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「出撃なのですっ!」
『うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』
リーゼの命令を合図に、傭兵達が一斉に進軍していく。指揮権持ちの傭兵は高度なAIを持っているので、基本的には指示をせず放置でOKだ。無線機を持たせてあるので、何かあれば連絡が来るだろう。
作戦は待機時間中に話したとおり、傭兵達が橋で敵を食い止めて俺と姉が裏から奇襲して混乱させる。これがうまくいけば敵を袋叩きにして、戦力を大きく減らすことが出来る。もちろん必ずうまくいくわけもないので、その場合は臨機応変に総司令官殿が対応してくれるだろう。
「木の密度が思ってた以上に高いな……」
木と木の間が1mくらいしかない。集団で移動するのは苦労しそうだ。まあ俺は国民的忍者アニメよろしく、木の上をぴょんぴょんしているのであまり気にならないが。
同じような景色が流れること5分ほど、ようやく水の流れる音が聞こえてきた。川の下流に着いたようだ。
『こちらマヤ、川の上流に到着したわ』
「ヨシノも到着したぞ~」
『……早すぎなのです。傭兵達が橋に着くまで後30分はかかるのです』
……どうやら早くに着きすぎたらしい。
『まあいいのです。接敵するまでそこら辺に隠れて待機しておくのです』
「『あいよ~』」
「暇だ」
『暇だわ』
待機ってこんなにつらいものなのかと改めて実感してしまった。
『……ちゃんと周囲を警戒して欲しいのです』
『といわれてもねぇ……』
「来る気配がしない」
『それでもなのですっ!暇かもしれませんがきちん――』
「ちょっと待った!」
……来た、敵だ。
「こちらヨシノ、敵が来たぞ。3人だ」
『こっちにも3人来たわ!』
どうやら相手も上流と下流に人を寄越してきたようだ。まあ俺たちと違って、フラッグ狙いだと思うが……。
『こちらサーヤです。こちらも両方とも確認しました。……ヨシノちゃんの方には奴が来てますね』
『サーヤちゃん、やっちゃってくださいなのですっ!!』
『了解ですっ!』
ちなみに"奴"っていうのは勇者君のことだ。
「待て待て、狙うなら川に入ってからだ。泳ぐときは装備外すだろうし」
『そ、そうですね。ではヨシノちゃん、合図を貰えますか?』
「オーケー」
『私の方はどうすれば良いかしら?』
『サーヤちゃん、上流の方の始末も可能なのです?』
『……恐らく無理ですね。4人なら間違いなく倒せると思いますが』
『ではサーヤちゃんは下流に専念して欲しいのです。マヤちゃんは敵が川から上がって無防備なところを叩いて欲しいのです』
「『了解』」
こうして相談している間に、勇者君一行は装備を外して川に入るところだった。矢の到達時間を考えれば、撃つタイミングは今がベストだな。
「サーヤ、頼む」
『任されました!聖弓化っ!』
サーヤが魔弓フェイルノートの固有能力を発動させた。消費APが200もあるので、一度使うと再使用まで3分20秒かかる。効果時間中は敵に攻撃を当ててもAPが回復しないらしいので、他のアーツと組み合わせるのも難しい。しかしそれでも、攻撃力5倍というのは恐ろしいもので……。
――ヒュンッ
「おぉ~」
ヒュンヒュンと音を立てながら、立て続けに矢が飛来する。
「あ、死んだ」
意識して敵の頭上のゲージを見てみると、3人とも0になっていた。このゲージはプレイヤーにのみにあるもので敵をロックオンしていないと見れない仕様になっている。プレイヤー自体は鑑定できないので、その代わりになるものだ。
多分一人につき3発前後で倒せている。それにもかかわらず、次々に矢が飛んでいく……勇者君の死体に。
『死ねぇ、死ねぇ、死ねぇぇぇっ!!!』
「ちょっ!?」
サーヤさんっ!?
『てぇいっ!てぇぇぇいっ!!』
「やめて、サーヤぁ!とっくに勇者君のライフはゼロよっ!!」
え、古いって?うるさい。
『お~い、こっちも片付いたわよ~』
『ではヨシノちゃんとマヤちゃんは川を渡って、木に隠れながらゆっくり橋に向かってくださいなのです。そろそろ傭兵が橋に着くころなのです』
「『あいあいさ!』」
『サーヤちゃんは引き続き川の監視なのです。……サーヤちゃん?』
『ふ、ふふふ……ざまぁ見やがれ、ですっ!……あはっ、あはははははは』
『さ、サーヤちゃん!?戻ってきてなのですぅ!!』
「お、やってるやってる」
俺が下流側の橋に着くころにはもう戦闘が始まっていた。
「しかし……予想より敵が多いな」
離れた位置から観察して見る限り、200人近く導入してきているみたいだ。大規模ギルドの対抗戦ポイントは500(中規模は7000)しか貰えないはずなので、ギルドメンバー470人の"流星"は今500人前後だと予想出来る。もちろん雇ったのが農民兵ばかりであったならばこの数は妥当かもしれないが、見える範囲では3人ほど上級兵がいるのでその線は薄い。ってことは……
『敵戦力右橋と左橋に集中してるみたいです!』
やっぱりか。
『マヤちゃんの方の橋が若干多いように見えます!』
『了解なのです!中央橋担当の英雄さんは半数を引き連れて上流の橋に向かってほしいのです!残り半数は上級指揮官さん2人が指揮して、下流の橋に向かってほしいのです!』
『『『はっ!!!』』』
『メノウさんはどこなのです?』
『同じく中央におる』
『ではそのまま待機でお願いするのです。中央橋の弓兵隊の指揮権をメノウさんに移すのです』
『了解じゃ!』
『ヨシノちゃんとマヤちゃんは予定通り、敵の混乱を誘ってほしいのです!増援までなんとしても死守なのです!』
「『了解っ!』」
戦況を見る限り良い勝負をしているように見えるが、ちょっとずつ押されているのが分かる。……よし、良い感じに橋に密集しているな。
「跳躍!」
<跳躍>スキルを使用して、敵密集地点のド真ん中に着地する。
「な、なんだぁっ!?」
「敵だぁぁぁ!!」
急に現れた俺に、敵集団が動揺する。
「イグニッション5連打っ!!!」
竜水晶の数珠にあらかじめストックしておいた範囲魔法を5つ分使用する。
「やべ、4つだけでよかったな……」
半径5m以内の敵はストック4つ分で倒れてしまったので1つ無駄にしてしまった。
「敵は一人だ!囲め囲めぇ!!」
「「「おぉぉぉぉっ!!!」」」
いやいや、一人じゃないですけど……。さっきまで戦っていた敵が見えないのかねぇこいつら。
「諸君!我らがヨシノ様が道を切り開いてくださった!一気に攻めるぞ、我に続けぇぇぇっ!!」
『うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』
英雄の指揮に対し、鼓膜がはち切れんばかりの雄叫びを返す傭兵達。これがたった100人によるものなのだから驚きだ。どこから声を出しているのやら……。
「まあとりあえず、適当に暴れるとしますか」
傭兵達の雄叫びに意識を裂かれて俺を注目する敵が少なくなったのを良いことに、敵の密集地帯にガンガン攻め込んでいく。
「イグニッション!」
「っく、このぉぉぉっ!!」
「ちょこまかとしやがって!」
一撃離脱。素早く動き回って敵を攪乱する。足を止めれば集中砲火が待っているので、絶対に止めてはならない。
「イグニッション!」
「おらぁぁぁ、<回転切り>!」
「くっ!」
それでもこれだけの人数を相手にしてしまえば攻撃は当たってしまう。ストック分の魔法も撃ち尽くしたし、HPもそろそろレッドゾーンに入りそうだ。それ以上に問題なのが、ローブの耐久値が限界になりそうなことだ。ローブが壊されれば皆になんて言われるか……。とにかく、ここら辺でいったん離脱するか。
「しばらく任せた!」
「お任せあれっ!」
我らが英雄にバトンタッチして、後方で休憩しつつ予備のローブを取り出して着替える。イグニッションのストックをすることも忘れない。
初手で15人くらい減らすことが出来たがまだまだ敵の数は多い。対してこちらは、いくら神官の傭兵を雇っているとはいえ、敵プレイヤーの数の暴力によって徐々に人数を減らされている。俺が復帰するまでは持ってくれるだろうが……。
「……まずいな」
俺は少しずつ押されている自軍を見て危機感を覚えた。




