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初投稿です
「芳人ちゃん!一緒に AAO やらな~い?」
高校入試が終わり、後は合否通知を気長に待つだけとなった俺、米蔵芳人は同じく入試を終えた双子の姉、米蔵麻衣にそう言って声をかけられた。
「AAO って、姉さんが最近βテストでしてたやつ?」
「そうそう、Ancient Alchemist Online 。明日からサービス開始なのよ!」
Ancient Alchemist Online 通称 AAO 各地に残る古代錬金術師達の遺産、レガシーアイテムを巡って繰り広げられる、広大なマップと自由度を売りとした新作VRMMORPGだ。βテストの抽選倍率はなんと400倍超え、その抽選に奇跡的に当たった姉は受験勉強そっちのけで遊んでいた。まあうちの姉は勉強なんかしなくても余裕なんだろうが……。
「やめとく。VRゲームって疲れるんだよなぁ。ログアウトしてゲームギア外したときのあの怠さ、苦手なんだよねぇ」
「ふふん、そういうと思って最新型の疲れないゲームギアを買っておいたわ!」
「はぁっ!?あの馬鹿高いやつを?」
「ええ!もちろん AAO も二つ買っておいたわ!」
「……あれ?拒否権なくねっ!?」
「当たり前じゃない!」
フンスッ、と俺の前に仁王立ちしながらそうおっしゃられた。まさか「やらな~い?(お誘い)」かと思いきや「やらな~い?(強制)」だったとは……。まあ疲れないなら試してみるのも悪くはないかな?姉からよく話を聞いていて(もちろん強制)興味はあったし。
「まあ、買っちゃったものは仕方がないか……」
「うんうん、物わかりのいい芳人ちゃんは大好きよ!ところで芳人ちゃんはやりたいジョブとかあったりする?」
「う~ん……魔法使いたいし、魔法師かなぁ」
「じゃあ私も魔法師にするわ!」
「えっ、いいのか?βテストで戦士使ってたんじゃなかったっけ?」
「いいのよそんなこと、芳人ちゃんと一緒のジョブにするって決めてたし!」
「……まあ姉さんがいいならいいんだけど」
「とにかくジョブも決まったことだし、アバター設定とチュートリアルだけは先に出来るからさっさとやっちゃいましょう!」
「はいはい」
そういっていつの間にかリビングの隅に置いてあった頭と同じ大きさくらいの二つの段ボール箱の片方を投げ渡してきた。
「うおっ!?もっと丁寧に扱えよ、精密機器だぞ!?」
文句を言ってやろうと思ったが、すでに姉は俺の言葉を無視して自分の部屋に入っていた。まったく、一台何十万すると思ってんだ……。いい加減ちゃんとした金銭感覚を身につけてほしいものだ。まああの姉に何を言っても無駄なのでおとなしく自分の部屋に行き、新品の最新型ゲームギアを箱から出し、その中に AAO のカセットチップを差し込む。
「ダイヴイン!」
なんだかんだで楽しみなのか、若干上ずった声で言ったゲームギア起動の初期キーワードに反応して一気に視界が真っ白に染まる。しばらくするとどこからか羽の生えた可愛くて小さな少女の妖精(?)が現れた。
「はじめまして。あなたのアバター設定補助、およびチュートリアル進行補助を務めさせていただきます、妖精族のカレンといいます。どうぞよろしくお願いします」
「……あっ、ああ、こちらこそよろしく」
うわぁ、すごい。羽の動きなどがとてもリアルに再現されていて本物に見えてしまう。
「さて早速ですがアバター設定の説明に移らせていただきます。まずは「"ステータスオープン"」と言ってみてください」
「ええっと……"ステータスオープン"」
ピコンッ
――――――――――――――――――
名前 : 未設定
種族 : 未設定
性別 : 女
ジョブ1(メイン) : 未設定
ジョブ2(サブ) : ※未解放
ジョブ3(サブ) : ※未解放
アーツ : なし
魔法 : なし
スキル : なし
SP : 10
加護 : なし
称号 : なし
――――――――――――――――――
「………………………………は?」
おかしいな、バグってるのか?ナンデオンナ?オンナナンデ??
「?……どうかなさいましたか?」
「いやいやいやいや、どうかしましたか?じゃないよ!?なにこれ!?性別が女になってるんですけど!?俺男なんですけど!?男なんですけどぉっ!?」
「なにを言っているのですか?あなたは女性ですよ」
「違うわ!確かに昔から、「芳人ちゃん女の子みたいだねぇ」とか、「え、芳人って男だったの!?男の娘!?」とか言われてるけども!?俺にはちゃんと息子がついてるっての!!」
「まあ!もう一児の母でいらしたのですね!うらやましいです」
「ちっっげーーよ!!その息子じゃねぇよ!俺男だから!母になれないから!!」
「はぁ……よくわかりませんが、性別の変更は不可能ですよ?」
「えっ!?マジで!?」
「はい、マジです」
「な…ん……(ガクッ)」
ば、馬鹿な……男のアバターを使えない……だと。いや、落ち着け俺。まだ可能性はあるはずだ……
「カレン、俺は本当に男のアバターを使えないのか?」
「はい、使えません」
いったんログアウトしてゲームギアを初期化すればいけるか……?
「あ、ちなみにゲームギアを初期化してもパーソナルデータが残っているので意味ないですよ?」
「なっ!?いや、心読むなよ!」
はい詰んだ〜!ゲームの中でくらいかっこいい男になりたかった……!
「あの~、そろそろ説明を続けてもよろしいでしょうか……?」
「……はい」
ダメだ、うん、諦めよう。ここでゲームを放り出しても姉に何されるかわからないし……。え?諦めるのが早いって?……姉を怒らせてはいけないんだよ察しろ。
「では改めて、まずはあなたの容姿を変更し種族を設定しましょう。主に髪や瞳の色、顔のパーツや身長などを変更できますよ」
目の前に今の自分と同じ姿(我が息子は不在だが)のアバターが現れる。っく!こうなったら自棄だ!思いっきり可愛くて保護欲そそるような容姿にしてやる!アザと可愛く姫プレイじゃぁぁ!!貢ぎ物よこせぇぇ!!
というわけで早速いじっていこう。しかしこうやって改めて自分を見ると姉によく似て美人と言える容姿をしている。……なんか男として負けた気分だ。
まあいい、まずは身長をいじろう。俺の身長は姉とほぼ一緒で156cmと年にしては少し低め。本来なら背を高くして男らしさを磨きたいところなのだが今回は逆だ。目指すはアザと可愛いなので身長をさらに低くする。だいたい150cmくらいでいいだろう、大きく変えることはできないらしいし。さらに女らしさを出すため、おっぱいを身長に似合わないくらいに、かつ不自然でないくらいになるまで大きくする。……うむ。素晴らしいロリ巨乳だ。だがこのままの顔だと見ててすごく悲しくなるのでさっさと変えてしまおう。
まずは少し眠そうな目を少しだけ開いてぱっちりお目目にして瞳を青色に、おばあちゃん譲りの日本人にしては少し高い鼻を平均的な日本人の鼻の高さに調整して、これまたおばあちゃん譲りの濃いブラウンの髪を真っ白に染め、髪を肩にかかるくらいまで伸ばす。あとは少しだけ口を小さくする。髪以外はほとんど変えていないのにもはや別人だ。我ながら上出来だな!最後は種族の変更だが、もうこれはすでに決めてある。もふもふだ。これしかない!というわけで種族を狐人族に設定し、無事もふもふな狐っ子ロリ巨乳ちゃんの完成である。属性詰めすぎたか……?まあいい。とにかく容姿の変更は終わりだ。
「あ、そうだ。種族によるステータスの違いってあるのか?」
「ありません、ただし種族ごとに受けられない加護はあります」
「そうか、出来たぞ」
「とても可愛らしいですね!」
「はは……どうも……」
いじる分にはかまわないが、ていうかぶっちゃけすごく楽しかったが、これからこのアバターを使わなくてはいけないと思うと褒められてもあまりうれしくない……。
「では次にジョブの設定を行いましょう。メインジョブで選べるのは、ほぼすべての前衛武器を装備できる"戦士"、攻撃魔法を得意とする"魔法師"、魔法の中で主に治癒魔法と光魔法に長けた"神官"、弓の扱いに長けた"弓術士"、偵察や索敵、罠の発見・解除を得意とする"盗賊"の五つの初級ジョブになります」
「魔法師でたのむ」
「かしこまりました。では最後にあなたの名前を教えてください。」
「……ヨシノで」
「はい、ヨシノ様ですね!素敵な名前です。これでアバターの設定は終わりです。続いてチュートリアルをはじめたいと思いますがよろしいでしょうか?」
「ああ」
さすがにヨシトは変だと思ったので女の子っぽい名前にした。
こうしていろいろとあって長かったアバター設定が終わったのだった。
米蔵家はお金持ち、おばあちゃんは外国人という設定です。