シェリーの涙と訴え
えーっと、俺はベルシャークに到着したんだよな?
で?フォルドが森に着地した、と。するとそこに謎の巨木があって、そこから猿が降りてきた。
キーキー喚く猿にシャルムが一括すると、木に戻った猿は、次に超絶美人な女性を連れてきた。
その美人は、俺を見るなり抱き着いてきた。
うん、これってどういう状況?
「ソーマ様!やはり生きておられたのですね!?」
そう言って俺に抱き着いたまま泣き始めるその美人。
「えっと、母さん?」
え、母さん?母親?誰が、誰の?シャルムの呼びかけにゆっくり顔を上げた美人は、はじめてシャルムの存在に気づいたようで、一呼吸おいてから話し始める。まさかこの人がシャルムの母親?
「シャルムも帰ってきたのね。その様子だとソーマ様と一緒だったようだけど、何があったの?」
「立ち話もなんだから、中に入ってはどうだ?」
「あら、フォルド。あなたも来てくれたのね。今日は素晴らしい日だわ。」
いや、フォルドの大きさじゃ入れるわけないだろ。ってかこの木を俺にも上れってか?
そんなことを考えてると、後ろで、何かが激しく光ったのを感じ振り返る。
「え?」
後ろにいたのは2,30代くらいの美青年。いつからいたんだ?
「あら、その姿に戻っちゃったの?フォルド。」
「は?フォルド?」
ティムの言葉に驚きを隠せない。シャルムもシャルムの母親らしき人も驚いている。
「あら、フォルドが人化したらこうなるわよ?そういえば、フォルドってあんまり人前では人化しないから知ってる人ってあんまりいないんだっけ。」
「もしかして、ティム様もそこにいらっしゃるのですか?」
美人からは、どうやらティムは俺たちの陰になっていて見えていなかったようだ。
「積もる話は後にしましょう。今はオリでしょう。」
ティムの言葉にハッとしたような顔をしたシャルムは、俺たちを木の中に招き入れる。どうやらさっきの猿が上からきたのは、単にそれが好みだったらしく、木の根と根の間の隙間から中に入ることができた。
「すっげーな。」
木の内側は空洞になっていて、中には立派な生活空間ができている。壁に沿って螺旋階段のように段差があり、木の上部まで行けるようだ。
中の作りに感心していると、さっそくシャルムが本題を切り出す。
「母さん。この子はあたしが旅の途中で拾った人ベースの魔獣のオーリンだ。既に10歳を超えて、成長速度も私たちと同じなのにまだ覚醒の兆しが出ていないんだ。でも、ここに来る途中にアーリクってやつに襲われて、突然苦しみだした。それが完全覚醒前の状態に酷似してて、弱った体にこの状態は危ないって判断したティムが、レス・・・?まあそんな感じの奴使って時間稼ぎしたんだ。母さんなら何かわかるかもって思って。」
「レスキプの事ね。ソーマ様がいくつか持ってるはずだから。私はとにかく状態を見ないことには判断しかねるわ。ティム様、レスキプの効果はあとどれくらい持ちますか?」
「そうね。あと1,2日で切れると思うわ。早ければ今夜かもしれない。」
「じゃあそれまでは思い出話とでも行きましょうか。折角ソーマ様とフォルドが来てくださったのだし、シャルムと何で一緒なのか知りたいわ。」
その瞬間、俺の事情を知っている人、つまりシャルムの母親以外全員の顔が強張る。
誰が言うかという視線を数回交わらせた後、結局ティムが言うことになった。
「えっとね、シェリー。ソーマは、記憶がないの。」
ゆっくりと、言葉を選びながら告げるティムだったが、やはりそれも無駄だったようだ。
「そんな!?ソーマ様!私のことはともかく、ムーイの事も覚えていないというのですか?あの人がどれだけ・・・」
そう言って泣き崩れるシェリー。ムーイ?ムーイ。やっぱり頭の片隅に引っかかる名前。
「シェリー。」
そう言ってフォルドがシェリーの肩をそっと抱く。
「えっと、お取込み中悪いけど、母さんとフォルドやソーマって知り合い?」
泣いていたシェリーがパッと顔を上げてシャルムを睨む。
「知り合いですって?そもそもムーイは、あなたの父親はソーマ様を探すために出ていったんじゃないの。ヴェルド様たちとも連絡が途絶えて、ソーマ様の行方も分からずに居てもたってもいられなかったのよ、あの人は。ムーイはシャンベルクで何があったのか結局私には教えてくれなかった。帰ってきたあの人は『ソーマが、ソーマが・・・』ってうわ言のように言ってるし。ティム様達に何とか連絡を取ろうとしてもどこにいるのかわからない。ムーイが元に戻るのに大変な時間がかかったわ。いいえ、それでも完全に昔のムーイには戻らなかった。あなたが生まれてやっと落ち着いてきたと思ったら旅に出るって言うし。私はムーイを信じてるから、ちゃんと戻ってきてくれると思ってる。でも、再会できてもソーマ様がこれじゃあ。」
シャルムに向かって泣きながら訴えるシェリー。
ムーイ、シャンベルク。そしてヴェルド。
頭が・・・痛い。
俺はそこで意識を手放した。




