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ドラゴンと聞きつい勢いで店を飛び出してしまったが、ちょうどお昼の12時だったこともあって、いったんログアウトし、その後に生産活動をすることにした。今回の(ユニーク)イベントクエストの適正レベルが50だったため、今の装備のままでは心許なかったのだ。
というわけで、昼食を食べ終えた俺は生産ギルドに来ている。
「いらっしゃいませ。共同スペースと個人スペース、どちらになさいますか?」
「そうだね……それじゃあ、君にしようかな?」
「共同スペースと個人スペース、どちらになさいますか?」
「君の名前、教えて欲しいな」
「共同スペースと個人スペース、どちらになさいますか?」
「今夜お食j――」
「共同スペースと個人スペース、どちらになさいますか?」
「……個人スペース3時間で」
「かしこまりました。お客様のスペースは203号室です。こちらが鍵になります」
「あ……どうも」
ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉい!
「パンパカパ~ン、く~ま~に~く~!」
今回のメイン食材は、今朝の解放イベントで手に入った熊さんズの肉です!
「さて、何作ろうかなぁ……」
どんな料理にするかを、いつも使っているお料理サイトを眺めながら考える。まあこのサイトはゲーム専用というわけではなく、主婦の見方的な普通のサイトなので、熊の肉を使ったレシピはあまり出てこないイメージがあると思うが…
「ところがどっこい、なんと熊肉レシピが500以上もあるんだなぁ~」
なんかよくわからないけど、熊肉が最近のブームらしく、よくレシピが出回っているようだ。
というわけで、その中から良さそうな料理をピックアップしていく。
「まあでも、ジビエの王道と言えばやっぱり鍋だよねぇ~」
もう鍋の季節は過ぎてしまったが、ゲームの中なんだからそんなのかんけぇねぇ!はい、おっ○っぴ~!作る料理を決めたので早速作っていこう。
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森熊肉の鍋(☆☆☆☆☆)▼
フォレストベアーの肉で作った鍋。体が温まる。
品質 : Aランク
STR+30%
VIT+5%
耐寒付与
効果時間 : 5時間
(※現在、満腹度システムは実装されておりません)
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怒熊肉の鍋(☆☆☆☆☆☆)▼
アングリーベアーの肉で作った鍋。体がとても温まる。
品質 : Aランク
STR+40%
耐寒付与
火耐性付与 : 10%
効果時間 : 6時間
(※現在、満腹度システムは実装されておりません)
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嗚呼、ま~べらす!素晴らしい!えぇぇぇぇぇくせれんっつ!特に火耐性が付いたのはとてもよき。ドラゴンと戦うからにはブレスは避けて通れないからな。良いものが作れたようだ。
「ありがとうございました~。またのご利用、お待ちしております」
先ほどの受付のおねぇさんに再アタックをかけようと思ったが、別の人に変わっていた。……俺は絶対に諦めないからなっ!!
~ エリアⅢ(森林) ~
「このあたりね」
「お、あそこじゃないか?湖が見えるぞ」
碧々と生い茂った木々のなかに、ぽっかりと空いた場所があった。そこにはかなり広い湖、まるで貴族の別荘のようなお屋敷、そして――こちらをにらみつける全長10mにも及ぶドラゴンの姿があった。
『グルルルゥ……』
「よし、準備するぞ」
前回の金ウサギ同様、イベントボスに近づかない限りこちらに攻撃してくることはないので、今のうちに戦闘の準備をしておく。今回はイベントクエストの適正レベルが50と、20レベル近い差があるため、準備のし忘れがないか念入りにチェックしていく。
姉の新作のローブ、サーヤの新作の杖、リーゼのポーションを受け取って装着する。ちなみにローブと杖の性能はこんな感じだ。
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怒熊のローブ(☆☆☆☆☆☆)▼
アングリーベアーの皮で作られたローブ。特殊な染料で黒く染められており、隠密行動が可能。
品質 : A
VIT+35
MND+25
隠密(小)
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吸魔の杖(☆☆☆☆☆☆)▼
吸魔の木で作られた杖。魔力吸収に優れている。
品質 : A
STR+20
INT+35
打撃時MP吸収+4
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ローブに使われている染料は、王都に来る途中に生えていたダークリーフを使った物だ。ダークリーフは雑草の中にひっそりと隠れるように生えていた小さな草だ。おそらく、発見スキルが無ければ見つけられなかっただろう。
杖に使われている吸魔の木も、王都に来る途中に採取した物だ。こいつに触れているとその名の通り、MPを吸い取られる。
「よ~しみんな、鍋食うぞ~」
「はふはふもぐもぐ」
「はやっ!?」
「さすがサーヤちゃんなのです……」
「私たちも早く食べましょ!」
「そうじゃの」
「いただきますなのです!ふ~ふ~、もぐもぐ……ふにゃぁぁ~……とってもおいしぃのですぅ~……」
「うむ、これはなかなか……」
「さすがもぐもぐ、ヨシノもぐもぐ、ちゃんね!もぐもぐ」
「喋るか食べるかどっちかにしろ、行儀悪いぞ」
「ヨシノちゃんおかわり貰えます?」
「貰えません」
「ええええ!?そんなぁぁ、ひどいです!」
「ダメなもんはダメだ。サーヤに食わせてたらいくら料理があっても足りん」
「……ケチ」
ケチでけっこーです。だからそんなに目をうるうるさせてこっちを見ないで保護欲があふれ出そうになるぅぅぅぅぅぅぅぅ!
「……おねがい(コテンッ)」
ぐっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
「はぁ……シチューならいいぞ」
「ありがとうございます愛してますヨシノちゃん!」
なるほど、首を傾けるときはそうすれば良いのか……勉強になったな!うん、シチューは勉強代だと思おう。うん。
「はいはい、夫婦漫才はそこまでにしなさい」
「っは!?マ、マヤちゃんうるさいです!」
「「……め……おと?」」
「準備はいいか?」
「「「「応!」」」」
「よし、行くぞ!!」
「「「「応っ!!」」」」
~ ???(湖畔) ~
ある程度近づくと視界がグニャリとゆがみ、周りにあった木々はどこへやら、湖とドラゴンだけのフィールドに立っていた。
『グルアァァァァァァァァァァァッ!!!』
「よし、じゃあ作戦通りに行くぞ!」
「「「「了解!」」」」
作戦とはいっても至って単純、俺と姉が攻撃を当てつつヘイトを稼ぎ、他の三人がサポートするといったものだ。
「鑑定!」
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ドラゴン Lv.50
通常種のドラゴン。皮膚が鱗に覆われ、とても硬い。
HP : 1200/1200
MP : 200/200
STR : 159
VIT : 204
INT : 176
MND : 130
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うっわ強!?さすがレベル50だ。
「ブレスくるわよっ!!」
「散開!!」
狙いは……俺か。
口の中から赤い光を漏れさせながら首をもたげて狙いを定め、ブレスを放ってくる。視界の端が真っ赤に光り、まるで太陽のそばにいるかのような高温の熱を伝えてくる。
「って、HP3しか残ってない!?」
直撃していないのに、周りの熱だけでほとんどのHPを削られてしまった。
「「ヨシノちゃん!!」」
サーヤとリーゼからおそらく新しく作っただろう回復魔法を飛ばしてもらい、HPが全快した。ありがたい。
「敵が硬直しているわ!今のうちに攻撃するわよ!」
「応!」
一気に肉薄し、強打を使う。
――ガキィィィィィンッ!!
「っ!?硬い!!」
さすがVIT200超えと言ったところか、ダメージがほとんど出ていない。……なら――
「ガトリング!」
――ズガガガガガガッ!!
『グルァァァァ!?』
どうやら魔法の方が効果があるようだ。よし、この調子で……
「ヨシノちゃん危ないっ!!!」
「えっ――」
――ドンッ!!
突然視界が変わり、仰向けになり空を眺めていた。体にはダメージを食らったことを示す赤いエフェクト、そして気持ち悪い浮遊感も感じる。
「っ!?尻尾か!」
どうやら、視界の外からの尻尾の攻撃で空中にはねられたようだ。HPもギリギリだ。
「って、まずいまずいまずい!落下ダメージで死ぬっ!?」
どうすればいい!?いやそもそも、落下まであと何メートルだ?って地面が見えないからわからないじゃないか!!
「ああぁぁぁぁれえぇぇぇぇぇ!?」
――ザブゥゥンッ!!
「もがっ!?」
水の中!?そうか、湖か!助かった……。とにかく上がって、ポーション飲まないと!
「ぷはぁっ!ゲホッゲホッ!……ふぅ」
あ、あぶねぇ死ぬかと思った……。まだ皆戦っているし、早く戻ろう。次は油断しないようにしないと……。
ドラゴン「目の前で鍋パーティーするんじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!」




