1-3
「そろそろ始まるわね……」
「そうだな」
そう言ってそわそわしている姉。現在12:50、サービス開始まであと10分。昼食も食べ終え準備万端だ。
「ログインしたら最初に何するんだ?」
「そうねぇ……とりあえず綾ちゃんと合流して必要なもの買って、そしたら南門出てロックラット狩りかしら?」
「ロックラット?」
「そうそう、私たち魔法師だからわりと簡単に倒せるのよ。物理攻撃はほとんど効かないけど魔法に弱いの。あと経験値も序盤で一番高いわね」
「なるほどなー」
いろいろと話していたら13:00まであと1分ほどとなっていた。
「おっと、もう始まるし部屋に戻りましょう」
「あいよ」
部屋に戻り、ゲームギアを起動する。そして13:00になったところで……
「ダイヴイン!」
真っ白な光が視界を埋め尽くし、光が収まると見知らぬ広場に昨日作った女の子アバターで立っていた。
『プレイヤー : ヨシノ のログインを確認しました。累積経験値の確認を開始します。』
「うおっ!?」
突然頭の中に響く無機質な女性のような声に驚く。しかし、累積経験値って何だ?βの特典かなにかか……?
『累積経験値の存在を確認しました。これより累積経験値の消費をはじめます。』
30秒ほど経ち、そう聞こえると同時に、ピコンピコンとうるさいぐらい鳴り響きながら視界がメッセージボックスで埋め尽くされる。
「な……なんじゃこりゃ……」
突如視界に現れた様々なメッセージボックスに驚き、そんな言葉がこぼれ落ちた。とにかく前が見えづらいので、全部消えろ、と念じる。すると視界を邪魔していたメッセージボックスがすべて消え、すっきりとした。
「何だったんだ今の……」
経験値と言うくらいだからステータス画面を見ればわかるだろう。
「"ステータスオープン"」
――――――――――――――――――
名前 : ヨシノ
種族 : 狐人族
性別 : 女
ジョブ1(メイン) : 魔法師 Lv.1/30
ジョブ2(サブ) : ※未解放
ジョブ3(サブ) : ※未解放
アーツ : <強打><ステップ><跳躍><ステップ・上><跳躍・上><ステップ・マスター><強拳><強蹴><強拳・上><強蹴・上><強拳・マスター><強蹴・マスター>
魔法 : なし
スキル : <杖術 Lv.1/30><体術><体術・上><体術・マスター Lv.21/90><格闘術><格闘術・上><格闘術・マスター><家事>
SP : 9
加護 : なし
称号 : 体術上級者 ・ 格闘上級者 ・ 格闘マスター ・ スーパーメイド
HP : 220/220
MP : 30/30
AP : 240/240
STR : 83
VIT : 31
INT : 14
MND : 12
――――――――――――――――――
「…………………………ふぁっ!?」
いやいやいやいやまてまてまてまて!!はい!?なんじゃこりゃ!?と、取りあえず落ち着け俺。深呼吸だ!ひっひっふ~、ひっひっふ~……よし。これってつまり……
「現実での経験を反映してるのか……?いや、それしか考えらんないよな」
どう考えても魔法師のステータスじゃない。ていうかスーパーメイドって何だ。ステータスが増えてるのはどうやら称号のおかげらしい。体術上級者が AP+10 HP+50 VIT+25、格闘上級者が AP+10 HP+50 STR+25、格闘マスターが AP+20 HP+100 STR+50となっている。スーパーメイドは料理のバフ効果がアップするらしい。
まあいいや、取りあえず二人と合流しよう。メニュー画面からこの町《オウカの町》の地図を呼び出す。
「二人はどこかなっと……お、いたいた」
どうやら二人は一緒にこことは別の噴水公園にいるらしい。ちなみに事前にフレンドになっているため同じ町にいればお互いの位置を把握できるのだ。もちろん現在地知られたくない場合は設定をいじればいい。が、今は全然問題ないので放っておく。
噴水公園に着くと隅の方のベンチに腰をかけている二人の少女を見つけた。片方は黒い耳としっぽを持つ猫人族で、もう片方は金色の耳としっぽの狐人族だ。
「おーい!」
「あ、遅いわよ芳人ちゃん!……ん?あれ、胸?女の子??」
「あ~、えっと、どうやら女性に間違えられたみたいで……」
「……っぷ、あっはっはっは!!」
「笑うな!ったく……ていうか姉さん、リアルネームで呼ぶのはさすがにまずいだろ」
「あ、そうだったわね……ぶふぉっ」
「……」
うむ……こうなることは予想していたが面と向かってやられると腹が立つな。
「…………」
「ん?え~っと……サーヤ?」
「……か」
「か?」
「かわいいいいいぃぃぃぃぃ!!!!」
「うおっ」
ひしぃっ、とサーヤに抱きつかれる。あの、お、お胸様が……
「かわいいかわいいかわいいかわいいかわいいぃぃぃ!」
「ちょっ、わぷ……モガモガッ…!」
い、息が出来ん……!こんなとこも再現されてるのか。あれ?ちょっ、HPがちょっとずつ減ってるんですけど!?1秒につき10も減ってるんですけどぉ!?これ強化されてなかったら2秒で死んでるんですけどぉぉ!?サーヤの背中を全力でタップする。
「っは!……あ、あはは。ごめんなさい芳人君……じゃなくてヨシノちゃん」
「ぷはぁ。し、死ぬかと思った」
「あ~、えっとですね……よ、ヨシノちゃんが可愛すぎるのがいけないんですよ!」
「あれ?俺のせい!?」
どうやら俺のせいらしい。
「おや、ヨシノちゃんってば狐人族とは。わかってるじゃない!」
「うむ、もふもふは正義だ」
ちなみに、姉のマヤは白い服に赤いひものついた一般的な(?)巫女服を着た金狐だ。背も顔も俺とほぼ一緒だ。やはり双子は考えることが似てるらしい。巫女服はおそらくβテストの特典だろう。たしかレア度5以下のアイテムを10個だけ持ってこれるんだったかな?もう一方、サーヤは初期装備の神官服を着た黒猫だ。背は現実より伸びていて160cmほどだ。現実だと俺より小さいから限界まで伸ばしたんじゃないかな?
「あ、そういえば二人とも。累積経験値もらった?」
「あ~、私ももらったわよ。βテストにはなかったけど、周りの人はちらほらもらってるみたいよ。掲示板に書き込んでる人がいるみたいね」
「私も少しだけですが」
二人ももらっていたらしい。周りの話を注意して聞いてみると、どうやらその話で持ちきりのようだ。スキルもらったとかもらってないとか言ってる。ただ、掲示板を見る限り、スキルをもらった人でも初級スキル("上"や"マスター"でないスキル)ばかりらしい。上級スキル以上は話題に上がっていない。
「二人は上級以上のスキルもらった?」
「私はもらえませんでした……」
「私はマスタースキルももらったわよ!」
どうやらサーヤはもらえなかったらしい。姉は突っ込まない。俺がマスタースキルを持っているんだから姉ももらっているに決まってる。
「どんなスキルだった?」
「私は<遠視 Lv.3/30>と<詠唱 Lv.6/30>と<弓術 Lv.17/30>をもらいました」
「私は<体術>と<格闘術>のマスターまでと<詠唱・マスター>ね。すべてカンストしているわ!」
「なるほどなぁ」
やはり現実での経験が元になっているみたいだ。詠唱系は賢さから来ているんだろう。……どうせ俺の頭は普通ですよ。サーヤは視力が両目とも1.8あり、弓道の経験者だ。中学の時は弓道部に入っていて全国大会に出たことがあり、結構いいところまでいったらしい。そう考えるとやはり姉は規格外だなぁと思う。……あれ、もしかして俺も同類?……いやいやそんなまさか。
「ヨシノちゃんはどうでしたか?」
「え、え~っと……<格闘術・マスター>と<家事>がカンストしてて、あとは<体術・マスター Lv.21/90>だな」
「……さすが米蔵姉弟ですね」
……どうやら同類らしい。
「それで、どうするんだ?予定通り買い物して南に向かうか?」
「うーん……多分このあたりじゃ物足りないと思うわ。まあ取りあえず必要なものを買いましょう」
「「了解 (です)」」
今俺たちは町(ぶっちゃけ都市)の外れにあるという隠れた魔法師の店に向かっている。かなり遠い……。
「あ、そうだ二人とも。これあげるわ!しばらくは便利よ」
そう言って取り出したのはマヤとお揃いの巫女服だった。
ピコンッ
――――――――――――――――――
マヤ からプレゼントが届きました。
巫女の服セット【上・下・靴】(☆☆☆☆)▼
MP +10
VIT +10
MND +15
装備条件 : なし
強化 : 不可
進化 : 不可
受け取りますか? Yes/No
――――――――――――――――――
「結構強いな」
「ええ、ただし強化も進化も出来ないから序盤しか使えないけどね。もともとコスプレ用だし」
「こ、コスプレ用……ですか」
取りあえずYesを押して受け取り、装備する。まあ姫プにはコスプレは欠かせないし持っていても腐ることはないだろう。気が利くじゃないか姉さん、くっくっく……
「……ヨシノちゃんが邪悪な笑みを浮かべています」
「き、気のせいじゃないか?」
気のせいに決まってるだろ?……ホントダヨ?
ステータスはかなり適当なので参考程度に……