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~ エリアⅢ(森) ~
「まさか一日で売り切るとは思わなかったわ……」
「意外と簡単だったぞ?」
生産した商品すべてを見事完売させたその翌日、俺たちは今最もプレイヤーがいると言われている赤の塔に向かっている(俺たちの拠点がある森にある)。俺が売り子をしている間に十階層まで進んだらしく、今日はその続きから攻略を再開するのだ。ちなみに階層登録はパーティーメンバーの中で最も進んでいるプレイヤーの階層まで転移できるようになっているので、階層登録をしていない俺でも十階層にいける。
「いったいどんな手を使ったのじゃ?」
「……秘密で」
風見鶏のギルドと関係を持ったことを知られたら「なぜそんな正体がばれるかもしれぬような危険なことをしたのじゃ!!」とか言われそうな気がするので黙っておくことにしよう。……うん、言われる。絶対。
「ふふん、そんなのヨシノちゃんが可愛いからに決まってるじゃないですか!」
「珍しく意見が合うのです」
「……まあそういうことにしておくのじゃ」
取りあえずは納得してくれたようだ。……すぐにばれそうな気もするが。
「着いたわよ!」
「うわぁ、人多いな……」
「昨日はもっと多かったのです」
「そうなのか……」
にしても、俺たち目立ってるなぁ……。みんなこっち見てる。
「話しかけられるのもやっかいじゃし、さっさと中に入るのじゃ」
「そうね」
みんなの注目を余所に、俺たちはスタコラと塔の中に入っていき、十階層へ転移する。
~ ダンジョン・赤の塔(10F) ~
「ふう、さすがにここまでこれる奴はそうそうおらんじゃろう」
「今の最高階層ってどこなんだ?」
「青の塔は十一階層、黄の塔は十階層。赤の塔は十三階層のボス部屋まで行った奴らはおるらしいぞ。まあその後ボコボコにされて帰ったらしいがな」
「まだボスを討伐した人達はいないのか」
「ええ。この感じだと、イベント中になんとか討伐できそうっていうパーティーはトップギルドの二つぐらいかしらねぇ……」
「じゃな、今でもどちらが先に赤の塔のボスを討伐するかで賭けが行われておるらしいぞ」
「マジか……」
やっぱり有名なギルドとなると、こういったこともあるんだなぁ。
『『シャァァァァァッ!!』』
「敵が来ましたね」
「赤の塔の敵はリザードマンか……」
目の前に現れたのは槍と盾を持った二体のリザードマンだった。ちなみに鑑定結果はこんな感じだ。
――――――――――――――――――
レッドリザードマン Lv.42
暑い環境を好み、適応したリザードマン。武器を使用するだけの知力がある。
HP : 200/200
MP : 20/20
STR : 153
VIT : 127
INT : 56
MND : 51
――――――――――――――――――
MNDがかなり低いので、今の俺たちのレベルであればウォーターボール二発ほどで倒すことが出来る。
『『―――ァァァァ……』』
「このあたりじゃ手応えなさ過ぎるわねぇ……」
「仕方あるまい、まあ最上階のボスに期待じゃな」
「そうね、それなら最上階さっさと行くわよ!」
「「「「応!」」」」
~ ダンジョン・赤の塔(13F) ~
「「げっ」」
「ちょっとこれはまずいですね……」
「なのです……」
敵のリザードマンも俺たちの敵ではなく、スムーズに最上階まで上がってこれたまではよかったのだが……。
「あれはあのときの……」
「ああ、風見鶏の人たちだな。他の人たちは見たことないけど……」
そう、ボス部屋の前に先客がいたのだ。普通のプレイヤー達であれば問題はないのだが、今回は訳が違う。風見鶏のパーティーには、王都解放イベント初クリアの直後に俺たちの姿を目撃されている。そのため、NPC進入不可であるダンジョンの中で会ってしまうと問い詰められること間違いなしである。
「う~む、階層登録出来る転移ポータルまであと少しなんじゃがのぅ……」
「そこまで行っちゃうと必ず見られるのです」
「面倒くさいわねぇ、いっそこのまま行っちゃう?」
「ま、待つのじゃマヤよ!早まってはならぬ!十二階層の転移ポータルに戻るのもありじゃぞ!?」
「嫌よ、せっかくここまで来たのに。……あ、そうだわ!みんなローブを脱げばいいのよ!」
ん?ローブを脱ぐ?……マジで?
「い、いやしかしそれでは……いや、ありかもしれんのぅ」
「え、ちょっ、メノウさん!?」
ま、まずい……、風見鶏の人たちに顔見られてるなんて知られたら……!と、止めなければっ!!
「お、落ち着け二人とも!ここで顔を見せるのは危険だ!」
「問題ないわ、私たちとローブの連中が同一人物だってばれなければ良いのよ」
「うむ。むしろ適当に手を抜いてボスに負けておけば、特定される可能性も低くなるじゃろうしな」
「いやいやいや!確かにそうだけど、イベント三日目で十三階層に来てる時点でその可能性はほとんど無いって!しかも姉さんの顔を見られたら、「ああ金色の狂戦士がいるパーティーなら、解放イベント俺たちがクリアする前に終わっててもおかしくはないな」なんて思われるに決まってるだろ!」
「むむっ、……確かに」
「そんなことないわよ!私βテストの時は手を抜いてたし!」
いやぁ、それは信用できないんだよなぁ。だって手を抜いててもチートなんだもん姉は。
「あれで手を抜いていたのです!?」
「凄まじいのぅ……」
「えっ!?みんなそんな反応なの!?」
「いやぁ、普通はそういう反応をしますよ……。私たちは慣れてるので……」
うんうん、そうですよね!
「うむ、やはりローブを脱ぐのはなしじゃな」
「なのです」
っほ、なんとか食い止めることが出来たようだ。
――クイッ
「ぐっ……じゃあどうするのよ!このまま待つの?」
「やっぱり戻った方が良いんじゃないか?」
――クイッ、クイッ
「その方が良いんじゃないですか?あの人達もどうやら部屋の中に入る気配がないですし」
「面倒くさいけどそうするしかないかもな」
――クイッ、クイッ、クイッ
「う~む、そうするしかなさそうじゃのぅ」
「よし、そうと決まれば早いほうがいいな。じゃあ早速……って、さっきから袖が――」
「……じぃ~~~」
「どうわぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」
「「「「ひょわぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」」」」
ひ、人!?隣に人が……あれ、なんかデジャブ?
「……じぃ~~~」
俺の隣には、ローブの袖を持った俺より少し小柄のエルフの女の子がいた。……お察しの通り、風見鶏のメンバーの一人、ノエルである。
ま、まずいまずいまずいまずいっ!!!ヨシノちゃん大ピンチッ!?お、落ち着け。まだ大丈夫だ。ローブの怪しい奴とヨシノが同一人物だとばれなければなんとかなる……!
「え、えぇ~と……何か要かなお嬢さん?」
「……ヨシノ?」
びっくぅぅぅぅぅぅん!!!
「え、あ、えっと……だ、誰のことかなぁ?……アハ、アハハ」
「……じぃ~~~」
な、なんで分かったんだ!?っは!?落ち着けって言ってるだろ俺!ステイクールだ、ステイクール!なんか後ろの約二名からの視線がとても痛いがステイクールだ!
「嘘、絶対、ヨシノ」
「ひ、人違いだよ、うん」
「嘘、声も、身長も、耳も、一緒」
ぐ、ぐぬぬぅ……!
「で、でも!世の中には声も身長も耳も同じ人くらいいるでしょ?」
「……まどろ、こしい……えいっ」
「えっ――」
「「「「あっ!?」」」」
――ハラリ
「……やっぱり、ヨシノ」
「え!あれっ!?フードがっ!?」
い、いつの間に!?全然動きが見えなかったんですけど!?
目にとまらぬスピードでフードを脱がされ、ノエルに顔をさらしてしまった!
「――ぉい、どうしたぁ~~~!?」
っげぇ!?ボス部屋の前に屯っていた人たちがこっち来たぁぁぁぁぁ!?!?
他の人たちに顔を見られないように、素早くフードをかぶり直す。
「おいノエル!何がっ……って、コイツら……!」
「ウソっ!?王都にいた人たちじゃない!!」
「然り然り」
あぁぁぁぁぁ!どんどん場がカオスになっていくぅぅぅぅぅ!!
「(ヨシノちゃん逃げるわよっ!)」
「(えっ!?で、でも――)」
「(いいから早くするのじゃ!!)」
っぐ……ええい!ままよ!
「あ!また逃げたわよ!」
「っち、今度こそ追うぞおまえら!」
~ 春風・拠点 ~
「はぁ、はぁ……」
「つ、疲れました……」
今回も追ってこなかったようだ。助かった……。
「「……ヨ・シ・ノ・(ちゃん)?」」
「は、はひっ」
こ、怖い!?二人ともめっちゃ怖い!?
「「たっぷりお話しましょうねぇ(するのじゃ)」」
……ち~ん。
「あ!また逃げたわよ!」
「っち、今度こそ追うぞおまえら!」
――グイッ
「うおっ!?何すんだノエル!あいつらに話聞かねえと……!」
「……姿を、隠して、るのは、理由が、ある。……詮索は、よく、ない」
……え?……あなた、思い、切り、詮索、してた、って?……気の、せい。
「いや、しかしだな……!」
「ドレイク、そこまでにしときなよ」
「そうよ、あんまりしつこいと通報されるわよ!」
「然り然り」
「ぐっ!……はぁ、そうだな」
「まあドレイクの場合は戦いたいだけなんでしょ?だったら今日じゃなくても、いつか闘技大会みたいな公式イベントで出てくるわよ、きっと」
「……ノエル、すまんかった」
「……別に、いい」
「ちょっとちょっとドレイクちゃん!私たちにも何があったのか教えてよぉ!」
「うっせぇ!あとちゃん付けすんなっていつも――」




