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Ancient Alchemist Online  作者: はむだんご
一章
32/39

1-32




「ただいまぁ~……」

「あ、ヨシノちゃん。おかえり~」

「……てん、し?」


 無事に商品を全て売り切り、ノエルちゃんとのお話も終わって拠点に戻ると、そこには天使がいた。別に比喩的な表現ではなく、そのままの意味で。姉の背中には小さくて可愛らしい翼が生えていたのだ。


「お、早速気がついたわね!さっき皆で転職してきたのよ」


 どうやら、俺が売り子をしている間に転職してしまったらしい。


「ちょ、俺だけ除け者かよっ!?……まあいいや、今から行ってくる」

「行ってらっしゃい。……あ、ちょっと待った!」


 拠点の玄関扉を開けようとしたところに待ったの声がかかる。


「そういえば、ヨシノちゃんはイベントの報酬何取るか決めたの?」

「あ~、まだだな。つか、何があるかすら知らない」

「そう。期限は日付が変わるまでだから気をつけなさいよ~」

「ほ~い」


 報酬かぁ……皆はもう選んだのかな?







「お、多すぎる……」


 転職の神殿に向かいメインジョブを天使に、サブジョブを前衛魔術師と料理人に変更して、現在はノエルちゃんと一緒に話をした喫茶店で休んでいる。翼はどうやら任意で消せるらしいので、目立つようなことはないだろう。……いや、ローブを着ている時点でかなり目立っているが、そこは仕方が無い。


 で、何が多いのかというと、イベント報酬の数である。その数、なんと一万以上。画面を上から下までスクロールするのに、全力でやっても三十秒かかるほどだ。


「絞り込み機能があったからよかったものの……なかったらただのいじめだな」


 報酬を受け取るには専用のメダルが必要だ。これは貢献ポイント1000pにつき一枚貰える物と、ランキングの順位に応じて貰える物の二つがある。俺の持っているメダルは全部で156枚だ。使用メダルはぱっと見、多くても100枚なので、欲しいものが手に入らないということはないようだ。


「取りあえず一通り目を通してみよう」


 簡単に言うが、報酬の数は一万以上もある。結局、目を通すだけで一時間かかってしまった。


「欲しいものは結構ある……けどなぁ」


 俺の目の前にある画面にはこう書かれている。


――――――――――――――――――


『イベントメダル専用レアガチャ(1回) : 150枚』


――――――――――――――――――


 そう、ガチャである。このゲームにおいて一般的なソーシャルゲームのような、課金してランダムにアイテムが手に入る、といったガチャ要素はない。いや、なかったと言った方が正しいか。つまりなにが言いたいかというと


「……めっちゃ気になる」


 1回につき150枚で、ぼったくりも良いところだとは分かっている。分かっているつもりだが気になって仕方が無いのだ。ガチャという言葉には、人を惹きつける魅了の魔法がかけられているのだ。


「……後悔はしないっ!」


 メダルとの交換を確定させる。すると、目の前には一つのカードパックのようなものが現れた。


「おぉ~……」


 すぐにでもこのパックを剥いて、中身を確認したい衝動に駆られる。しかし……


「だ、ダメだ俺、落ち着け!帰ってから、帰ってから開けるんだ……っ!」


 こういうものは、欲望のままに開けては良いものは出てこない……と俺は思っている。


「我慢……我慢だ。今は残りの6枚を何に使うかだけを考えよう……」


 パックが視界に入らないようにアイテムボックスに放り込み、引き続き報酬画面を6枚以内という条件で絞り込み、スクロールさせていく。


「さすがに6枚だと良いものはないか……」


 有用なものは大体20枚以上する。6枚以内で、となると大体はそこら辺の店で売ってあるような物ばかりだ。


「……お、これは?」


 目にとまったのはスパイスセットというものだった。胡椒以外の香辛料を売っているお店はまだ見つけていない。その香辛料の詰め合わせがわずか5枚のメダルで手に入るのだ。即決で交換した。


「拠点に戻ったら速攻でカレーを作らなければ……っ!」


 残りの1枚で交換できるものはお金だけだったので、それを選び急いで拠点に戻った。






「ただいま~」

「……お帰りなさい……ヨシノちゃん」

「サ、サーヤ?……どうしたんだ?」


 拠点に帰ってきて玄関扉を開けると、目のハイライトが完全に消えたサーヤが佇んでいた。


「ガチャよ」

「へ?」

「だから、ガチャよ。報酬であったでしょ?」

「あ~……大外れだったとか?」

「いえ、その逆。大当たりも大当たり、なんだけど……」


 姉がサーヤの方に視線を向ける。それをたどってみると……


「……弓か」

「ええ」


 ゲームでまで弓を使いたくないサーヤにとっては、たとえどれほど強力なものだろうと大外れなのだ。


 ちなみに鑑定するとこんな感じだ。



――――――――――――――――――


魔弓フェイルノート(U)▼

禍々しいオーラを放つ漆黒の弓。威力は絶大だが標的に矢を当てることが非常に難しく、扱える者は少ない。

  STR×5.0

固有能力▼

  命中率ダウン(常時発動) : 命中率が下がる

  聖弓化(消費AP : 200) : 20秒間、矢が必ず標的に命中する


――――――――――――――――――



 攻撃力の倍率が異常だが、とにかく扱いづらそうだ。


「サーヤ、元気出せって」

「……はい」


 これはしばらく復帰しそうにないな……。仕方ない、本当はあとでびっくりさせるつもりだったけど……


「サーヤ、ちょっとこっちこい」






「ヨシノちゃん、おかわりっ!!」

「はいはい」


 おかわりするのはもちろんカレーだ。サーヤの機嫌を直すには、やっぱり餌付けが一番だねっ!


「ヨシノちゃん……今何か失礼なこと考えていませんでしたか?」

「そ、そんなこと考えてないぞっ」


 ……女の勘は恐ろしいものだ。


 この後続くおかわりラッシュに答えるために、追加のカレーを作っていると……


「……あの、ヨシノちゃん」

「ん~?どうした?」

「私が、弓を使ったら……ヨシノちゃんはうれしいですか?」


 唐突にそんなことを聞いてきた。驚いて振り返ると、スプーンを置いてまっすぐにこちらを見つめるサーヤがいた。


「……無理する必要はないぞ。それに回復役はどうするんだ?」


 視線を手元の鍋に戻し、焦げないように混ぜる。


「今までの戦いを見ていると、二人も必要ないことくらい分かってますよね?」

「……」


 確かに、回復役が二人いてよかったと思えたのは、俺がポカをやらかした時ぐらいのものだ。


「それと、うれしいかどうかを聞いているんですよ?うれしいのかうれしくないのか、どっちなんですか?」

「……それはまあ、遠距離で攻撃してくれる人が増えたら、うれしいよ。基本的にメノウだけだしね」

「そうですか」

「……本当に無理する必要はないぞ?ゲームなんだから、楽しまないと」

「いいえ。私は、ヨシノちゃんの役に立てることがうれしいんです。だからヨシノちゃんのためになるなら嫌だなんてこれっぽっちも思いません」

「……」


 うれしいのやら恥ずかしいのやら、どう反応すれば良いのか分からなくなり、それ以降は会話もなくただただ無心にカレーを作り続けた。




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