オリの変化
「ごめんなさい、もう一度言ってくれないかしら?」
「ノア、キース、アレックって誰の事なんだ?そしてヴェルド。ヴェルドって今から俺たちが行く予定のヴェルドの森と関係ないわけないよな?」
「ソーマはその名前、どこで知ったの?」
「夢だ。さっきまで、俺は長いような短いような夢を見てた。夢の中では俺やフォルド、ティム、あとムーイって呼ばれてる男とヴェルドって呼ばれてる男がいた。」
「どんな夢だったか、詳しく話せる?」
「ああ。どうやら西に行く途中みたいだった。最初、ティムが鍋みたいなものを爆発させて、巻き込まれたフォルドが真っ黒になってるところから始まった。それから5人でひたすら歩いて迷いの森ってところで試練がどうのとか精霊の案内とか話してたところで終わった。俺が調べた限りじゃ、南と西の境界は断崖絶壁だったはずなんだが?」
ティムが悲しげに俯き、いつの間にか話を聞いていたらしいフォルドも暗い顔をしている。
「それは、あなたの失われた記憶で間違いないわね。確かに私たちは昔、西に行こうとしてそんな状況に陥っていたわ。懐かしいわね、フォルド。」
「ああ。あの時はティムのせいで散々だったからな。」
「俺の質問に答えてくれ。ノアって?キースって?アレックって?ヴェルドって?」
「私たちが今その問いに答えても何の意味もないわ。自分で思い出すか、本人に出会ったときに確かめなさい。」
なんなんだよ。どうせこいつらにはこの気持ちはわからない。自分のことのはずなのにその実感が持てなくてイライラする。
「何を言ってるの?まあ口には出してないから『思ってるの?』ね。私たちが辛くないわけないじゃない。最も大切な、自分の命を預けている人が自分のことをすべて忘れてしまっているのよ?私が命を預けてるって言う事実すら覚えてない。辛くないわけないじゃない。不安じゃないわけないじゃない。苦しくないわけないじゃない。」
「そっか。そうだよな。ゴメン。」
俺とティムの間に気まずい沈黙が流れる。
「おい!オリ!」
そんな中、シャルムの焦った声が響き渡った。
「あ、シャルム。オイラ、どうしたんだっけ?」
ずっと寝ていたせいか、声は大分掠れていたが意識は戻ったようだ。レスキプがとうとう切れたらしい。
「オリ、体調悪くないか?痛いところとかは?」
「なんか、体が熱い。あと、頭と背中が痛い。」
俺たちも慌ててオリの周りに集まる。
「シェリー、この子はまさか。」
「これは、覚醒の兆しにしては酷いわね。兆しだけならここまでの高熱は出ないし・・・。まさかこの年齢で完全覚醒なんてありえないわ。」
そんなことを言ってる間にも見るからにオリの症状は悪化している。
「く、苦し、い。」
そう言って苦しみ始めたオリが、放電し始める。
段々放電は強くなっていき、何もできない俺たちが見ている前でオリは徐々に形を失っていき電気、いや、雷そのものになりはじめる。呆然としていると、それは形を変えて鳥の姿になっていく。
「まさか、本当に完全覚醒しているの?そんなの聞いたこともない。」
シェリーの言葉に誰も返さない。シェリーも別に答えを望んでいたわけではなかっただろう、オリの変化を見守っている。
「これはまさか、鷲?」
「であろうな。雷神の使いとも呼ばれる鷲の魔獣か。これは珍しい。」
雷でできた鳥のように見えたものがいつの間にか立派な鷲になり、オリが寝かされていた場所の少し上で羽ばたいている。
「オリ、なのか?」
「我が名はアルタイル。我は使者であり監視者。我が使命は見届けること。約500年前の悲劇の終止符を打つ者の選択を見届けるために使わされた。」
「500年前って!?アレはもう終わったことじゃないの!なぜそれが再び出てくるのよ。」
「我らも終わったと思っていた。しかしそれはただの希望的観測でしかなかった。再びアレが繰り返されないために、最後の監視者として我はここにおる。」
「証拠は?まだアレが完全に終わってないって言う証拠はあるの?」
「其方の隣にいるものが何よりの証拠であろう。」
え、俺?
アルタイルと名乗る鷲と言い争ってるティムの隣は俺しかいない。図星を刺されたのかティムは言い返せないでいる。
「我は常に見ている。この小僧のすべてを通して。我らが願うのはアポルの平安、ただそれだけだ。」
そう言い残した鷲は、再び雷の塊となり、徐々にオリの姿へ戻っていく。
完全に元のオリに戻ると、その場で普通に寝はじめた。今度は穏やかな寝顔だ。
「歴史は繰り返されるのね。」
泣きそうな顔で言うシェリーに、そっと、でも力強くティムが答える。
「そうならないために私たちがいる。ソーマがいる。」
話の流れからして、俺はやっぱり何か重要なカギを握っているようだ。アレってのが何なのか。アルタイルが何者なのか。オリはどうなるのか。知りたいことはたくさんあるけど、多分聞いても教えてくれないし、他の皆もわかってないことがあると思う。
「とにかく、まずは精霊を探そう。フォルドは俺たちと旅してたらしいから俺の絶対精霊は知ってるよな?誰かの居場所を知らないかどうやら俺は、早くそいつらと合流しないといけないらしいんだ。」
「ああ、その話はキースから聞いた。」
「フォルド、キースと話したの?」
「話したも何も、奴を封じたのはこの儂だ。ソーマと離れていると長くはもたんというからな。」
「キースって俺の絶対精霊だったのか。どこにいるんだ?」
「儂の故郷、氷と雷の山の《フジュール》だ。」




