夢
聞こえてきたのは笑い声。それはもう、楽しくて仕方ないって言うような。
笑ってるのは誰?この声は、とてもよく知ってる気がする。
ああ、知っていて当たり前なんだ。何て言っても、この笑い声の持ち主は、俺自身なんだから。
「おいおい、ソーマ。お前何やってんだよ。」
「だってムーイ。フォルドが、あのフォルドが・・・。」
「ククッ、そう笑ってやるな。」
「そんなこと言ってるヴェルドだって笑ってるじゃん。」
なんだろう、この光景。あそこで笑っているのは、俺?じゃあ、今その光景を見ている俺は、何?
見覚えのある自分と、グリフォン姿のフォルド。見覚えのないあと2人。
「ティムが珍しく料理するなんて言うから蓋を開けてみれば、この大参事。」
「しかも被害を受けたのがフォルドだけってのが、また。ククッ」
「ほんっとティムって料理できないよな。火に鍋かけただけで爆発させるって。ある意味才能じゃん。」
「フォルド大丈夫か?顔、真っ黒だぜ?」
「どうみたって顔だけじゃないだろ。折角のフォルドの真っ白のローブも、これで台無しだな。」
少し離れたところにいてわからなかったが、そこには女性が一人いた。どうやらあれはティムらしい。料理に失敗したらしく、煙の上がっていて底に穴が開いてる鍋を見て呆然としている。近くにいたフォルドが爆発に巻き込まれたらしく、真っ黒になっている。それを心配する俺と、見知らぬ2人。話の流れから察するに、ムーイとヴェルドなのだろう。
俺はいったいどうなったんだ?確か、シャルムの母親が泣き崩れたところで激しい頭痛に襲われたはずだ。そこで意識を失ったんだろう。
つまりここは俺の夢の中。失われた俺の記憶の一部なんだろうか。
「そろそろ、西に着くだろ?」
「ああ。明日か明後日にはつくはずだ。最初に行きたいところとかあるか?」
「儂は特にない。」
「まあそう言うだろうと思ってた。誰もフォルドには期待してねえよ。」
「俺、龍種見てみたい!」
「ムーイ、お前バカか?俺たちが今から行くのは西だ。龍種がいるのは北だろ。ってかどうせ西行くなら俺は魔石を探したい。そろそろ金が尽きてんだよ。西の亜獣は結構獰猛で強いって聞くから、持ってるやつ多そうじゃね?」
「西だったら亜獣より魔物の方が多そうだが。」
「いいじゃねえか。稼げれば。魔物は魔石は落とさねえけど討伐報酬が結構もらえるだろ?」
「お前ら西に行っても金を稼ぐことしか頭にないのか?」
「そういうソーマは何したいんだよ?」
「美味いものを食う!」
「そうだったな、お前はそういうやつだよ。」
なんなんだ?この会話。懐かしい。どうしても、頭の片隅、いろんな人の名前を聞くたびに引っかかっていた部分が疼く。本能的にこれは俺の記憶の一部だと感じる。そうだ、俺は昔旅をしてたんだ。仲間と一緒に。
何のために?
目的なんかなかった。ただ、皆と一緒に過ごすのが楽しかった。
皆って?
仲間だ。ヴェルド、ムーイ、フォルド、ティム、ノア、キース、アレック・・・。
それって誰?どんな人?
そんなの、いや、後半の名前は誰だ?ティムまでならわかる。ノア、キース、アレックって?頭の中がモヤモヤする。肝心なところには霧がかかっていてどうしても見えない。ここは夢の中だろうからいつもの頭痛も来ない。
自分の中にもう一人の自分がいるかのようにひたすら自問自答を繰り返す。
「この《迷いの森》を超えたらやっと西側か。」
「この森って、一度迷ったら出れないんだろ?」
「そうだ。慎重に行かねばならん。こういうのはティムに任せるのが一番無難かと思うが・・・?」
「ええ。この森には案の定たくさんの精霊がいるわ。ここは数少ない人間も魔人も魔獣も手を入れることができない場所だから。」
「じゃあ、ティムについて行けば安全だな。ムーイ、離れんなよ?」
「なんで俺に言うんだよ!?」
「お前はいつもちょろちょろして俺たちに迷惑をかけてるからだよ。自覚ねえのか?」
「ほら、さっさと行くわよ。」
「ん?ソーマは何をしておる?」
「いや、何かあった時のために。」
「え、ソーマ何してんの?」
「ちょっと、木の苗をもらったんだ。1つや2つ苗を貰ったってここは変わらないだろ?何かここの木って特別な空気醸し出してるからさ。」
「特別な空気?」
「ここの木は、入った人を惑わせる独特の気体を放出してるわ。だからここが迷いの森って呼ばれてるのよ。この森を抜けることができるのは基本的には森に認めてもらえたものだけ。森から与えられる試練を乗り越えたものはこの森を通過できるそうよ。」
「じゃあ、俺たちもその試練を受けるのか?」
「その必要はないわ。だって私たちは精霊が導いてくれるもの。」
「あまり油断はしない方がよい。物事、何が分かるかなんぞ誰にもわからん。」
迷いの森だって?俺が調べた限りじゃ南と西の間には絶壁があるらしい。森があったなんて聞いてない。
その瞬間再び激しい頭痛に襲われる。
「ソーマ!」
耳元で声がする。誰が俺を呼んでいる?視界がぐるぐる回転し始める。何だか気持ち悪い。
「ソーマ!」
あれ、ここ何処だっけ?そういえば、倒れたんだった。
心配そうに俺を見ているティムと、少し離れたところで泣いているシェリーとそっと寄り添うフォルド。反対側ではいまだ眠っているオリの世話を焼くシャルム。
頭の中では夢の内容が繰り返し再生される。
「なあ、ティム。ノア、キース、アレックって?誰の事なんだ?」




