キューリィの店
「で、今更だとは思うがそっちのソーマってやつは?何者だ?」
うん。本当に今更だね。
「だからさっき言ったじゃんか。一緒に旅してる仲間だ。それ以上でも以下でもねえ。」
「でも雰囲気から察するに魔獣じゃないだろう。」
「ああ。一応人間だ。」
「一応ってなんだよ、一応って。」
笑って言うキューリィに俺たち3人は誰も答えない。わからないんだから。
取りあえずこの空気を何とかしようと話を変えてみる。
「やっぱキューリィも、魔獣なのか?」
「お前も今更だな。そうだ。このクソジジイは正真正銘魔獣だよ。しかも最強種、水龍だ。ランクも確かSじゃなかったか?」
「ああ。気づいたらそんなことになってた。」
なんかやけに俺の周りは最強とか伝説とか多いな。
「そんな人が何で人間の街でフィルネーなんか参加してるんだよ。」
「もともとこのクソジジイはベルシャーク一の魔獣で王の側近だったんだよ。で、引退して暫くは訓練兵の指導教官としてベルシャークに滞在してたんだが、戦争に加担するのがバカバカしくなって放浪の旅に出たらしい。で、旅先で見込みがあるやつを見かけたら満足いくまで鍛え上げて、気が済んだらまた次の街へみたいな生活を続けてたらしい。」
「大体そんな感じだな。で、東側はある程度見終わっちまったから比較的行きやすそうな気候の南側に来てみたってわけだ。」
ちょっと待て。ここ最近は戦争なんてあったって聞いてない。しかもさっきは150歳を超えるであろうシャルムをガキ扱い。このじいさん、一体何歳だ?
「おいシャルム。キューリィって年齢どのくらいだ?」
「あ?知らねえよ。龍種はただでさえ長寿なんだ。特に水龍はかなり長生きするって聞いてる。あたしが出会った時はすでにこんなジジイだったからな。」
そう言って確認するようにキューリィの方を見る。
「年齢か、そうだな。もう2000年近く生きてるんじゃねえのかな。もう3桁に突入した時点で数えるの諦めたし。」
ああ。本当にクソジジイだ。
「で、結局ソーマは何者だ?」
あ、そこに話を戻しちゃうのね。
「旅人ですよ。ただの。魔術師です。」
「ほう。冒険者か。あ、これ出来上がったぞ。」
昼飯を作り終えたらしいキューリィがおいしそうな料理を差し出してくる。
なんでも、見つけた食材で適当な料理をふるまう店らしい。出されたものはパッと見お好み焼。よくわからないパン生地みたいなものにいろんな具が入っている。この具が、その日獲れたものなんだとか。
何かソースは、と探してみるが、オリもシャルムもそのまま食べているから俺もまねる。
「でもただの冒険者にしちゃ、ちょっと纏ってる空気が異質過ぎやしないか?それにその猫。ただの獣じゃないだろう?魔獣でもなさそうだし。」
「だっから私を獣扱いしないでって言ってるでしょう!」
いつから起きていたのかわからないティムが怒る。
起きてるならこれ、食べるかな。精霊の食べ物ってなんだろ。
すると、俺の方を向いて話す。
「精霊は食べなくても生きてけるわ。食べられないわけじゃないけど。力の供給は主からするんだし。でも、おいしいものなら私も食べたい!あと、この男結構鋭いから気をつけなさいよ。昔有名だったんだから。」
食べるなら、と俺の分のお好み焼みたいなものを小さくちぎってティムの口元に寄せてやる。
パクッと口に入れると満足そうな顔で俺の指を舐める。
「猫ってこんなもの食わせていいのか?」
オリが不安そうに言うがシャルムが鼻で笑う。
「精霊なんだから変なもの食ったくらいじゃどうもならんだろ。」
その瞬間キューリィがピクッと反応する。
「精霊だと?まさかその猫精霊なのか?」
こうなったらもう誤魔化せないだろう。まあシャルムが言わなくてもすぐバレそうだったが。
「ああ。この子は精霊のティムだ。基本大人しいが気に障ること言ったら怒るから、気を付けろよ。」
「精霊か。懐かしいもの見たな。俺がまだガキの頃は普通にいっしょに遊んだりしていたんだがな。精霊は人を憎んでるとばっかり思ってた。あんなことがあったし。まだ契約精霊もちゃんといたのか。」
「普通の人を私たちが許せるわけないじゃない。ソーマだからよ。あんなことしておいて。おかげで私たちは家族も住処もほとんどの仲間が奪われた。それに私はただの契約精霊じゃない。」
「そういえば、この猫は絶対精霊だってソーマが言ってたぜ?」
シャルムが指摘する。ティムとシャルムは案外気が合うのかもしれない。
「何?絶対精霊?人間にもそこまでの信頼を得ることができる奴がいたのか。そんなのアイツ以来じゃないか。あれのせいで主も結構殺されたやつがいたしな。」
さっきからあれとかあのことってなんなんだ?
俺と同じことを思ったらしいオリが尋ねる。
「ああ。ここに契約者がいる以上教えておいた方がいいんだろうな。あれを知ってる人間は皆とっくに死んじまったし魔獣も生きてるやつはほとんどいない。魔人が口にするはずないし接触することもないだろう。」
そう前置きしてキューリィは静かに語った。




