取りあえず決着
自分の腕一本と引き換え、か。なかなかやるな。
魔法を潰されたせいで、シロクマゴリラよりも後ろにいた奴らは無傷だが、半分くらいは殲滅できた。
振り返ってみれば、離れたところにいたティムたちももう殆どの敵を倒している。
背中の傷は、どうやらドライアイスのようなものをぶつけられたらしく、火傷していた。一応光魔法で簡単な治療はしたが、完全には治っていない。流石に大勢の敵に囲まれた場所で呑気に治療に専念はできない。
ガウルルルルルルルルル、ウガァ
あー、何かシロクマゴリラが雄叫びあげてるよ。
そんなことを言ってられるのは最初のうちだけだった。雄叫びを上げたシロクマゴリラはその巨体に合わないものすごい速さで俺の方へドシドシ地響きを起こしながらやってくる。
「うわお」
いきなりの事だったためにすれすれのところで避けるが、掠ってしまい飛ばされる。いくら魔力があって身体強化されてても体の質量自体はどうにもならない。より大きなものに突っ込まれたら飛ばされるのは間違いない。
「いったいなー、もう」
違和感を感じて服を見ると、掠った部分が凍り付いている。奴の体に触れたらまずそうだな。
俺が立ち上がると、待ってましたとばかりに再び突っ込んでくるシロクマゴリラ。
「2度も同じ手食うかよ!」
立ち上がりかけた態勢のまま転がるようにして横に避ける。
「今度はこっちの番!」
シロクマゴリラが避けられたことに気づいて立ち止まった瞬間、その横っ面に風魔法を叩き込む。
ウグァァァァ
まともに食らったシロクマゴリラはひっくり返る。
やったか?
ガルル
ゆっくりと立ち上がったシロクマゴリラは、顔半分が血まみれなのにも関わらず再び襲い掛かってくる。
その気迫はすさまじいもので、怪我をする前よりも動きが速くなり隙がなくなっている。防戦一方になってしまい、何とかしないとと思うが何分この攻撃の嵐から抜け出すタイミングがない。そもそも魔術師の俺は接近戦は管轄外だ。今は転生の恩恵でここまでもってるが、こんな状況に対応した魔法なんてない。というより、魔術師は魔法を使うとき、隙ができる。俺のスペックだとホンの一瞬だが、この距離だとその一瞬が命取りになる。
!?
今だ!
やはり、俺の攻撃を顔面に受けておいてノーダメージというのはありえないことだったんだ。どの傷のせいなのかはわからないが、シロクマゴリラがふらついた。
これが好機とばかりに、間合いを取る。
「「ソーマ!」」
どうやら俺より先にある程度片付けたらしいティムとフォルドが寄ってくる。
「もう少しで止め刺すから待っててくれよ。」
「いいえ、もう十分よ。先に進みましょう。」
「なんでだよ。」
「奴の息の根を完全に止めるのは不可能だからよ。あのホワベルはこの山の守護者の1匹。エネルギー源はこの山よ。私たちの目的は先に進んでキースを見つけることよ。ホワベルを倒すことじゃない。」
あのシロクマゴリラの名前、ホワベルって言うのかよ。なんであんな厳つい見た目してるくせに名前は可愛いんだよ。
「っと、危ない!!」
俺はティムを抱えて倒れこむ。
油断してた。俺たちが気づかないように一定の距離を保ってから、さっきみたいなドライアイスで攻撃してきやがった。俺とティムは話していたし、フォルドは少し離れたところでまだ襲ってくる奴らを片付けていた。ホワベルの動きに誰も気づけなかったんだ。
「ソ、ソーマ」
心配そうなティムに大丈夫だと笑いかける。実際、俺の足はプスプスいいながら煙を上げていて、まったくもって動かせない。これって凍ってんのかな、火傷してんのかな。
軽く光魔法をかけて、何とか動く程度にまでは治療する。それでも足を地面につけた瞬間激痛が走り、倒れそうになる。
「やってくれたなー、ったく。」
呟いてから、ホワベルを睨み付ける。
もういいや。我慢やめた。
指先の1点にひたすら魔力を凝縮する。これでもかというほどに。
俺の魔力を察知したのか、ホワベルの顔つきが変わる。そして、魔法を発動させまいと飛びかかってくる。
「残念、もう遅い。」
指先をホワベルの心臓の位置に向けると、そこから1本の黒い黒い光線が発射しホワベルの身体を貫く。
光線はそのまま洞窟の壁を一部破壊しながら進んでいった。まあいっか。
身体を貫かれたホワベルは、何が起こったかわからないという表情を浮かべた後その場に倒れこんだ。
ホワベルは、それからしばらく痙攣すると、突然灰となってその場に崩れ去った。
「は?なんで?」
「さっきのソーマの攻撃が、ホワベルの魔石を壊したか傷つけたのかも。亜獣は魔石の力で生きてるから。魔獣や亜獣は魔石で体内の魔力の調整を行ってるから。」
灰の中にキラリと何かが光ったのを見つけ、拾ってみる。薄い水色の石だ。
「それがホワベルの魔石よ。ほら、ここにヒビが入ってるでしょ。でもおかしいわね。あれくらいの力を持った亜獣って。魔石にこんな傷が入ったくらいじゃ死なないわ。」
「それ、これに関係あったりするのか?」
俺は観察していた魔石をティムに見せる。そこには黒い何かの動物を模したような模様が魔石に刻まれていたのだ。
「何よこれ!なんでこれがここに?」
「知ってるのか?」
俺の質問にティムは黙り込む。
「知らないわ。」
どうみたってそんな雰囲気じゃないだろ。
「ティム。教えてくれよ。その紋様が、何を表すか知ってるんだろう。」
暫くの間、沈黙が続いた。
観念したようにため息をついたティムは、一言だけ呟いた。
「それはかつてソーマの親友だったディネルスのトレードマークよ。」




