製造者
「精霊たちが案内してくれるようだから、ついていきましょう。因みにああいう精霊を呼び出せるのは特別な精霊だけよ。私の弟、精霊王やってるの。本当の継承権は先に生まれた私なんだけど、事情があって弟が継いだから。それでも精霊たちは私の頼みごとを聞いてくれる。自分勝手な私の言うことを。精霊は自由なの。誰にも支配されない。だから望まないものまでいう通りにはできないのよ。」
え、もしかしてティムって王女様?でも弟って?ムーネル種の唯一の生き残りって言ってなかったっけ?
「弟は少し異種が混じってるから。純種は私一人なのよ。精霊は自然から生まれる場合と、精霊から生まれる場合があるの。精霊から生まれる場合は人とは仕組みが違うけど。精霊王は大体その代で一番力のある精霊がやるの。力って言っても単純に魔力だけじゃない。精霊はヨールキ全土にいるから、それを統べる才能とかを全部ひっくるめて。それを言うと大体私の一族か、モネの一族、フィル、正確にはそのお母さんの一族になるのよ。あ、フィルは今の精霊王、モネは私の幼馴染で、みんなムーネル種。でも純粋なのは私だけ。幻想種って魔力とかはずば抜けてるからさ。政治的なことはムーネル種が向いてるから、自然にそうなっちゃうのよね。フィルは異母弟。私たち以外のムーネル種は戦争でみんな死んじゃったわ。最初は私が王の座に就くべきだと思ってたけど私は表立ってそういうことをやるの苦手だったから。フィルを王にして私はそのサポートに徹した。」
精霊の世界も複雑なんだな。ってかまた読まれてたのか。
「ティムが王女なんて「黙って!」
前を歩いていたティムに止められる。歩いていたっていうより風で流されてた感が否めなかったけど。隠れる場所もないこの辺で前を歩く人影を確認するのは容易かった。
「シャルムとオリじゃん!」
「もう一人いるじゃない」
確かに、シャルムとオリと一緒に何か話しながら歩いている男がいる。どうやら魔獣ではないようで、人間くらいの速度で進んでいる。だからこんな簡単に追いつけたのか。
そこで気づく。その男が発している禍々しい空気に。
『あいつって・・・。』
『十中八九さっきの魔物の製作者でしょうね。普通の人間には見えないもの。』
ある程度の距離まで近づいたので声は出さずに会話する。俺は漆黒のローブを着ているから相当目立つ行為をしない限りばれることはない。ティムも気配を消しているようだ。
こっそりと会話が聞こえるくらいの距離まで行く。
「あなたはシャルムさんとおっしゃるのですか。わたしはアーリクと申します。シャルムさんはこの辺で怪しいものを見かけませんでしたか?」
「特には見ていないが、何故だ?」
「わたしの相棒とも呼べる無二の存在が先ほどこの辺で殺されたようです。かなりの強さを誇るものでしたので、そう簡単に殺されるはずがないのですが。記憶は一部共有しているので猫を連れた黒ローブの男ではないかと思われるのですが。」
「それってソ
ガツン
俺の名前を出そうとしたオリがシャルムから拳骨を落とされる。
「誰か心当たりがいらっしゃるようですね。」
「いや、知らねえ。」
シャルムもこの男を怪しんでいるのか答えようとしない。
「じゃあもういいか。」
呟いた男は突然オリの首を掴む。ものすごい力で絞められているのか、オリが苦しそうにもがく。
「何やってんだよ!?」
シャルムが怒っているがオリがいるせいで手出しができないでいる。
アーリクと名乗った男は微笑を浮かべて楽しそうだ。
オリの首を絞めている手をよく見入ると紫のような黒のような靄が滲み出ている。これはまずそうだ。俺が手を出そうとすると「私が行く」と足元から声がした。
ティムが行くといってるなら安全だろう。
突然吹き荒れた暴風に一瞬アーリクの手が緩んだのが見える。その隙に再度吹いた風がアーリクの手をズタズタに切り裂く。落下するオリの体を風がそっと運びだす。シャルムの前に来たところでシャルムが抱き留めると風は止んだようだ。その間にアーリクはすでにボロボロになっている。ティムに手ひどくやられたようだ。
「この程度でソーマの仲間に手、だすなんて身の程知らずね。大方ただの人間風情が誰かを憎み続けたなれの果てでしょう。」
そう言って止めを刺す。
死んだ男は灰となってその場に崩れ去った。
「これは厄介ね。」
瞬殺しといてなに言ってんだ?
「これ、本体じゃないわ。ただの人形、若しくは分身体か。それで魔物を創ったり魔法を使ったりできるってことは・・・わかるわよね。」
やっと俺は事の重大さに気づく。
「まだ彼女たちには言わないほうがいいわ。余計な不安を与えるだけだし。何よりオリの治療が先。」




