休憩
「お前は今のこの状況が分かってんのか!?オリが危なくて、お前自身も精霊を探さないといけないって言うこの状況が!」
「そんなのよく分かってるさ」
「じゃあなんでお前はのんきに遊んでんだ!?」
「別に遊んでなんかいないさ。魔法の練習だよ、練習。ほら、さっき使った合成魔法についてティムからダメ出しされてさ。」
「じゃあなんで上に放った?」
「前にはシャルムたちがいたし、横は後処理が必要になってくるから。」
「あたしが聞いてんのはそれじゃねえ。わざわざ飛ばす必要があったのかってことだ。お前の魔法なら自分で消去だって出来んだろーが。」
「だってそれは
「そんなの面白くない、なんて言うつもりじゃねえよな?今のでこの辺にいるかもしれない亜獣や亜人間に居場所を感ずかれたかも知れないし、近くに冒険者がいないとも限らない。さっきあんなことがあったのに自ら自分の居場所を言いふらすような真似して何になるってんだ。」
「でも、こんだけの速度で移動してんだから大丈夫じゃないか?」
こんな高速で移動しながら平然としゃべってる俺たちは結構傍から見たら変なんじゃないか?
「この速度なら人間には目で追えないから大丈夫よ。目の前通っても、何かが過ったってぐらいにしか思われない。」
「ほら!ティムだって『この速度なら人間の目では追えない』って言ってるぜ?」
「馬鹿野郎!所詮人間だろうが!スピード特化型の魔獣だったら追いついてくる奴もいるかもしれないし、冒険者だったらあたしたちみたいに魔法で何とかできる。甘くみんな!」
ここまで言われてやっと自分の浅はかさを理解する。
「悪い。」
ボソッと呟いただけだったが魔獣の耳には十分届いたようだ。
「まあいいさ。やっちまったもんは仕方ない。で、これからどうする?ベルシャークはそろそろ東側に曲がりはじめなきゃいけないんだが。ソーマたちはどこに行きたいんだっけ?」
「最終目的は北だ。ヴェルドの森に精霊がいるって話を聞いたから。でもベルシャークにも何日間か行く予定だ。もしかしたら精霊がいるかもしれないから。」
「ソーマ、本当に行くの?」
ティムが嫌そうな顔をするが行ってみたいものは行ってみたいんだ。
「じゃあ、このままあたしについてきてくれ。」
そういったシャルムは少しずつ進度を傾けていく。
俺は頭の中でヨールキの地図と自分たちの速度を計算し、現在地とこれからベルシャークに着くまでにかかるであろう時間を計算する。
人間が住む南側でも、ポエルは南寄りにある。そしてそこから少し北に進んだところにルネッシオはあったはず。そこに着くまでに俺は5日ほどかかってる。ただし今はオリがいない分スピードが上がってるし、風で加速もしている。オリがアーリクにやられてから今俺たちはひたすら走っている。既に丸一日は経ってるだろう。ここにいる奴は全員夜目が利くし、数日眠らなかったところでダウンするような奴らじゃないから時間の感覚を失念していた。あと数時間で再び日も暮れるし今夜は寝ないとシャルムの顔色もあまりよくない。その間オリが目を覚ますこともなかった。
しかも、今はおおよそ南側のちょうど中央辺りを走っているんだろう。確かにこのくらいで東側に進めば東の真ん中にあるベルシャークにはたどり着けそうだが、ここからは相当な距離がある。ここらで一度休まなくてはもたないだろう。
「シャルム。今日はこの辺で一度休もう。」
「なんでだ?まだいけるだろ。昨日寝たばかりだから明日か明後日休めば
「何言ってんだよ。俺たちはもう2,3日眠ってなんかいない。俺たちが一緒に旅し始めてからまだロクな睡眠とってねえだろ。オリがこうなってからすでに丸一日は経ってる。暫く揺れ続けてたんだから今夜くらいちゃんと地面で寝かせてあげた方がいいだろ。」
シャルムの表情を見ると、走ってる間に一度夜が明けたことにも気が付いてなかったようだ。
シャルムにとってオリは相当大事らしい。本当に周りが見えなくなっている。
「それにシャルム自身の顔色も悪い。お前が倒れたら元も子もないだろ。」
しぶしぶ頷いたシャルムは野宿の用意を始める。
「何でそんな面倒なことをするの?ソーマのポーチに旅に必要な道具は一揃え全部入ってるわよ?テントを出してみて。」
ティムに言われたとおりテントをポーチから呼び出す。ポーチから出した瞬間巨大化するテント。
「うわっ!大きくなった!」
「当り前じゃない。ポーチの中に入れる時は勝手に圧縮魔法がかかるのよ。出した瞬間その魔法は解けるけど。」
出てきたテントはかなり立派なものだった。大の大人が5,6人入っても余裕で寝たり動いたりできそうだ。どうやら寝袋なんかも完備されてる。
「食べ物なんかもポーチの中に入ってるわよ?」
言われたとおりにポーチを漁ると料理に必要そうなものは一通り入ってた。
「おいおい、そんなもんどっからだしたんだよ。」
そういえば、シャルムにこのポーチの話したことあったっけ?




