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無題のおとぎ話

 むかしむかしのおはなしです

 あるところに、小さな島がありました

 島の人々は毎日のんびりと畑をたがやし、漁をしてくらしていました

 島の外でおこる争いや面倒事なんてどこ吹く風

 その島の時間は、外の世界よりもゆっくりと流れ、人々はそんな時の流れに身を任せ、のんびり、のんびりと、日々を過ごしていました


 しかし、平和な日々は突然うばわれました

 ある夜のことです

 島の人々が満天の星空を見上げると、その中にひときわ大きく、鈍く光る星が一つありました

 星の光はどんどん大きくなり、やがて満月よりも大きくなり、とうとう星空の一割も覆うほどになりました

 おろおろとうろたえる人、きれいだと見とれる人、酒のさかなにする人

 それを見た反応はみんなばらばらでした

 そして、その中のある人がぽつりと呟きました

 お星さんが、落ちて来よる

 その人の言葉通り、星はとうとう地面まで降りてきました

 家十軒ぶんはあろうかという、ぼんやりと青色に光る星、いえ、岩を、ぐるりと囲んでみんな話し合います

 これはお星さんだ、いや、お宝だ、ただの岩だ―――

 みいんな、はずれでした

 突然、岩がぴかあっと光ったかと思うと岩の表面に小石を水面に投げ込んだような波紋が現れました

 人々は不安と好奇心がないまぜになった目で見つめます

 すると次の瞬間、なんと、岩の中から人が出てきました

 真っ白な一枚の布を仏さまのように体にまきつけた、真っ白な肌の人でした

 集まった人々はぎょっとして目を見張りました

 そんなことはおかまいなしに、岩からは次々と同じようなかっこうの人が出てきます

 そして、三十人ほど出てきたかと思うと、突然その中の一人が手のひらを島の人に向け―――その手のひらから、真っ赤な炎が吹き出しました

 みんな、おおあわてで逃げだしました

 真っ白な人はお互いに目配せすると、人々を一気におそい始めました

 手から炎を出す者、雷を喚ぶ者、見たこともない生き物を操る者、姿形を自由自在に変える者

 摩訶不思議な力の前に、ただただ人々は逃げまどうばかりでした

 それでも、突然やってきた得体の知れない連中に、こうまで好きにされて黙っていられる訳もなく

 人々は鍬や鎌を持って、奇妙な力にたちむかいました

 戦ったことなどあるはずがないのに、そもそも戦うための道具なんてあるはずがないのに、それでも島の人々は勇敢にたちむかいました

 かたや、不思議な力を持ているとはいえ、せいぜい数十人

 かたや、人数で圧倒的に勝るとはいえ、戦う術などまったく持たぬ漁師と百姓

 初めはお互いに互角のにらみあいが続いていましたが、それでもだんだん、だんだんと島の人々が押し負け始めました

 人々はがっくりと肩を落とし、もう立ち上がることも出来なくなるほど疲れきっていました

 もうあとは負けるのを待つだけ、誰もがそう考えていたとき、突然転機が訪れました

 なんと、島のある一人の若者に、不思議な力が宿ったのです

 若者の力は、それはそれは素晴らしいものでした

 武器を願えば、次の瞬間には右手に艶やかな刀がにぎられている

 水を願えば、泉のようにこんこんと右手からきれいな水がわいてくる

 食べ物を願えば、抱えきれないほどの食べ物が現れる

 薬を願えば、どんな傷もたちまち治す薬が出る

 それは落ちてきた星のせいなのか、それとも、星から出てきた者のせいなのか

 そんなことを考える前に、島の人々は立ち上がりました

 持ち方も分からない剣を握り

 めちゃくちゃな構えで槍を持ち

 ろくに振ることもできない金棒を抱え

 それでも、何かを護るために

 全力を賭し、死力を尽くし

 命を懸けて、命以上に大事なものも懸けて

 戦いは続きました

 多くの人々が傷つき、数多の人々が命を落としました

 それでも島の人々は戦い続けました

 そしてとうとう、季節が一巡りした頃、ようやく島の人々は勝利を手にしました

 何かを得たわけでもないのに、誰かが幸せになったわけでもないのに、手を取り合っておおよろこびびしました

 そして、不思議な力を手にした若者は言いました

 こんな不気味な岩、埋めてしまおう。と

 反対する人はもちろんいませんでした

 人々は大きな大きな、深い深い穴を掘り、災いのもととなった岩を埋めてしまいました 若者は英雄と讃えられ、その後悪用する者が現れないよう、岩を埋めた場所の上に家を建て、ずぅっと、ずぅっと、その場所を見守り続けました


 むかしむかしのおはなしです


 むかしむかしの、おはなしです

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