを回復できるのは杖の効果で、初期装備なら一回で2MP回復できる。初級魔法のボール系の消費MPは4なのでプラスマイナスゼロだ。もちろんこの杖は初期装備なので、いい杖はもっと効果が高い。
「ハァ……疲れを感じないはずなのにしんどい」
やはりゲームであっても勝負であっても、単純作業は疲れるものだ……。
「おお!?ラッキー!また来たか」
終了時間間際に、レアエネミーのロックゴーレムを発見した。しかも3体一緒に!時間もちょうどいいしこいつらを倒せば終わりになるだろう。
「ウォーターボール、ウォーターボール、ウォーターボール!」
ゴーレムから見て見えない位置から一体に向かって弱点属性の水魔法で奇襲し、倒す。すると仲間が倒されたことに気づき他の二体がこちらを向く。
『『ゴオオオォォォ!!』』
「強打!強打!ウォーターボール!」
<体術>のアーツ<跳躍>を使用し、胸の真ん中にあるむき出しのコアに向かって二発<強打>で殴り、とどめにウォーターボールを撃つ。
「残り一体!」
こうなれば楽勝だ。同じように飛んで殴って殴って撃って倒す。
『ゴオォォ……ォォ……』
戦闘が終わり、ピコンッとレベルアップのメッセージボックスが出てくる。
「あぶね、残り20秒じゃん!」
どうやらギリギリで滑り込めたようだ。終了の時間になったので姉にフレンドコールを送る。
「時間になったぞ~」
『はいは~い!じゃあさっきの場所に集合ね!』
「了解」
こうして暇つぶしの勝負を終えたのだった。