無茶苦茶な通過方法
俺が見つけてきたのは大きめの葉っぱと木の枝、強度がそこそこあるツタだ。
木の枝で適当な枠組みを作り、ツタで固定する。その上に大きめの葉をかぶせてひっくり返すと、即席船の出来上がり。
「ねえ、何する気?」
ティムが不安そうに見てくるが知ったこっちゃない。先に行ったシャルムはもう見えない。
「よし、やるか。」
そう呟き俺は渾身の力で魔法を発動する。それはとても単純かつ大規模な力押しでしかない技。
「嘘でしょ!?そんなの成功するわけない。」
俺は魔術により大量の水を呼び出した。俺のほぼすべての魔力を込めてありったけの水を呼び出した。最初は本当に小川程度の水しか来なくて失敗したかとも思ったが、数秒後に背後からゴゴゴゴゴと、地響きが聞こえ、振り返ったそこには本当にプールをひっくり返したような大量の水。波に呑まれるかとも思ったが、そこはティムがちゃんと補助してくれて、うまく波にのれた。
「ひゃっほーい!!!!」
まるでウォータースライダーだ。重心を変えたり、ティムの風でうまく船を操りどんどん先に進んでいく。
「あれ、シャルムじゃない?」
ティムが示す方向には、下の水に驚き、必死で枝から枝へ飛び移っているシャルムがいた。まあ、それも当然かもしれない。何せこの辺はもう5メートルくらいの深さ浸水してる。地上から7.8メートルくらいの高さで進んでいたシャルムは戸惑うだろう。まあ、俺が森から出たらこの水も消えちまうんだろうけど。
「おーい!シャルムー!」
俺が手を振ると、こっちを凄い形相で睨んでくる。
「この水、やっぱお前の仕業か!何がしてえんだよ!」
「見たらわかるだろ、ウォータースライダー!いかだよりもちゃちな船だけど、案外速いぜ!」
そんなことを言ってる間にシャルムをあっさり追い抜く。
これ、マジで楽しい。
「楽しんでばっかりはいられないようよ。」
そう、肩の上で言うティムの視線をたどると、枠組みとなっている木を固定するツタが切れそうになっていた。
「あっちゃー。これで森のどのくらいまで進んでるかわかるか?」
「もう3分の2くらいは終わったわ。」
「じゃあ作戦パート2と行きますか。」
「これ以上何をする気なのよ。」
もうティムは呆れかえっている。
俺はいったんステータスからすでにMPが回復していることを確認する。俺はレベル補正と所持アイテム《ホーリーリング》の効果でMPの回復速度が異常に速い。ホーリーリングは、持ち主のHPやMPの回復速度を本来の2倍に速めてくれる。だから俺は簡単な魔法なら使った直後にすぐ回復するし、かなりの量を消費しても暫くおとなしくしていたらすぐ元に戻る。今回は水を呼び出すのにかなり消費したため、全快とまではいかないが、作戦パート2を実行できるくらいにはなった。
「じゃ、パート2開始!」
言葉と同時に氷属性の魔法を使い、これから通るであろう場所を道のように凍らせる。そのタイミングに合わせたかのように即席船が崩壊する。飛び降りた俺は氷の道を一直線に滑る。俺の動きに合わせて氷魔法は発動するため、俺の数メートル先をどんどん凍らせていく。平らになるようにしていたため、風で体を押されて自然と前に進める。スケートは小学生時代に親父の趣味でやってたくらいだな。あのころはかなりうまくなったけど今は・・・。
「あら、結構上手いじゃない。」
意外と体は覚えてるものだった。まあ、スケート用の靴ではないからあまり思い通りにはいかないが十分いける。
暫く滑っていると、森の出口が見えてきた。俺はどうやら水に追いついてしまったらしく、ちょうど森の出口で先頭部分と思われるところが凍っていた。俺は思いっきり飛んで森から出る。そうだ、忘れてた。俺は約5メートルの深さの水を凍らせた。つまり俺は今5メートルの高さの氷から飛び降りたことになる。
「うわぁぁぁぁぁ」
「バカね」
ティムが地面スレスレのところで強風をおこしてくれ、足から自然に降り立つことができた。
氷を保つために使っていた力を解く。なんとなく、鳩尾の奥の方で閉じ込められていた違和感が解放された感じ。
森を振り返ると、大量の水と氷が霧散していた。
魔法で創り出した物の維持にはそれなりの魔力が必要だ。維持してる間は少しずつMPが削れていく。さらに大きな力を使えば使うほど鳩尾の奥が引っ張られるような無理やり押さえ込まれるような感覚に襲われる。
「ソーマァァァァ」
あー。シャルムがブチギレてる。
「お前は常識というものを知らないのか⁉︎あ⁉︎何が『ウォータースライダー』だ。お前は何がやりたいんだ!」
「単純に手っ取り早くこの森を抜けたかっただけだ。結果的にシャルムより速かったじゃんか。」
「だからってこれはやりすぎだろうが」
「被害はどこにも出してない。水は俺がそばからいなくなったら普通に消えるし、木をなぎ倒すほどの力は使ってない。まあ、全部風で薙ぎ払ったり、炎で森全体を燃やし尽くすのもアリかとは思ったが」
とうとうシャルムは頭を抱え、助けを求めようとしたティムもため息をついている。
俺、なんか間違ったことしたか?




