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「「……ハァ」」
「……」
――チラ
「「ハァ」」
「だぁぁぁぁぁっ!!悪かったからっ、俺が悪かったからいちいちこっち見て溜息吐くの止めて貰えませんかねぇ!?」
姉とメノウはさっきからずっとこの調子である。
俺たちが赤の塔最上階から逃げ出して拠点に戻ってから約二時間、やっと説教が終わったと思ったら今度は無言で訴えてきた。……気まずい。
「あ、説教は終わりましたか?」
「なのです?」
気まずい雰囲気の中、サーヤとリーゼが帰ってきた。この二人は姉とメノウによる説教が始まると同時に危険を感じて、「「わ、私は補充する商品の生産をしてきますね(くるのです)!」」と言って生産施設に逃げた。……逃げてないで助けて欲しかったです、はい。
「まあこれ以上何を言っても仕方ないしのぅ、それより今後のことを話そうではないか」
「それもそうね」
「幸い、まだ正体がばれているのはヨシノだけじゃしの」
どうやらお許しいただけたらしい。
「今後と言っても、今まで通りじゃダメなんですか?」
「ダメに決まっておろう。まずローブの改良は最優先じゃな、変声機能を付けなければならぬ」
「それは出来るから良いけど、問題は外見よねぇ」
「なのです」
ボイスチェンジャーの機能は付けることが出来るらしいが、身長が高く見えたり耳の形が違って見えたりするような外見に関わる機能はレベルが足りず、まだ付与できないらしい。これらの機能が無ければまた特定されてしまうだろう。まあもしその機能があっても、五人のうちの誰かが俺であることは知られているだろうが……。
「う~ん、身長は靴底を上げれば解決するんだけど……」
「ユニーク装備ですから、難しいですねぇ。いちいち着脱するのも面倒くさいですし」
「まあ一応解決策があるだけでもマシじゃろう。問題は耳じゃな」
ローブの上からでも分かる狐耳。これだけはどうしようもない。
「フードの中に帽子をかぶるのはどうなのです?」
「ダメね、耳はすり抜けちゃうから意味ないわ」
「えっ、そうなのです!?」
初耳だわ……。いや、帽子をかぶる機会なんてなかったから当たり前だけど。
「まあ耳の形が分かってしまうのは仕方あるまい」
「ですね」
「んじゃ、ローブ作ってくるわね。昼までには出来ると思うわ」
「よろしく頼む。それじゃあ待っている間、我らも補充する商品でも作っておくとしようかの」
「だな」
~ エリアⅡ(森林) ~
「ここが黄の塔ね」
「噂には聞いていたが、ずいぶんと人気がないな」
昼過ぎ、俺たちは姉が作った新しいローブを着て、王都とオウカの町の間にある黄の塔に来ていた。
「まあここは王都からもオウカからも遠いから後回しにしている人が多いんじゃない?」
「確かに遠かったのです……」
「ここに来るまで二時間じゃからのぅ。いい加減足になる物が欲しいところじゃ」
「足になる物っていうと、やっぱり馬とか?」
「うむ、馬の他に飛竜なんかもあるのじゃ」
飛竜かぁ……。振り落とされて自由落下する未来しか見えないから遠慮したいところだ。
「ほら、さっさと入るわよ!」
「はいはい」
~ ダンジョン・黄の塔(13F) ~
「おっそろしいくらいスムーズに来たな……」
「最速タイム更新なのです」
現在黄の塔のボス部屋前。なんとここまで四時間かかっていない。というのも、このダンジョンで出てくるモンスター、ロックゴーレムはリザードマン以上にMNDが低く、俺たちのレベルであればボール魔法一発で倒せてしまうのだ。ちなみに土属性の弱点が風属性ではなく水属性だと勘違いをしていたせいで、皆がウィンドーボールを放つ中、俺だけウォーターボールを撃ってしまったという恥ずかしい出来事はここだけの秘密である。
「よ~し、さっさとボス倒しちゃいましょ!」
「「「「応!」」」」
――ギィィ……
姉が先陣を切り、扉の中へ入っていく。部屋の中は緑の塔の時と同じように真っ暗だった。
「暗いのですぅ……」
「ちょっとリーゼさん、ヨシノちゃんから――」
――バタンッ!!
「「……」」
あの~……腕がミシミシいってるんですが、ちょっと待って!?折れる!折れるぅぅぅぅぅぅ!!
――ボゥッ
「「ひぃっ!?」」
俺たちの背後から火のつく音が聞こえてきた。そして連鎖するように次々に壁の燭台に火が灯り、部屋全体を優しく照らし、明るくなった。
「……あの、そろそろ折れそうなんですが」
「「あっ、す、すいません(ご、ごめんなさいなのです)」」
そう言って二人とも腕から手を離してくれた。危なかった……。
「ん~……ボスがどこにもいないわねぇ」
「だな」
まあ土属性っていうくらいだから、どうせ土の中から出てくるんだろ?
「と見せかけて上だろっ!」
なんたって鳥が土の中から出てきたんだ。いかにも地面から出てきそうだからといって、本当にそうとは――
――ボゴンッ!!
…………わあっ、たかいたか~~~いっ!!!
「結局このパターンかよぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「「「「ヨシノ(ちゃん)っ!?」」」」
正解は土の中でした♪……ふっざけんなぁぁぁぁぁぁ!!!
「ぐぇっ!」
ボスに打ち上げられて、そのまま落下して地面に激突した。
「いってぇ……」
地面がわりとふかふかの土で出来ていて、半分ほどしかHPは減らなかったが、痛い物は痛い。
「ヨシノちゃん、大丈夫ですかっ!?」
「……なんかお約束になってきたわねぇ」
「言わないでくれ……」
『キチキチキチ……』
皆が俺を心配してくれている中、この部屋の主であるボスモンスターがこちらににじり寄ってきていた。
「「き、気持ち悪ぅ!?」」
「わ、我も蜘蛛はちょっと……」
「苦手です……」
「……可愛いのです」
「「「「えっ!?」」」」
全員リーゼの発言に驚き、振り返る。
リーゼさんマジですか!?
「あ、あれが可愛い!?どこが!」
「え~、あのフサフサしててスラッとした足とか、可愛くないのです?」
「「「「ないないないっ!」」」」
どうやらリーゼは、凡人には理解できないようなセンスをお持ちのようだ。
――――――――――――――――――
マッドタランチュラ Lv.54
毛に覆われた巨大な蜘蛛。じめじめした環境を好む。
HP : 2000/2000
MP : 220/220
STR : 147
VIT : 152
INT : 80
MND : 43
――――――――――――――――――
HPは多いが、MNDが低いため魔法主体であればそれほど気にならないだろう。
「とか思っていた時期が俺にもありました」
「喋ってないで手を動かしなさい!」
そんなこと言われても、いくら何でも多すぎるって!
床に埋め尽くされているのはマッドタランチュラの眷属、マッドスパイダーの群れ。その数ざっと千匹以上である。
「イグニッション!イグニッション!イグニッションんんんんっ!!!!」
へ、減らねぇ……。
戦闘開始から約30分、何度範囲魔法を撃っても天井にひっついたマッドタランチュラから眷属がぽんぽんと生み出され、戦闘前と状況が変わっていない。
「おい、全然数減ってる気がしねぇぞ!」
「このままではジリ貧じゃぞ!」
そんなことは分かっている。分かってはいるのだが……。
「何か部屋の中に突破口があるはずだ!それを探すぞ!」
「分かったわ!」
突破口があるかどうかなんて分かるわけがないのだが、これだけ倒しても一向に数が減らないのだから何かあるのではないか?なにかしなければならないのではないか?、と思うのは当然のことだろう。
「ボスを叩こうにも魔法が届かない、眷属も倒したそばから補充される……」
聞いただけでも詰みだろこれ、と思ってしまう。何かないだろうかと、もはや作業となりつつある範囲魔法を一定のリズムで放ちながら周囲を見渡す。
「……ん?」
部屋の隅の方、そこだけぽっかりと穴があいたようにマッドスパイダーがおらず、直径2mほど茶色い地面が見えていた。
「……何かあるのか?」
マッドスパイダーが避けている場所に行き、そこを踏むと……
――カチッ
「スイッチ?……ん?今ちょっとだけ揺れたような……」
……揺れた?……っ!そうか!
改めて部屋全体を見渡す。すると、部屋の他の四隅にも同じようにマッドスパイダーが避けている場所があった。
「みんな!部屋の隅、雑魚がいない場所にスイッチがある!それを同時に押せ!」
それを聞いて、他の四人がそれぞれスイッチを押すと……
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
『キチキチキチッ!?』
部屋全体が立っていられないほど大きく揺れ出した。マッドタランチュラも耐えることが出来なかったようで、天井から地面に落ちてきた。
「……フルボッコじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「「「「おぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」
その言葉を合図に、今までの鬱憤を晴らすかのように元凶であるボスに殴りにかかっていった。
ある程度時間が経つとボスも体勢を立て直して再び天井に逃げていったが、攻略法さえ分かってしまえばこっちの物。ボスを天井から引きはがすこと三回、ついにマッドタランチュラを討伐することに成功した。




