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現実パートです
「新しい春が来た!青春だぁ!」
「姉さん、そんなこと言ってないで早く着替えてくれ」
「そんなこととは何よ!いい芳人ちゃん、青春を謳歌出来るのは今、この瞬間だけなのよ!」
「はいはい、じゃあその青春を謳歌するために初日に遅刻しないようにしないとな」
「……反省してます」
「ホントかよ……ほら、綾待たせてるんだからさっさと支度しろ」
「ふぁ~い……」
ゲーム内で屋敷を購入してから現実時間で早一週間。春休みが終わり、今日はこれから3年間通う高校の入学式だ。そんな大事な日なのに姉は、あと5分あと5分と、結局1時間ほど寝てしまい入学式そうそう遅刻しそうになっている。
「ほらほら、見て芳人ちゃん!どう?ポニテ!」
「はいはい似合ってる似合ってる」
「もう、適当すぎよ!女性を褒めるときは心を込めなさい!」
「姉さん相手に褒めても仕方ないだろう……ほら、準備出来たんなら行くぞ」
「ああ、こら逃げるなぁ!」
「遅いですよ二人とも」
「悪い悪い、姉さんがな……」
「……何よ」
「まあ、おおかた何があったかの予想はつきますけどね……それより早く行かないと遅刻しちゃいますよ」
「だな」
俺達の通う高校は、家から歩いて15分ほどのところとかなり近い。なので自転車での通学を考えているのだが、初日の入学式は駐輪場の敷地面積の関係上、自転車通学は禁止されているため徒歩での通学となる。
「それにしても、良い天気になりましたねぇ」
「そうだなぁ……空は青くて通学路には桜が舞い散る……ああ、儚い」
「芳人ちゃんって意外とポエマー……?」
「失敬な!厨二病と言いたまえ」
「あ、悪化……してませんか?」
そんなバカな会話をしながら通学路を10分ほど歩くと、学校の校門が見えてきた。
「おい、あと5分しかないぞ!」
「走るわよ!」
「えっ!?ちょ、ちょっと待ってください!!」
「なんとか間に合ったわね」
「ギリギリだな」
「ひぃ……ひぃ……」
「もう、綾ちゃん情けないわよ!もっと鍛えないと」
「あ、あなたと一緒に、はぁ……しないでくだ、さいっ」
「おい、おまえ達早く座れ。式が始まるぞ」
「「「はい(~……)」」」
俺たちが来てすぐに式が始まり、校長先生のありがた~いお話を20分ほど聞き、生徒会長のありがたいお話を5分ほど聞き、新入生代表(姉)の誇張しまくった抱負を聞き流し、入学式は終了した。
「お疲れ様です、マヤちゃん」
「どう?私かっこよかった?」
「はいはいかっこいいかっこいい」
「芳人ちゃん、あなたさては聞いてなかったわね?」
「聞いてたぞ~、うんたらかんたらって言ってただろ~」
「絶対聞いてなかったわよねそれ!?」
「そんなことよりクラス表見てみろよ、俺たち一緒のクラスみたいだぞ」
「さらっと流すな!……まあ、3人同じクラスなのはうれしいけど」
「ですねぇ」
「げっ、あいつも同じクラスなのね……」
「あいつ?……ああ、そういえば慎二も高校はここだったっけ」
「九重君、ですか……」
どうやら二人とも慎二のことが苦手なようだ。悪いやつではないんだけどなぁ……
「呼んだかな?」
「うぉっ!?いたのか慎二……」
「いやなに、教室に行く途中に見知った背中を見つけてしまってな、こうして声をかけに来たわけだ」
「律儀なやつだな、おまえは……」
「ああ、それにしても……桜島さん、今日もナイスおっぱ――ごふぅっ!?」
あちゃぁ~……
「おい、ゴミクズ。今すぐ視界から消えろ。いや、この世から去れ。さもなくば殺す」
「ま、まて米蔵姉!僕はちっぱいに殴られて興奮するような性癖は持ちあ――がはぁっ!?」
「だ~れ~が~、ちっぱいだこんにゃろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「う、うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
あいつも懲りないな……。さすが変態だ。
「行こっか、綾」
「……はい、そうですね」
「皆さん、入学おめでとうございます。私はこのクラス担当の――」
俺たちのクラス、1年D組の担任は定年間近の頭テカテカのおじさんだった。心の中で親しみを込めて、ハゲ先生と呼ぶことにしよう、うん。
「さて私のことは話しましたので、今度は皆さんのことを教えてください。それでは出席番号順で簡単に自己紹介をお願いします」
ああ、ついにこのときが来てしまったか……
「次、九重君……って大丈夫かね?ボロボロじゃないか……」
「いえ、問題ありません、先生」
「そ、そうかね?では自己紹介よろしく」
「はい。僕は九重慎二。趣味は――」
「……っち、猫かぶりやがって」
姉さん、聞こえてるぞ……。心配するな、一週間後にはボロが出てるから、間違いなく。
「ありがとう。次、米蔵さん」
「はい、私は――」
「ありがとう。次……おや、双子の姉妹なのかね?ああっとすまない、米蔵さん」
……このハゲぶっ殺してやろうかっ!!!わざとか!わざとなのか!?名簿見れば男か女かくらいわかるだろ!いやそれ以前に制服見ればわかるだろ!だから前二人と後ろ一人は笑うの止めなさい?
「ええ、ごほん。米蔵芳人です。米蔵麻衣の双子の"弟"です」
――ざわ……ざわざわ……
「えっ!?……ああ~ごほん、静粛に」
静粛に、じゃねぇよこのクソじじい!
「ええ~、趣味はゲーム、特技は武道全般。最近の悩みは女に間違われることです。一年間よろしくお願いします」
「あ、ありがとう米蔵君。ええ~、次、桜島さん」
うん、これだけ言えばもう間違われることはないだろう。……ない、よな?
「それでは、本日はここまで。また明日」
ハゲ野郎(ハゲ先生から降格)から、学校での過ごし方や今後の方針などの話を聞き、本日は終了となった。
「米蔵弟よ、久々に笑わせてもらったぞ」
「うるせぇよ!」
「サイコーだったわよ芳人ちゃん!」
「そういえばぶふっ、中学の時もこんな感じでし、たね」
笑いをこらえながら喋るんじゃない。
「そういえば皆は部活とかどうするんだ?」
「ああ、僕は生徒会の手伝いをしているのでね、部活はどこにも所属しないよ」
「あれ、そんなことしてるのか?生徒会の立候補って2学期からだろ?」
「もちろん、そんなこと関係なしに手伝っている」
「……何企んでるんだ、おまえ」
「ふんっ、愚問だな米蔵弟よ。あの生徒会長にお近づきになりたいからに決まっているだろう!」
「そんなことだろうと思った……」
まあ、わからんでもない。可愛らしく清楚な顔に地毛の金髪を持っていて、おまけにスタイル抜群の正真正銘のお嬢様にお近づきになりたいと思う輩は少なくないだろう。ん?待てよ?
「それじゃあ慎二、おまえあの人に近づきたいがためにこの高校に入ったとか?」
「もちろんだ」
「……バカだろ、おまえ」
中学では姉の次に頭良いくせに、こんな高校に来たのはそういう理由だったのか……。呆れ通り越してむしろその行動力を褒めてやりたいくらいだ。
「おまえにはあのお方の崇高さがわかっていないようだな?」
「……はい?」
「いいだろう、そんなおまえに特別講義をしてやろう」
「はぁ……」
あ~、こいつこうなると長いんだよなぁ……。隙を見て逃げるか。
「いいか?そもそもあのお方、姫崎琴音様は――」
「ふぅ、なんとか抜け出せたな」
慎二は熱く語るときは、話し終えるまで目をつむる癖があるのでその隙に抜け出すというわけだ。で、なんとか気づかれずに抜け出し、校内をうろうろしているところだ。
「まったく、注意しなさいよね」
「悪い悪い、ははは……。あ、ところでさっきの続きの話なんだけど、二人とも部活はどうするんだ?」
「わたしはどこか良いところがなければ、弓道部にしようかと」
「わたしはもう決めてるわ!」
「ん?意外だな、姉さん。それで、どこに入るんだ?」
「VR技術研究会よ!」
「あれ、そんな部活ありましたっけ?」
「ないわ!」
「えっ!?つまりそれって……」
「そう、作るわよ!」
「作るって……そもそも、部活はじめるのに部員5人いるだろ?」
「そこはほら、適当に声かければいいじゃない!」
「はぁ……」
「もちろん二人にも入ってもらうわよ!」
「「え!?」」
「え?」
……どうやら決定事項のようだ。
「――ということだ。わかったか、米蔵弟よ!……あれ?」




