シロクマゴリラ
進み始めてそう間もなく敵は現れた。
アザラシがキモくなったようなやつ、シロクマとゴリラが混じったようなやつ、猿か人間か鬼か判断しかねるようなやつ、ただの氷にしか見えないのに空中に浮かんでて紫の煙を吹き出してるやつ。
「何こいつら!?」
「久しぶりの食べれそうな肉が自分からやってきたことに心躍らせてるんでしょう。」
「それって俺らのコト?」
「他に何かいる?」
「気を付けるのだ。食料の少ないこの空間で生き残るにはそれなりの強さが必要だ。」
「げ!?食料ないだろうとか思ってたらこいつ等共食いしてんのか?」
「それしか生き残る方法がないからしょうがないじゃない。おかげで生き残るのは強いやつらばっかり。体を鍛えるにはいいところなんじゃない?ここ。」
そう言いながら近づいてきた敵の一匹を吹っ飛ばすティム。
さっきから呑気にしゃべってるのは俺だけで、ティムもフォルドも近づいてきた相手を片っ端からなぎ倒していってる。
「ソーマも少しはやりなさいよ!ほら、向こうから今来た奴。ソーマはアイツをお願いね。」
そう言ったティムの視線を追うと、奥から悠々と歩いてくる一際大きいシロクマゴリラ。いかにもラスボスって感じの。名前が分からないから取りあえず見た目で勝手にシロクマゴリラと呼んでやる。
ってか、どう考えたってティムの奴、一番面倒そうな敵を俺に押し付けただけだろ。
そうはいっても、今のところまだ俺だけが敵を一匹も倒していないわけで。
「仕方ないな。」
俺は一気に敵の塊を飛び越えてシロクマゴリラの目の前に着地、しようとしたが今俺が履いていたのはジャブレの靴じゃないってことを忘れてた。思い出した時にはもう飛び上がるモーションに入っていてどうしようもない。
「え、ちょ、ソーマ!?」
飛び上がった俺はシロクマゴリラの目の前に行くには半分ほど距離が足りずに敵のど真ん中に着地してしまう。正確に言うと、大量にいる敵の中の一匹の頭上にだが。
これどうすりゃいいの?
何が起こったかわからずに数秒の間はあったが、俺に頭上に乗られた亜獣は暴れだす。他の奴らは、ティムやフォルドと離れた俺を狙い目とばかりに集中攻撃を仕掛けてくる。ただし残念ながらそいつらの攻撃は大部分、俺の足元の亜獣に当たってるわけで、少しかわいそうに思えてくる。
限界を感じて、近くにいた別の亜獣の頭上に飛び移るとちょうど今まで乗っていた亜獣が倒れるところだった。
「ソーマ!その調子で敵の上を飛び移りながら攻撃しなさい!下手にこっちに合流しようとするよりもそっちはそっちで敵を倒していった方が早いわ。」
気づいたら結構2人と離れてしまっていたらしく、敵に埋もれてどこにいるかも定かじゃない。
俺はひょいひょい敵の頭の上を走り回り、適当に攻撃しまくる。
炎を使って周りが氷のこの洞窟を壊してもまずいし、氷、雷、水はなんとなく効かなさそう。じゃあ闇と風だな。
あまり強力な魔法だと、洞窟を壊しかねないため威力を抑えてどんどん放つ。
「グハッ」
後ろから来た突然の衝撃に俺はバランスを崩す。背中が痛い。熱いのか冷たいのかわからない。低温火傷?背中に手をやると、肌がピリピリする。
ハッと攻撃が来た方向を見ると、そこにはさっきの周りとは雰囲気が違うシロクマゴリラ。クソ野郎め。
まあ油断してた俺に非がないわけでもないか。
俺はボス格のシロクマゴリラに意識がいってたせいで囲まれていることに気づいてなかった。
ふと辺りを見回すと、俺は全方位よくわからんものに囲まれていて、そいつ等は全員攻撃のスキを見計らっている。
仕方ない。洞窟に多少の負担はかかるものの、少し出力上げるか。
闇魔法を使って辺りの敵を一掃できそうな攻撃をイメージする。破壊の闇が、俺を中心に波紋状に広がればいい。幸いティムたちがいるところはここから少し距離がある。
俺は何となくで目を閉じる。目を瞑るべきだと俺の中の何かが言っている。理由はわからないけどこの声に従って間違えることはほとんどない。
敵が近づいてくるのを感じる。
あと少しで俺にダメージを与えられる距離まで来る。
もう少し。
もう少し。
3
2
1
今だ!
目を見開き、一気に魔力を放出する。敵はある程度倒せる、洞窟には負担をかけない。微妙な力加減で。
ボウッ
俺を中心に小規模な魔力による爆発。俺の半径2メートル以内の奴らは完全に死んだだろう。でもこの魔法の真骨頂はこれから。
爆発の直後、俺の周りに小さな輪が形成される。黒い、暗い、明確な形はないけれど確かにここにある。そしてそれはどんどん広がっていく。
この輪の正体を知らないバカなやつらが再び俺に突っ込んでくる。しかし、俺の輪に触れた瞬間消滅する。
広がっていく輪に当たったものから消えていく。おかげで俺の周りからはすっかり敵がいなくなった。
別にこの魔法は触れたモノを消す力があるわけではない。ただ、銃で的を撃ったらその衝撃で弾よりも大きな穴が開くのと同じ現象。輪が当たった部分の周辺も吹き飛ばされちゃっただけだ。
そういえば、シロクマゴリラはこの魔法にどうやって対処するかな?
そう思ってシロクマゴリラの方を見るとちょうど輪がシロクマゴリラの目の前にきたところで・・・叩き割った!?
まさかのシロクマゴリラは俺の魔法の輪を手で叩き割った。おかげでシロクマゴリラの肘から先は無くなってるけど。
魔法が消滅したことを確認したシロクマゴリラは、俺の方を見て、笑った。




