小さな森
「と、言うわけで、俺は大体何でも収納できるし収納したものは取り出すことができる。」
「ちょとまて。じゃあ今まであたしたちが野営道具を持ってた意味は?お前に任せれば重たい思いもしなくて済んだし、こんなに嵩張って邪魔になることもなかったんじゃないか?」
「そういやそうだな。思いつかなかったわ。」
シャルムがすごい形相で睨んできているが、俺が自分の荷物を持ってくれなかったといってキレるのもおかしいと思っているんだろう。特には何も言ってこない。
「まあ、これからはポーチに一緒に入れとくよ。」
「・・・頼む。」
そうだ、これまでに道のりはシャルムはオリを抱えて、二人分の野営道具も持っていたんだ。いくら魔獣だからって言っても配慮なさ過ぎたな。
「取りあえず二人も適当に食事してからすぐに寝なさい。今晩は私が見張りしといてあげるから。」
ポーチから、取りあえず即席で食べれるものを出してシャルムと二人で食べ、ティムが見張りをしてくれる旨を話してさっさと寝る準備をする。
こんなのを持ってるんだったら俺は今までなんで野宿して、空腹で死にかけてたんだろ。
「持ってたんだから使わなかったあなたの自業自得じゃない。」
「いや、普通、入ってるなんて思わないだろ。」
「うるさい、ソーマ!」
シャルムに怒鳴られてティムを睨む。『お前のせいだからな』っていう思いを込めて。
『別に私のせいじゃない。勝手にソーマが声を荒げたんでしょ!』
『ティムがムカつくこと言うから。』
『でも怒られたのはソーマが大声出したからよ。言いたいことあるなら普通にこうやって心の中で話せば通じるんだし。』
『この会話方法は普通じゃないだろ。』
『揚げ足とらないでよ。もう外に出るわ。見張りはテントの中にいたって意味ないもの。』
ティムが出ていくのを見送る間もなく眠りに落ちる。あ、俺も結構疲れてたんだな。
翌朝、自然と目が覚めた時にはまだ隣にシャルムとオリが寝ていた。オリ、まだ目を覚まさないんだな。
『目を覚まさない方が都合がいいわ。レスキプが効いてる間は身体の変化が起きにくいって言ったじゃない。オリの目が覚めたらそれはレスキプの効果が切れる前兆よ。あ、朝ごはん作っておいたからシャルムが起きたら2人で食べてね。疲れてるんだろうから自然とおきるまでそっとしておいてあげましょう。』
小さなテーブルにはサラダと木の実みたいなものが準備されてる。シャルムを起こさないように、静かにするためにわざわざ声に出さずに教えてくれてるのだろう。
『これ、どうしたんだ?』
『周辺から食べれるもの探してきた。ここから暫く先に進んだところは少し森みたいになってるから。そんなに規模が大きくないんだけど。そこにいろいろあったの。』
夜の間に周辺をうろついていたらしいティムから話をいろいろ聞いているうちにシャルムも起きだした。
「シャルム、おはよ」
「ん?ああ。」
どうやらシャルムは低血圧らしい。
「ティムが朝食用意してくれたらしいから食べようぜ。」
「ああ。」
サラダはいろんな植物やら薬草やらを切ってまぜたもので、ポーチに入っていたソースみたいなものをかけて食べたら美味しかった。ティムに料理ができるのか聞いてみたら「私は切るの専門。サラダ以外は期待しないで。」と返ってきた。
朝食を食べ終わって暫くするとやっと少しずついつものシャルムに戻ってきた。
出発するころにはテキパキ動いて後片付けなんかもやってくれた。
道具は全部ポーチに無造作に突っ込む。シャルムがオリを背負い、ティムが俺の肩に乗ったのを確認した瞬間、後ろから勢いよく風が吹く。それに合わせて俺たちも走り始めた。
1,2時間ほど走ったところで小規模な森に辿り着いた。規模自体は小さいが、何分地面にはびっしりツタやコケが覆っていて走りにくそうだ。迂回しようかとも思ったが、そんな時間はもったいない。
シャルムを見ると、布製のひもでオリを自分の体に固定している。
「よし、行くか。」
ギョッとしてそう言ったシャルムを見る。こんな中走るのって大変じゃ?
すると、シャルムは思いっきり飛び上がり太めの木の枝を一本掴む。そして風の影響で体が前に押し出された瞬間手を離し、次の枝を掴む。まるで曲芸師、いや、サルだ。そういえば、シャルムは劫火猿っていう猿の魔獣だったっけ。
「ソーマ、何してるのよ!私たちだって行かなきゃ。」
「いやいや、俺にあんなのできるわけないだろ!俺は普通の人間だっつーの!」
「じゃあ、木に登らなくても先に進める方法を考えなさい。ソーマにはその無茶苦茶な魔力があるでしょう。」
俺は少し周りを見渡して使えそうなものを探す。よし、あれを使おう!
結果を予想してニヤニヤが止まらない。




