追い風
俺はティムが言ったことを一部を除いて教えた。
シャルムは取り敢えずオリが無事なことに安堵しているようだ。
「今は薬で抑えてるけどこのままだと薬の効果も長くはもたない。どうする?」
「あたしたちはこれからベルシャークに1度戻るつもりだったんだ。そこにいるあたしの母親にオリを合わせようと思ってたんだ。あたしの母親は子供大好きだからあたしが家を出てからいろんな孤児を拾っては独り立ちできる年齢になるまで育ててるんだ。まあ、あたしがいなくなった寂しさを紛らわせるためってのもあったんだろうけど。んで、オリはずっと覚醒の兆しがないことに悩んでたから相談したら何かわかるかと思ってな。」
ベルシャークか、面白そうだな。
「ソーマ!?私たちは精霊を探さないと!」
「でもヴェルドの森に1匹いるとしても、まだ2匹いるだろ?もしかしたら東にもいるかもしれないじゃんか。」
「いるかもわからないのを探すより、確実にいることが分かってる精霊を救うのが先よ!それがアイツってのは気に入らないけど。」
「でもどうせヴェルドの森って北にあるんだろ?行く途中で東を通るじゃないか。その時に何日か探したっていいだろ?」
「絶対を精霊探すためじゃなくてベルシャークが面白そうってだけでしょ。」
やっぱ手強いな。
「ソーマ、私たちの心が繋がってることもう忘れたの?」
・・・。
「つまり、ソーマがベルシャークに行ってみたいと思ってることもシャルムの母親を見てみたいって思ってることもお見通し。まあ、ベルシャークに行ってみたい大概の理由が美味しいものがありそうってのには呆れるけど。」
なんでそんな事細かにわかるんだよ!?
そんな細かいところまではわからないんじゃなかったのか?
「ああ。別に読もうと思ったらお互いの頭の中全部のぞけるわよ。ただ莫大な情報量になるから脳の許容量オーバーして正気でいられる保証はないけど。」
「じゃあなんでお前はそんなに読めるんだよ。」
「コツをつかめば読み取りたいところだけ読み取れるわ。特にソーマは分かりやすいもの。それに私、こういうのが専門だし。」
「専門?」
「情報特化って言ってるじゃない。相手の表情や言動からいろんなことを読み取るのも私の仕事よ。」
「おいおい、ソーマ。その猫が精霊ってのは分かったけどやっぱ猫と人間が会話してる風景って違和感ありまくりなんだよな。どーにかなんないの?」
突然会話に入ってきたシャルムにも驚いたが確かにその通りだ。シャルムを見ると、まだ眠っているオリを背負っている。
「時間がないんだろ?早く出発するぞ。」
どうやら出発するつもりのようだ。俺は特に片づけるものなんかもなかったから、すぐに立ち上がる。
「あ、オリは俺が運ぶぜ?その方が早いだろ。」
「いや、人間より魔獣であるあたしの方が筋力も体力もあるだろ。オリがいない分、速度を上げるが問題ないよな?」
「ソーマ、シャルムに任せた方がいいわよ。身体強化はされてるけどやっぱり魔獣と人間は単純な力だけなら魔獣が上だから。まあレベルの問題でHPはソーマが上だけどね。」
ティムの助言に従ってオリのことはシャルムに任せ、速度は問題ないと答える。
「じゃあ行くか。」
シャルムがそう言った瞬間、シャルムの脚が微かに朱く輝く。一瞬燃えてるのかと思ったが、炎は出ていない。
走り出したシャルムは今までとは比べ物にならないくらい速い。
「その脚は?」
走りながら聞く俺に軽く答える。
「脚にだけ力を開放してるからな。元に戻らない程度にだが。こうすれば結構な速さで走れるんだがオリには無理だからな。ソーマもこのくらいの速度ならいけるだろ?かなりスピード抑えてるように見えたし。」
「そういえば、炎だったな。俺は余裕だ。まだ速度上げてもいいけど。」
「普段なら大丈夫だが今はオリを背負ってるから無理だ。」
「だったら私が力を貸してあげる。」
突然聞こえた声はティムのものだった。そういえば、かなりの速度を出してるのにこの猫は平然と俺の肩にのっている。普通なら風圧で吹き飛んでも、と思ったところでティムは風の精霊だったと思い出す。
「ふふ。行くわよ。」
その瞬間、後ろからもの凄い追い風が吹く。しかも、どうやら俺とシャルムの背後からのみ吹いているようで、1メートルくらいしか離れていないところに生えている草はまったく揺れていない。うまく風に乗れば1.5倍くらいの速さになる。かなり楽だ。
こんなのできるならさっさと言えよ!
「だって今まで使う機会なかったじゃない。そもそも私たち、さっき合流したばかりよ?」




