第三話 るなてぃっくべいびぃず2
「捧ぅ、アレやってよぅ」
制服に着替え、テーブルに並んでいた食パンをもっさもっさと頬張っていると、同じく制服に着替えた遊兎がバターの塗られたトーストを差し出しておねだりしてきた。ちなみ遊兎が着ているのはなぜか女子の制服であり、その上改造して肩口を大きく露出させ、膝上二十センチのスカートと縞ニーソの間から輝かしい絶対領域が覗いている。以前『冬場にその格好はなくね?』と質問したら、『男の娘はオシャレのためならどんな寒さもガマンできるのっ!』と返されたが、ツッコミがめんどうなのでスルーしておいた。さらに髪型も、持ち前の銀髪をやや後頭部側でツインテールにしてウサギの耳に見立てたものに変貌している。
俺は差し出されたトーストをしぶしぶ受け取り、右手の上に適量のつぶあんを具現化させる。
焼きたてサクサクのトーストにバターを少し多めに塗り、その上からたっぷりのつぶあんをトッピング。一口かじった瞬間にトーストの心地よい食感と、つぶあんの控えめな甘さ、そしてそれを最大限に引き出すほんのりとしたバターの塩味が口一杯に広がる。ウチの定番の朝食だ。
コレ、やった後手ぇベタベタになるからイヤなんだよなぁ……まぁこいつらがあんまり嬉しそうに食べるもんだから、頼まれたら断れないんだけどさ。
でも自分で出したあんこなら甘さの調節も自由だから、全員の好みに合わせた味が出せるってのは我ながらナイスだと思う。
それを見た薙と満月も「遊兎だけズルイ!」とせがんできたので、半ば押し付けられたトーストにつぶあんを塗りつけていると、あることに気付いた。
鉄馬の姿が見えないのである。いつもならあいつも例に漏れなく小倉トーストせがんでくるのに……
「薙、鉄馬どこ?」
特製小倉トーストを薙に手渡しながら尋ねてみる。
「んー? 鉄馬なら食パンそっこーで食べふぇ、傘持っへ二階へ行っはわよ?」
受け取った瞬間それに囓りつこうとした薙は若干イラッとしたように質問に答えようとしたが、我慢できなくなったのか喋ってる途中で小倉トーストを食い始めた。
女の子が会話の途中から物食い出すんじゃねーよ。
しかしどうにも、薙の言葉が腑に落ちない。こんないい天気なのに傘? 今日は一日快晴だって天気予報でも言ってたし、あいつが日傘差すってのも考えにくいしなぁ……
そんな風に俺が思案をめぐらせていると、
「風向き良ォーし! 体重良ォーし!」
庭先の方から聞き慣れた声。さっきの薙の話からして、多分二階のどっかのベランダか、屋根の上で叫んでるんだろう。
それにしても、こんな切羽詰まった状況なのに、あいつは上で何をやってんだ?
俺は鉄馬の姿を確認するために庭へと続くガラス戸を開け、外へ身を乗り出し、二階の方を仰ぎ見る。
まず俺の目に映ったのは、落下する一枚のハンカチだった。
でも何かがおかしい。
フツー『落下するハンカチ』って言葉を見たら、空中をひらひら漂いながらゆっくり舞うように落ちてくるのを想像するだろ?
でも今まさに俺の顔面に向かって落ちてきてるハンカチは、空気抵抗を一切無視し、まるで鉄球のようなスピードで落ち――ってうおぉぉぉぉぉぉぉ!?
間一髪、俺が身を引っ込めると、ハンカチが先程まで俺の頭があった位置を『ヒュオッ』と有り得ない速さで通り抜け、『ドズン』という重低音を響かせながら芝生の地面にめり込んだ。
あっぶね……あいつ『ハンカチに重さを移し替えて』落としやがったのか……
俺はもう一度庭へと身を乗り出し、今度は頭上を瓦煎餅でブロックしながら上を見上げる。
案の定、そこには洒落にならん死亡事故を起こしかけた張本人が、傘を広げて佇んでいた。
「鉄馬テメー! 重くした物は落とすなってあんだけ言っただろうが! こーいう事故ってヤバイんだって!」
「あァ? 何だよー今ちょうどフライトするとこだったのに、お前のせいで良い風掴まえ損ねちまったじゃねーかァ!」
フライト? 良い風? 一体こいつは何の話をしてるんだ――いや待てよ、さっきのハンカチに重さを移してるってことは、今あいつ相当軽くなってんのか? それで風向きと風速を気にしてるってことは……まさか!
そこでタイミング良く、一陣の風。
「お、来た来た、良い風吹いてきたぜェ? んじゃ、アデュー♪」
癪に障る仕草で投げキッスをかまし、鉄馬は傘を広げて何の躊躇いもなく屋根の上から空中へと一歩踏み出した。
そうか、あいつの能力で体重を軽くすれば、傘程度でも風にのって飛べる! だからさっきハンカチを……
しかしそこに考えが及んだときにはもう遅く、自宅の上空では、傘で追い風を受け止めた男子高校生の体が宙を舞うという、シュールでメルヘンな光景が繰り広げられていた。
「ああっ! ズルイぞ鉄馬自分だけそんな楽で速くて楽しそうな登校の仕方するなんて! うわっ腹立つ! あいつ米○CLUBの浪漫○行歌ってるわ! あいつが遠ざかるにつれて徐々にフェードアウトしていく感じになってんのが妙に腹立つ! 名曲なのに!」
しかし俺の叫びも虚しく、鉄馬は時代遅れのヒーローのマントのように学ランをはためかせながら風に乗って飛んでいってしまった。
どうでもいいけど、あいつの学ラン、袖に腕を通さず肩に羽織ってるだけなのに、なんであんな激しい動きしても落ちないんだろう……ツッコんだら負けなのかなぁ。
俺がやり場のない苛立ちを噛みしめていると、今度は朝食を終えた薙がスニーカーを持って縁側までやって来た。
「ありゃ、鉄馬に先越されちゃったかぁ……ま、今からなら追いつけるでしょ」
薙はスニーカーを履いて庭に降り、地面の感触を確かめるように数回軽くジャンプする。
オイ待て、まさかお前も……
「待てや薙! お前らばっかりズルイぞ! ちょっと能力が便利だからってそうやって楽して! たまには俺にも楽させろよ!」
背後からの俺の声に振り向き、薙はジャンプと着地を繰り返しながら答える。
「ふんっ! 知ーりーまーせーんー! 超絶マニアックな趣味を持ってる上に、朝っぱらから同居人の女の子に性欲処理を要求するような変態なんて先生に引き裂かれちゃえばいいのよ! かにかまの如く!」
「洒落にならんこと言うな! あの人ならホントにやるからね!? 頼むから俺も一緒に連れてってくれよ薙だって俺がかにかまのように引き裂かれてる姿なんて見たくないだろ!?」
「……私は一向に構わんッ!」
「鬼か!」
もうダメだこのやりとりからは何もプラスになる事は生まれねぇ!
そう見切りをつけ、俺は薙を制止しようと手を伸ばした――が、数瞬遅かったようだ。
何度目かのジャンプの着地の瞬間、『薙の足下の地面がトランポリンのように沈み』――そしてやっぱりトランポリンのように、薙の体を上空へと舞い上げた。
その際真下から薙のスカートの中が丸見えだったのだが、要らん事を言うとまた何かしら不幸な目に遭いそうなのでツッコミは控えておこう。
引くぐらいの高さまで跳び上がった薙は、そのまま華麗にバク宙を何度も決め、隣の松谷さんちの屋根の上に着地した。
「あ、そうそう、あんた今思いっきりあたしのスカートの中見たでしょ?」
そしてふり向きざまにこの言葉っ! どんだけ察しが良いんだウチの女連中は!
「見てない見てない! 逆光で何も見えませんでした!」
「あ、そっかぁ~、捧ってばショタコンの変態だから、もう女の子のスカートの中身じゃ興奮しないんだぁ~。それなら見てなくてもおかしくないわね~」
おおおおおおおおおああああああああああああああああっ! ムカツクぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅ! 頭が怒りでフットーしそうだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
「さあどちらか認めなさいっ! 自分はショタコンの変態なのか、それともあたしのスカートの中をガン見したのか! 今夜のご注文は……どっち!?」
『ビシィッ』と音が聞こえそうな勢いで松谷さんちの屋根の上から俺を指さす薙。ちなみに言っておくが、俺は地上、薙は屋根の上と、結構な高度差があるので現在進行形で薙のスカートの中はモロ見えだ。
しかし冷静に考えたらこの選択肢、明らかにどっち選んでもハズレじゃん……
前者を選んだ場合の薙のリアクション
「とうとうあんたも変態への道を歩み始めたのね! このことは遊兎に報告しておくから、二人で末永くお幸せに!」
後者を(以下略)
「コロス」
……えぇいままよ! もうこうなったらヤケクソだ! よくよく考えてみれば、前者を認めちまったら俺の社会的地位が地獄の底にまっしぐらじゃねーか! ならここでの俺の選択肢は、もう一つしか無い!
俺は肺一杯に息を吸い込み、地球の裏側まで届かせる勢いで、叫ぶ。
「スカートの下にスパッツは色気が無いと俺はデュラムッ!?」
別に俺はイタリアではパスタに使うことが法律で定められている小麦ではない。最後のは顔面に薙が投擲した鞄が直撃した俺の叫び声だ。
「死ね! このノーパンアフロ!」
顔を真っ赤にして捨て台詞を吐いた薙は、自慢のサイドテールをなびかせながら、外人の想像する忍者のように民家の屋根の上を跳躍して学校の方角へと直線距離で向かっていった。
念のために言っておくが、俺はノーパンでもアフロでもない。
あの野郎、よりにもよって挿絵の無い段階で読者への視覚イメージを改竄するような暴言(?)を吐きやがって……
じんじんと痛む鼻を手で押さえ、床に落ちた薙の鞄を拾い上げる。
あえて放っといてもよかったのだが、それだと学校に着いた後が怖すぎるからな。
「何さっきからボクの許可無く庭先でイチャイチャしてんだよー!」
「……朝っぱらからご近所さんの迷惑も考えずに、お盛ん」
今度は遊兎と満月まで靴と鞄を持ってやって来た。何なの? 玄関以外の場所から出るのが流行ってんの?
「いや~なんか鉄馬と薙がエキセントリックないってきますしてたから、ボクだってここらで目立っとかないとな~って思ってね」
遊兎はまたもやいつのまにか鞄を持った手とは反対側に出現していたポラロイドカメラを覗き込みながら答える。
そして学校のある方向に向かって、シャッターを切った。
もうこっからの展開は予想出来過ぎて困るわ……どうせ遊兎も能力登校だろ……そんで俺が置いて行かれるんだろ……まぁいいさ……
「満月の能力じゃ登校時間の短縮なんて出来ないもんなー♪ 一緒にダッシュして行こうぜぇ~♪」
満面の笑顔で満月の方を見る俺。
しかしそんな俺の希望的観測は大きく外れることとなる。
「……遊兎、私も一緒に連れてって」
俺のエエ顔をナチュラルにスルーし、満月はカメラから出てきた写真をつまんだ遊兎に至って普通にお願いしだした。
でもさっき遊兎は満月達にボコられたらしいから、そんな頼みを遊兎が素直に受け入れるとは考えられねーが……何か策があるのだろうか。
「ふんっ。さっきは満月にヒドイ目に遭わされたんだよ? なのにそんなお願い、ボクが素直に聞くと思う?」
そこは予想通りと言えば予想通り、遊兎はつーんとそっぽを向いて満月のお願いを却下した。いやまぁ遊兎がボコられたのは完全に自業自得なのだが、それでも能力を使うのが遊兎である以上、イニシアチブは遊兎から移ることは有り得ない。
さぁ、この状況から一体どんな策で遊兎の首を縦に振らせるのか、とくと拝ませてもらおうじゃ――
「……私も一緒に連れてってくれたら、この『一日捧奴隷券 ~ごしゅじんさまのためなら、ささぐは何でも捧げます~』をプゥレゼントッフォーユゥー!(謎のチケットを出しながら)」
「俺本人の意思が全く介在していない不当な取引を持ちかけやがったぁーっ!?」
こいつはホントもうよくこんなに俺の人権を無視した嫌がらせを考えつくな!? アレか? さっき俺に起伏に乏しい体型について指摘されたことまだ根に持ってんのか!?
「取り消せ満月! そんなモンが発効されちまったら、俺の人としての尊厳が完全に粉砕されちまう!」
満月の胸ぐらを両手でつかんでガクガクと揺さぶる俺。しかし強制ヘッドバンキングをさせられているにも関わらず、満月は相変わらず長門フェイス。
「オゥフッ……捧を丸一日奴隷に……二十四時間、八万六千四百秒もあれば、あんなことも、こんなことも……ボクの全身を舌でお掃除させたり、アレを着せて四つん這いで○○○○させたり、二人で女装して疑似百合プレイしたり、いっそのこと捧の童貞も後の処女もボクが……」
背後から恍惚とした遊兎の声と液体の落下音(多分遊兎の鼻血)が聞こえる。
駄目だこいつ……早く何とかしないと……
「よぉしっ! そーいうことなら、ボクも一肌脱いじゃおうかな! 満月は一緒に連れてってあげよう!」
そう言うと遊兎は鼻血を抑えようとして真っ赤に染まった手で満月の手を握った。
とりあえずその血塗れの顔面と手をどうにかしようぜ、遊兎……そして満月も嫌がれよ……
「つーか遊兎、満月を連れてくんなら俺も一緒に行っていいじゃねーか! お前の能力なら運ぶのが一人増えたところで関係ねーだろ!?」
「ヤダ! だって捧ったら、さっきボクのこと思いっきり見捨てたじゃん!」
「見捨てたもクソも、あの状況で鉄馬に立ち向かえるヤツの方がおかしいって! 怒ったあいつとやり合うぐらいならガンタ○クに素手で喧嘩売った方がまだ建設的だわ!」
「と・に・か・く! ボクと一緒に行きたいって言うんなら、満月が提示したのと同じぐらい素ん晴らしい貢ぎ物を用意するか、ある条件に従ってもらう!」
ビシッと人差し指をこちらに向ける遊兎。
どうせロクでもねー条件なんだろうけど、一応訊いといてやるか……
「で、その条件って?」
「ボクの能力が『自分自身または触れている物』にしか作用しないのは知ってるでしょ?」
遊兎は人差し指をくるくると回しながら、俺に言わせれば当たり前のことをやけにうれしそうに、事実を誇示するように語る。
にしてもそれが何だって言うんだ? 薙にしろ鉄馬にしろ遊兎にしろ、大概の能力は自分自身か触れいている物にしか作用しないってのはこの島の住人にとっちゃ常識だろう?それをなんで今さら――
「もし捧がボクと一緒に登校したいんなら! 舌以外の部位でボクに触れることを禁止する!」
やっぱりコイツはこういうヤツだったよチクショォォォァァァァァッ!!
「ふっふっふ、さぁどうする捧くぅん? ホームルーム直前、いい感じにクラスのみんなが集まって冬休みと千年祭の話題に花を咲かせている教室に、両手を縛られた状態でボクのおへそを舌でほじくってる捧が乱入してきたら、一体どんな空気になっちゃうのかなぁ~? 考えただけで下半身に血液が集まってきちゃったなぁ~」
クソがぁ……なんでこうもコイツらは俺の尊厳を貶めたがるんだ……俺が一体何をしたってんだ……
ああああああそうかい、分かったよ……お前らがそんなに俺を貶めるっつーんなら、堕ちるトコまで堕ちてやるさ! 外道万歳!
「遊兎の条件は飲めねーが……代わりになる『貢ぎ物』とやらを用意してやるよ……」
俺は薙の鞄からルーズリーフを取り出し、さらさらとその上にペンを走らせる。
そして書き上げた内容を見せびらかすように、俺はルーズリーフを高々と掲げた。
「ジャジャーン! 遊兎! 俺を連れてってくれたら、この『一日満月奴隷券~べ、べつにアンタのために手錠と目隠ししてるワケじゃないんだからねっ!~』を進呈しよう!」
意趣返しも込めて、今度は俺が満月の人権を侵害だぁ! さぁ泣き叫べ! 俺の痛みを思い知れ! あの世で俺に詫び続けろッ! 満月ィィィィィィィィッ!
しかし満月は、最高に『ハイ』ってヤツになった俺を蔑むように一瞥し、ため息をついた。
その瞬間響く、無数の小さな銃声。
「え?」
右手の先を見れば、今の今まで俺が持っていたルーズリーフは蜂の巣とも呼べないほどにズタズタになっていた。
「ヤレヤレ捧サン、イクラアンタデモ、ボスニ仇ナスッテンナラ俺達ハ容赦スルワケニハイカネーンデスワ」
そしてすぐ耳元から聞こえる、電子音のようなカタコトの声。
左に顔を向けると、俺の肩の上で軍服を着たコアラがアサルトライフルを構えていた。 えっと確か、コアラ一等兵だったっけ?
コアラ一等兵は俺の肩の上から颯爽とロープ降下で床に降り立ち、ミニチュアサイズのAKをこちらに向けた。
「サテ、コレ以上ボスニ楯突クナラ、今度ハアンタガソノ紙切レノ後ヲ追ウコトニナリマスヨ?」
「すんませんでしたぁ!」
マッハで土下座しました。朝っぱらから土下座のバーゲンセールだ。
ホントもう、一体俺は何回土下座すれば気が済むんだ。第一章にして土下座キャラが定着しちゃったらどうしよう……イヤだ、そんな主人公……
「……分かればいい。捧は永遠にそこで床と一体化してて。遊兎、ゴー」
「サー、ビッグボス♪」
パシュン、とあっけない音。
顔を上げると、もうすでに二人の姿は無かった。
クソッ、万策尽きたか……いやまだだ! まだ間に合う方法はあるはず!
立ち上がり、薙の鞄を抱えて考え込んでいると、ズボンの裾をちょいちょいと引っ張られた。
下を見ると、俺の鞄をくわえた正宗。
――あきらめるのである
円らな左目がそう語っているように思えた。
しばしの逡巡の後、俺は正宗から鞄を受け取り、玄関に向かって猛ダッシュ。
廊下ですれ違ったきょーこさんが「いってらっしゃ~い」と言っていたような気がしたが、振り返る余裕は既に無く。
俺は突進するような勢いで玄関のドアを開け、学校めがけて走りだした。
冬の空気が肺に満ち、すぐに喉にが痛くなってきた。これだから冬に走るのは嫌いなんだよ!
二人分の鞄を抱えて全力疾走する俺に、道ですれ違う人々が『またやってんのか』と生暖かい微笑みを投げかけてくる。
汗で濡れた学ランの下のシャツが十二月の空気に冷やされていくのを感じながら、俺は意味なんて無いと分かっていながらも、ただただ叫んだ。
「なんで俺は! 俺の能力はああああああああああああっ!!!」
▼
みなさん初めまして。場面転換ついでに俺の同居人を紹介したいと思います。
マッハの拳を持つサイドテールの貧乳は薙
理不尽という言葉を具現化した、存在自体が天変地異のような女です。
あと、脳が少々イタんでます。
場の流れを考えずにボケを放つ残念なイケメンは鉄馬
線の細い外見とは裏腹に、凄まじい力を持った豪快なバカです。
言わずもがな、頭は概ねおかしいです。
無表情で毒舌を撒き散らす、鬼太郎ヘアーの座敷童は満月
そのシャープな毒舌は対象のバイタリティをごっそり削ぎ落とします。
もちろん、頭のネジは多少飛んでいます。
やたら露出度の高い赤目銀髪ツーサイドアップは遊兎♂
変態です。
言うまでもなく、彼の脳味噌は賞味期限切れです。
あらあらまあまあという台詞がこの上なく似合う年齢不詳の美女はきょーこさん
俺達をこの家に迎え入れてくれた人であり、我が心のオアシスです。
少しだけ頭がユルいのが玉に瑕です。
眼帯をした真っ白な大型犬は正宗
我が家の頼れる番犬にして、数少ない常識人(?)です。
あいつは絶対俺達の言ってることが分かってると俺は踏んでいます
あ、申し遅れました。俺の名前は捧。私立メサイア学園高等部に通う、ごくごく普通の高校生です。
唯一、他人と違うところを挙げるとすれば――
右手から、和菓子が出せることでしょうか。