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「なんちゃって、ってなんだよ!?」
「どこが神の試練なのよっ!!」
「そうじゃそうじゃ!」
最終試練があまりに簡単すぎて拍子抜けした俺たちは、ガロアとかいう紛い物守護天使に対しての愚痴をこぼしていた。
「そんなことはどうでも良いですよ」
「「「どうでもっ!?」」」
「ええ、そんなことよりも天使ですよ!天使っ!!ヨシノちゃんに羽が……ふへっ、ふへへ」
「ヨシノちゃんに……天使の羽、なのですっ!?(ゴクッ)」
サーヤとリーゼがなにやら妄想に浸っているようだ……。
にしても、天使かぁ。空を自由に飛べたりするんだろうか?まああの残念天使を見た後だと、あまり期待は出来ないかもしれない。
「まあその辺は帰ってから確かめればいいじゃろう。上級ジョブらしいし、転職してみるのがよかろう」
「さあ帰りましょう今すぐ帰りましょう!」
「なのです!」
メノウの言葉を聞いたサーヤとリーゼが、帰りたい宣言をしだした。
「落ち着けって!まだこの部屋の探索もしてないのに帰れるわけないだろ?」
「「あ」」
こいつら、絶対忘れてただろ……!
「さ、さあ!早く探索しちゃいましょうっ!」
「な、なのですっ!」
「……」
「この扉以外は何もなかったのか?」
「私の探した限りではなかったわね」
「「「同じく」」」
部屋の中を探索すること20分ほど、見つけることが出来たそれらしい物は、一つの扉のみだった。
「取りあえず入ってみましょ」
「そうだな」
扉をあけて中に入ると、さび付いた武具や、中身の分からない木箱が乱雑に置いてあった。かなり広そうだな。
「武器庫か……」
「おお、これはお宝のにおいが……っ!」
「ちょ、メノウっ!?」
そういって我先にと駆けていってしまった。
「……放っておくのです」
「い、いいのか?」
「どうせそのうち戻ってくるのです」
さいですか。
「それじゃあ私たちも宝探しと行きますか!」
ピコンッ
――――――――――――――――――
アイテム : エンジェルリング(☆☆☆☆☆☆☆)を獲得しました▼
下級天使の証。天使の羽を形取っている。
INT+40
MND+15
消費MP : 4/5
装備条件 : メインおよびサブジョブが天使系ジョブ
――――――――――――――――――
「お、これはいいな」
といいつつ、このアイテムを拾ったのはもう三回目である。おそらくレアアイテムなのだろうが、出来れば皆の分も拾っておきたいところだ。
「お、こっちにもあるな」
しめしめ。これで四つ目だ。
「あっとひっとつ、あっとひっとつ」
ふんふん、と上機嫌に鼻歌を歌いながら辺りを見渡す。こういうときに発見スキルがあるとないとでは、やはり効率が違ってくるのだろうか。光っている場所を探すだけで良いというのはずいぶんと楽なものだ。
「そこか」
ピコンッ
――――――――――――――――――
アイテム : セラフィムリング(U)を獲得しました▼
最上級天使の証。三対の羽を形取っている。
INT×1.5
MND×1.2
消費MP : 1/2
装備条件 : メインおよびサブジョブが熾天使ジョブ
――――――――――――――――――
「……」
待って、ものすごく待って?……え、何コレ、マジヤバくね?
「つか、ユニークアイテムって拾えるのかよっ!?」
……皆には黙っておこう、うん。
「ん?」
セラフィムリングとか言うぶっ壊れアイテムを拾ってから一時間ほど、何もない壁に発見スキルが反応を示していた。
「……回転扉か」
壁に触れてみると、忍者屋敷によくありそうな回転式の隠し扉があった。
「さすがに皆を呼んだ方が良いかな?」
というわけでメールで一言断ってから、コールを使う。
「誰かに呼び出される感覚って、正直慣れないわね……」
「ただの転移じゃろう……」
分かるぞ、その気持ち。
「……ヨシノちゃん?ちょ~っとお話があるのです」
「な、なんでしょうか?」
いつもより低いトーンで呼びかけられたので、おそるおそる後ろを振り返ると、上機嫌なサーヤと不機嫌そうなリーゼがいた。
「私よりも先にサーヤちゃんを呼んだ理由を聞きたいのです」
「すいませんでしたっ」
やましいことをしたつもりはないが、怒っている相手にはすかさず土下座が効果的だ。
「謝って済むなら警察はいらないのです」
「ですよね」
土下座パワーは皆無だったよ。とほほ
結局、なぜか今度買い物に付き合えば許してくれるらしいので素直に了承しておいた。
「おおっ!まるで忍者屋敷じゃな!」
「早く入りましょう!」
二人ともこういう仕掛けが好きなようで、さっきからはしゃぎまくっている。
回転扉の中に入りしばらくすると、下に降りる階段が現れた。階段を降りた先には重厚な扉があった。
「いかにもって感じね!」
「この先に隠された秘宝がっ!」
隠された秘宝ねぇ……。
「開けるわよ」
そういって姉が扉を開けると、そこにはピンク色の壁が広がっており、ザ・女の子の部屋というような場所だった。そして、その部屋の中央にはいわゆるお姫様ベッドが置いてあり、その上にこの部屋の主らしきピンク髪でツインテールな女の子がこちらを向いていた。
「……」
「「「「「……」」」」」
どうしたら良いか分からず、しばし見つめ合っていると
「……きゅぅ――」
「「「「「あ」」」」」
部屋の主は気絶した。
「え~、ごほん。よく来ました異界の冒険者達よ。私の名はメルリス、女神メルリスです」
「「「「「……」」」」」
あの後、気絶した部屋の主――女神メルリスは起きて、俺たちと視線を交わすたびに、再び気絶した。何回かそれを繰り返した後かろうじて声を聞けたのが、「か、……仮面、を(ガクッ)」という言葉だった。この女神、どうやら視線恐怖症らしい。
仮面を付けても視線は感じるんじゃないのか、と聞くと、相手の目が見えなければ大丈夫らしい。……ローブで隠れていたハズなんだが。
「ここまでたどり着いたあなたたちに……お願いがあります。え~っと……この世界にあるダンジョンを……全て、こう……りゃくして、ください」
「「「「「……」」」」」
……いや、別にお願いされるのはいいんだけど。……取りあえずその右手に持ってるカンペしまえ?
あふれ出るポンコツ感が、いろいろと台無しにしていた。




