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At the laboratory

初回限りの連投です。少しでも作品の雰囲気を理解いただけたなら…

 西暦2501年。

 地球はついに、増えすぎた人類を養う力を失い、急速に衰えていった。

 背景には人類の発達しすぎた科学技術。それゆえの戦争、など数々があり、それらが全て数百年にわたって積み上がった結果、滅びの一途をたどることとなる。

 各国は食糧危機にさらされ、中には50以上を過ぎた人間は問答無用で処分などと正気を疑うような政策をとる国もあった。

 そんななか、アメリカの宇宙望遠鏡が太陽系に存在するある一惑星を補足する。

 いままで発見されなかったのが不思議なくらいの規模の惑星でなおかつ大気構成は地球とほぼ同じ。加えて非常に特異な点が見受けられている。

 なぜなら、地球の公転軌道と垂直に交わるような公転をするからである。なぜ激突しないかは地球が冬のときにその惑星は夏、地球が春ならばその惑星は秋、といった具合に公転の道筋が地球とは異なるからだ。

 各国政府はさっそく調査団を派遣。もっとも、その調査団というのはただの軍隊に数人の科学者を混ぜ込んだだけの組織であったが。

 地球とは異なる生態系、巨大な昆虫や動植物。時には凶暴なモンスターとも呼べるような生物まで見受けられた。

 なんとか、調査団は植民地となる土地を確保。翌年から本格的に地球からの移民が始まると今度は植民地を増やすように指示が出た。

 ある日、調査団の一個正体が森でなぞの生命体の存在を認識。追尾した結果、人間に非常に酷似した知的生命体の街が発見された。

 文化基準は高く、家の壁は切り出した同じ大きさの石で作られ、さらに、住民は服をも着ている。言語を使い、家畜を飼うそのさまはまさに地球の中世の時代のようだった。

 驚愕するべきは、街角にたっていた、巨人。

 15メートルほどのそれはどうやら機械人形であるらしかった。

 人類の科学力で作り出せるロボットはせいぜいが10メートル程度が限界なのに、この機械人形はどうしたことか。

 さらに、尋常ならざる機動性と柔軟性を併せ持ち、試しに攻撃してみた味方の分隊があっさりと壊滅させられてしまった。

 文化レベルに釣り合わないその機械人形はすくなくとも彼らが作り出したものではないはずだ。

 故に地球人は『遺産(インヘリタンス)』とその機械人形を呼称した。

 翌年、人類は更なる植民を続け、ついに侵略活動に打って出た。初めは慣れない機械人形との戦闘に苦戦していたが、コックピットらしきものが胴体中央にあると判明したあとは破竹の快進撃を続けていた。

 瞬く間に植民地を増やしていく中、ある日、研究者の一人が侵略し、占領した街にある一角の神殿を発見した。

 中に踏み込み、奥へ奥へと歩を進めていくとやがて祭壇らしき建造物のある空間に差し掛かる。

 そこで彼は気がついた。神殿の通路はほこりっぽかったのにも関わらずこの祭壇のある空間だけは空気が全く濁っておらず、また、石壁の壁に生えていたはずのコケすらも見当たらない。よくよく見てみればその空間自体がまるでつい最近建てられたかのような体をしている。仮によく掃除が行き届いたとしていてもここまでキレイになるはずがない。加えて通路の汚れはどう説明すればいいのかもつかない

 さらに祭壇を覗き込むと…そこにはミイラが13人収められていた。

 彼は研究者の勘でおそらくこの13体のミイラがこの空間を洗浄していると踏んだ。

 試しに通路の誇りを思いっきり舞い上げて祭壇のある空間に混入させてみる。すると、空気中の誇りは風でも吹いたかのように13体のミイラの中に吸い込まれていった。

 早速研究者は部下に命じてこのミイラたちを運び出し、更なる研究、それと異常なまでの空間浄化能力を汚染され尽くされた地球を元に戻すために使うべく。

 研究は順調に進んでいたが、ある日、部下の一人がなにを思ったか13体のミイラの細胞をそれぞれ異なった13匹のマウスに注入した。

 その結果、異常な身体能力の強化をマウスは獲得し、研究所内を暴走し始めた挙句捕獲、あるいは殺傷するまでに何十人物のけが人が続出した。

 結果、この研究は非常に危険だと判断され永遠に凍結された…かに思えた。

 極秘裡に政府は研究所のデータを押収し独自に僻地に研究所を作り、今度は地球を浄化する目的ではなく、侵略のペースを速めるための…兵器を研究し始めたのだ。

 その結果、誕生したのが神兵シリーズ…ICナンバーと呼ばれるミイラの細胞より作り出した人造人間である。人型決戦兵器としての運用しかされておらず、感情はほぼないに等しいレベルにまで抑えられ、ただひたすら戦闘訓練を施される毎日。

 満を期して戦場に投入される一日前、唐突の予測不可能な事態が発生した。

 ……IC03の脱走である。

 研究所内の戦力を八割行動不能にし、拘束用に遣わしたIC01をも撃破。その後の行方は今だ誰も知らない。


■■■■■


 《一体どういうことだ?ICナンバーが脱走し、一体が再起不能だと?》

 テレビ通話というのは非常に面倒くさいシステムだ。まず面と向かって話し合わなければならないし、こういって言葉だけではなく身振りでもいなさなくてはならない。

 遠く離れた地球で、自分の上司は理解不能、怒髪冠を差すといった具合で罵詈雑言を吐き散らしていた。

 それを聞かされるこっちの身にもなれよ…と白衣の男は考える。

 名札を見る限り、かれがこの研究所の主任らしく、役職の下にユージ・アッカーマン、と印字されていた。

 研究者らしからぬ長身にシャープなメガネに切れ長な瞳の美形の男である。薄汚れた白衣ではなく、洒落た格好でもして街中に出ればいとも簡単に女性を落とせるであろう…そんな容姿だった。

 それから数十分程度の小言を聞き流し、向こうが強引に通信を断ち切るのをみるとユージはテレビを思いっきり机の上から蹴飛ばし、机の上に組んだ足を乗せる。

 「…ったく、面倒極まりねえなあのクソデブじじい」

 人が入ってこないことをいいことに言いたい放題である。

 ユージはしばらく目を閉じ、やがて、ポケットからタバコの箱を取り出して一本口にくわえ、火をつけた。たっぷりと煙を吸って…吐く。

 ニコチンが脳みそに染み渡っていくのが何とも言えない心地よさを醸し出す。

 ふと彼は思い立って、机の引き出しの中から一枚の写真を取り出した。写っているのは色素の薄い金髪を緑のリボンでポニーテールにし、藍碧色の瞳と翡翠色の瞳をもつ美少女が映っている。

 IC03……と書かれた写真の中の文字を赤いラインマーカーでバッテンし、アリシア・エルロードと書いてあった。

 「…気に入ってくれるかねぇ…俺のあげた名前」

 まさか誰もユージが一連の脱走事件の真犯人だとは思いもしないだろう。

 初めて彼女に会った時から何かが違う…と感じていた。具体的にはなんとも形容しがたいがとにかく違うのだ。周りの無表情の仮面を被ったICナンバーには備わっていない、何かが。

 何度か、ユージは調整を行うと、研究員に言い、彼女を、アリシア・エルロードを自室に呼び出したりしてみた。

 今でも思い返せる。あの時の、アリシア・エルロードの表情を。

 「…なんでしょうか」

 確かに、彼女は不安げな顔をしていた。

 通常、ICナンバーは兵器としての運用しか考案されていない。それ故、こうした感情的な動作をすると即刻不良品として処分されるのだ。

 それを彼女はわかっているから、不安なのだ。とはいってもユージにばれているので最早どうしようもないのだが。

 「…君は、感情があるんだな」

 「………」

 彼女は黙って俯く。処分されることを覚悟しているのだろう。

 所長としての役割はこういった不良品を処分することだ。…だが、ユージはそうするつもりなどなかった。

 それどころか、人間の資格を持っている者たちを兵器として運用することに疑問すら感じていた。これでいいのか、と。

 ユージは椅子を立ち上がって…優しく彼女の頭に手を乗せた。

 「……?」

 後日談だがこの時、彼女は撃たれる…と思ったらしい。

 予想とは全くちがうユージの行動に、彼女は無表情を作ることすら忘れてきょとん、とユージを見上げた。

 「殺すつもりなんてない。私はむしろ、心があるものと出会えてよかったと思っている」

 「…え?」

 ユージはそっと彼女に微笑んで見せた。

 「…認めるんですか、私を」

 「そうだ。君は兵器として生きるべきではない。人間として生きるべきだ」

 「…ありがとう、ございます」

 笑うつもりだったのだろうか。無表情の作りすぎでくしゃっっと表情をゆがめただけにとどまった。ユージは苦笑して、彼女に椅子に座るように言う。

 「さて、人として生きるにはまず名前が必要だ。だから、名前を君につけようと思う」

 「名前…?」

 無理もない。今まで散々ICなんとかと呼ばれ続けていたのだからちゃんとした名前には縁がないのだろう。

 「人に与えられて然るべきものだよ。そういえば今日は君たちの誕生日でもあるね。気恥ずかしいものだが、誕生日プレゼントのつもりで名前をあげよう」

 ユージは、紙を一枚取り出して、それにペンの筆記体でさらさらっと名前を書いた。

 「…アリ…シア…エ…ル…ロード」

 つっかえつっかえで自分の名前を読み上げる、かつてIC03だった少女。

 「そう。アリシア・エルロードだ。我ながらいい名前だと思うんだがね」

 アリシアはしばらくうわごとのように自分の名前を繰り返していたが、やがてユージのほうを向いてまたくしゃっとした表情を作った。

 ユージはまたも苦笑しつつ、両の人差指をアリシアのすべすべの頬に当てて、くいっと上に押す。よくある笑顔の作り方だ。

 「これが、笑顔だよ」

 今度は自分の顔に当てて実演してみる。

 心がある分、アリシアの習得も早く、数回くいっとあげてやるだけでもう、自然な笑顔を覚えてしまった。

 「うん。いい顔だ。やはり、君ぐらいの女の子は笑っているほうがきれいだ」

 「ありがとうございます」

 何回目だろうか。ついに、アリシアがへまをやらかしそうになったのだ。

 暗がりで、ユージと他の研究員を見間違えて呼びかけそうになってしまったのだ。それからというもの、やたらめったらにアリシアの監視が強くなり、うかつに呼び出して話をすることができなくなってしまった。

 …だから、なのだろう。研究所を脱走したのは。

 無表情が通常のアリシアではあるがその心はすでに年頃の少女のものに近づいてきている。それなりに世間の常識も与えてはいたが…やはり、ユージは心配であった。

 今では写真しか、アリシアの痕跡は手元に残っていない。

 写真のなかのアリシアは、純粋に嬉しそうに、笑っていた。

 ユージとしてはこの笑顔がなくならないように祈ることしかできない。

 

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