ティムの力
気まずくなった俺たちはそそくさとその店から出る。
もうあまり時間がないからフィルネー全部は見れない。
『俺が気に入りそうなものってわかるか?どうやらティムは俺のことを結構知ってるみたいだし。』
『ええ。2,3件候補の店があるわ。そこを回ったらあの二人と合流しましょう。』
ティムに連れられて入った店は、それぞれ食べ物、アイテム、薬が売ってあった。
ラベルを見たってどうせ何かわからないんだからと、ティムが選んだものを適当に買っていく。
『こんなものじゃないかしら』
確かに相当な量の買い物をした。全部ポーチに入れたからあまりわからないが。
肩にティムが乗ったのを確認してからフィルネーから離れる。あまり周りの人間に違和感を与えない程度の速度で歩くのは精神的につかれる。
ルネッシオの門に辿り着いた瞬間、これで人目を気にせずに済むという解放感に身体が軽くなった気がする。所詮気がするだけだが。
取りあえず北に進めば会えるだろうとまっすぐ進む。この身体能力と靴の速度で走れば、肩に乗っているティムは危ないかもしれないと思っていたが涼しい顔でリラックスしている。
「頭少し下げて」
寝ていたかのように見えたティムが突然目を開いて忠告する。
俺は何が何だかわからないままに伏せると俺の頭が通るはずだった場所を何かがすごい勢いで通っていた。ティムを観察していた上に、ものすごい速さだったので気づけなかった。不甲斐ない。チラッとティムを見ると何やら怒っているようだ。気を抜いたこと、怒られんのかなあ。
「雑魚が。ソーマの前を通るなんて。まさか、あれで襲った気なんて、言わないわよねぇ?」
ティム、顔が変わってる。視線の先をたどると鳥と虫が入り混じったようなよくわからない生物がこちらを見ながら浮いて、いや、飛んでいる。
「魔物、ね。」
「魔物?」
そういえば、魔獣とも亜獣とも、もちろん亜人間でもない。あれが魔物か。初めて見た。
「魔物はいろいろ面倒なのよ。ちゃんと倒さないと周りに被害が出るの。死ぬときに瘴気をまき散らすの。」
「面倒だな。」
「こんなのソーマが出るまでもないわ。私がやる。」
「え、え、え?」
「私のソーマに手を出したこと、後悔させてやる。」
いや、別に俺ティムのものじゃない。
口には出さなかったがどうせわかるんだろうな、と思ったが、どうやらティムはあの魔物の方に注意が向いていて気づかなかったみたいだ。
「塵となれ」
ボソッとティムが呟いた瞬間、抵抗する間もなく魔物は風に包まれて切り刻まれる。風が収まった途端黒い靄が、魔物がいた場所から噴出する。
げ、これヤバくないのか?
すると、ティムから穏やかな風が出てきてその靄を吹き飛ばす。
ん?これで終わり?
「ええ。これで終わり。ソーマに危害を加えようとするなんて。」
「別に偶然通っただけかもしれねえだろ?」
「そんなの関係ない。ソーマの前を通ること自体あんな下等な奴には許されないことだわ。」
何この子。とにかく話題変えよう!
「魔物って、何なんだ?それにさっきの靄は?」
「魔物は魔物よ。人間がおかしくなった奴が亜人間、魔獣のおかしくなった奴が亜獣、残りの魔人がおかしくなった奴が、魔物。あの靄はさっき言ったとおり瘴気。あれに触れたら腐ったり壊死したりするから気を付けてね。勿論あれが地面に落ちたりしたらそこらは植物何て当分生えなくなるわ。風で吹き飛ばしたら余計面倒。瘴気がその分散らばることになるんだから。だから敢えて風で一度囲んでから切り刻んだんだし。」
「ちょっと待てよ。最後、瘴気を風で吹き飛ばさなかったか?」
「あれは別。浄化の風を使ったのよ。光と風を組み合わせた私特有の技。魔物は魔人と同じで光に弱いから。」
「でもそんな厄介なもの、その辺にいたら大変じゃないか?」
「そうよ。だって魔物って西以外ではあまり見ないもの。どこかに発生源があるはず。魔物はちょっと特殊で、創ることができるのよ。そんなのを考えると魔人と一緒にしたら悪いか。後々面倒になるから、製作者潰しに行きましょう。墓地とか人の悪意が溜まるところはこの近くにはないからね。」
そんな危険の奴ほっとくわけにはいかない。絶対面倒事を引き起こすからだ。
その瞬間
キーーーーーーーーーン
と耳鳴りがする。俺は思わず耳をふさいで目を瞑る。数秒後、目を開けてティムを見ると、違和感を感じる。何か、その周り一帯の風景が歪んでいるような。
「おいティ
キーーーーーーーーーン
再び耳鳴り。ティムを見ると、そこにはさっきの違和感はもうなかった。
「ティム!さっきのは何だったんだよ。お前の周り、何かいただろ。」
「やっぱり見えたの。さっきのは精霊よ。まだ形を得ていない。高位の精霊にしか見えないんだけどあなたもやっぱり見えたのね。」
「精霊?なんで?」
「情報を得るため。何の情報もなしに追えるわけないじゃない、製作者なんて。知ってることを教えてもらおうと思って呼び出したの。思った通り、この辺をうろついてたらしいわよ。闇の魔力をまとったいかにも、な奴が。」




