2-5
「すまんリーゼ、こっちは持たないかもしれない」
『援軍到着まで後10分くらいなのです。サーヤちゃんを援護に回しますので何とか耐えてほしいのです!サーヤちゃん、お願いするのです!』
『了解です!』
下流側の橋の上で戦闘が始まってから約10分、徐々に劣勢になってきていて戦線もだいぶ押され気味だ。俺も休んでは敵をかき乱してまた休むというサイクルを繰り返して戦闘に参加しているが、押し返すには至っていない。
『マヤちゃんの方は大丈夫なのです?』
『こっちは問題ないわ、優勢よ!』
まあ姉の方は心配いらないだろう。姉は俺みたいに休み休みじゃなくて常に動き回り攻撃し続けられる。MPの回復も杖の通常攻撃頼りに出来るのだ。こんなこと出来る奴は、世界中どこを探しても1人しかいないだろう。
「敵英雄、討ち取ったぞぉぉぉぉぉっ!!」
『うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!』
げっ!?まずい!
「こちらヨシノ、英雄がやられた!戦線崩壊は確実だ」
『あと5分粘れないのですっ!?』
「神官がやられ始めてる。耐えるのは無理だ!」
『……分かったのです。マヤちゃん、そちらには何人くらい敵が来てたのです?』
『ざっと300ってとこかしら』
『となると……ヨシノちゃん、フラッグ奪取に作戦変更なのです!』
「了解!」
橋を渡って流れ込んできた敵の数は80人ほど。そのうちの半分でも本拠点に向かわれたら、確実に防衛不可能だ。そうなる前、こちらが先にフラッグを奪ってやろうという考えだ。俺の足ならば相手より先に本拠点に着く自信がある。問題は敵陣本拠点の防衛人数だが……
『恐らく相手の防衛は10人から20人程度なので、なんとかかいくぐってほしいのです!』
とのことだ。それくらいならなんとかなる……ハズ。……多分。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……8人かな」
木の上をぴょんぴょんして、敵陣の本拠点にたどり着いた。見る限り、表に出ている敵の人数は8人。もう何人かは中にいるのだろう。
「行けそう……かな?」
本拠点の構造は、出入り口が3カ所、そして入ってすぐのロビー中央にフラッグが立てられている。二階には司令室があるが、残念ながら敵陣の司令室には入ることが出来ないようになっている。
「この入り口が薄いな……よし、行くか」
3つの入り口の内、1つだけ見張りが2人のところに向かって駆ける。ある程度入り口に近づいたところで……
「て、敵襲ぅぅぅぅぅっ!!」
気づかれた、がもう遅い。するりと中に入り、中央にあるフラッグに向かって一直線。
「ちぃっ!おい、フラッグを守れ!絶対に盗られるんじゃねぇぞ!!!」
中にいたのは5人だけだった。これなら……!
「レヴィテーション!」
天使ジョブになって習得できるようになった魔法、レヴィテーションを使用する。この魔法は、1秒につき20MP消費して空中を自由に飛べるというものだ。消費MPが大きいため長くは飛んでいられないが、ここぞというときに役に立つ魔法だ。
「なっ!?」
「と、飛んでる!?」
自由に空を飛べるスキルは今のところ発見されていないと思われているので、驚くのも無理のないことだ。
「よっと!」
フェイントを加えつつ敵の間をかいくぐり、フラッグを掴む。
「くそっ!入り口を固めろ!絶対に逃がすなぁ!!!」
敵将の命令で外にいた敵に入り口をふさがれる。しかし、入り口の高さは3m以上あるので……
「上ががら空きだぜ?」
「くそっ!!」
「卑怯だぞ!!」
入り口の上部から脱出して、木々の間に紛れ込む。
後ろから追ってくる気配はあるが、それも徐々に無くなっていった。
「こちらヨシノ、フラッグの回収に成功した!」
『ナイスなのですっ!サーヤちゃん、どの橋から帰るのが一番いいのです?』
『真ん中ですね。敵が一人もいないし、英雄達も戻ってきてますから安全です』
「了解!」
帰りに何度か敵に遭遇したが、逃げに徹して振りまいた。こうして無事、自陣本拠点にフラッグを持ち帰ることが出来て試合終了となった。
よう、俺はドレイク。ギルド"風見鶏"のギルマスだ。公式イベントのギルド対抗戦の午前の部にエントリーして、無事勝利したところだ。今からいつものメンバーと一緒に午後の部の対戦を観戦するつもりだ。
『レディィィィスアァァンジェントルメェェェェェンッ!!!盛り上がってるかぁぁぁぁっ!?』
「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」
お、そろそろ始まるみたいだな。
「モニター映るギルドはどこだろうね?」
「あ、さっき歩いてたら"流星"のギルドメンバーが「俺たちメインモニターに映るんだぜ!」、って言いふらしてたの聞いたわよ」
「然り然り」
どうやら片方のギルドは流星らしい。今注目されてるトップギルドの内の一つだな。
『さあ、午後の部が開始されますよぉ!今回メインモニターに映されることになった運の良いギルドはこの二つ!"流星"と"春風"だぁぁぁぁぁぁ!!』
ざわ……ざわ……
「春風って、あれよね?1位の……」
「……ん、そう」
「然り然り」
"春風"。突如として現れた、ギルドメンバーいっさい不明の最強ギルドだ。恐らくだが、あのローブの集団だ。
周りからは根拠もないのに「チートだ!」「不正だ!」なんだと言われているが、俺はそれでもいいと思っている。なぜなら――
「ドレイク?」
「なにニヤニヤしてんのよ……」
――戦ってみたい。俺より強い奴らと。
俺より強い奴がいる。そう思うだけで自然と口角が上がってしまうのだ。
「楽しみだな。なぁ、皆?」
「……はいはいそうね」
「ハハハ……まあドレイクのこういうところは今に始まったことじゃないよね」
「然り然り」
「……はぁ」
『まもなく試合が開始されます!』
おっと、始まるみたいだ。食い入るようにメインモニターを見つめる。一つでも見逃しのないように……。
試合が終わって、感想を言わせてもらうならば「信じられない」の一言に尽きる。
まず最初、二つの陰が飛び出したかと思うと、とんでもないスピードで木の枝を飛んで川まで下って見せたのだ。このゲームの"素早さ"というのはおおよそ、(現実での早さ)×(STRの100分の1の値)で決まる。このことから俺のSTRを遙かに超えていることが分かる。
次に、本拠点のてっぺんにいた弓使いだ。あれには本当に驚いた。5km以上離れた場所からヘッドショットを連発させたのだ。そして1人につき、たった3発で仕留めていた。撃ち終わった後に休憩を挟んでいたので何らかの固有能力を使っていることが分かったが、それにしても異常な威力だ。
そして最後、メンバーの1人が飛んだのだ。跳んだじゃない、"飛んだ"のだ。それも自由に。そんな魔法、アーツは聞いたことがない。
「す、すごかったね……」
「……ああ」
仲間の言葉に、気の抜けた返事しか出来なかった。
しかし……
「く……ククッ」
「ど、ドレイク?」
これだけの人数に春風の異常性を見られたにもかかわらず、運営は一切手を出してこない。つまり、"本物"だ。
「あ~……しばらくこのままね。放っておきましょう」
「……ん」
「然り然り」
ああ……笑いが止まらない。




