テト
テト、か。名前も雰囲気も、なんだか懐かしい気がするのは気のせいか。
「油断は、禁物」
はっ!気づいたら目の前にテトがいた。
「やっぱり、ソーマは人間ではないようじゃな。」
カサカサの指が頬を撫でる。腕に鳥肌がたったのが分かる。瞬時に魔法を使おうとするが違和感に気が付く。
「な、なぜだ?」
「気づいたと、いうことは、魔法を、使おうとでも、したのかの。」
魔法が、使えない。このテントに入ってから、いつも体を覆っているあの独特の魔力が感じられないんだ。
「ここに、招いたのは、闘うためでは、ないんじゃよ。色々、話したいことが、あっての。」
「ここはどこだ?何故魔法が使えない?」
「ここはの、わたしの場所だからの、わたしが、好きなように、弄れるのじゃ。まあ、その分、欠点もあっての。わたしが中に入れると決めてもの、入るモノの、意志も必要なんじゃ。」
「俺はこんなわけのわからない部屋に入りたいなんて思ってない。」
「でも、わたしが、無理やり連れこんだ、わけでも、ないじゃろ?」
反論できない。確かに俺は自分の意志でシャルムについていき、ボロテントに入った。魔法が使えない今、俺に対抗手段はない。さっきの動きを見た限りでも、かなり速い。本気で俺を殺そうと思ったら、きっとテトは一瞬でできる。
「の。やっと気づいたようじゃな。ここで、わたしに、勝てるわけ、ないと、の。さて、あと、何の質問が、残ってたかの?」
コイツ、俺のこと馬鹿にしてんのか?
「そうじゃった。何で、ボロテントの、中が、こんなに、広いのか、じゃったな。勿論、ここが、わたしの、世界、だからじゃ。テントは、ただの、入り口、じゃからの。」
まあ、そのことは今更言われなくてもなんとなくわかっていた。この部屋自体がテトの能力下にあるのならもしかしたら空間支配系能力者なのかも。無属性魔法とか厄介だな。
「あとは、何故、知ってるのかと、わたしの、目的、だったかの?知ってる、理由は、簡単じゃ。見てたから、の。一部では、あるが、転機と、なりうる、場面は、の。目的は、わたしにも、使命が、ある、としか、言いようが、ないのじゃ。」
訳の分からない単語ばかりだ。転機?使命?しかもずっと見てたって?
そして、最初のテトの言葉が頭をよぎる。「自分が何なのか、どうしてこんなことになっているか知りたいだろう、ソーマ?」
こいつは、俺がアポルの人間じゃないことを知ってる?それにさっきも「人間ではない」と言っていた。確かに俺の種族は人間じゃないし。
「最初の言葉の意味は?お前は俺が何なのか知ってるというのか?」
「へへへ。イエスでもあり、ノーでもある、の。ソーマも、与えられた、使命が、あるじゃろう?だからこそ、その身体と、魔力を、最後の贈り物として、彼女から、受け取ったんじゃ、ないのかの?わたしと、ソーマは、同種じゃ。人であり、人ならざる者、というわけじゃの、お互い。少し、話し過ぎて、しまったようじゃの。あの2人は、もう外で、待っておる。ソーマも、行くのじゃ。」
テトの指さす方に、さっきまではなかったはずの扉が現れている。まだ話を聞きたい気持ちと、早くここから出たいという気持ちが葛藤する。
「私も行くわ。やっと会えた!」
凛とした女性の声が聞こえる。
その瞬間、胸に着けていた石の一つが仄かに温かくなった気がした。
「へへへ。忘れとったの。今回の1番の目的を。」
テトがそう言って指をパチンと鳴らすと、テトのもとにバスケットボールくらいの大きさの球状のカプセルのようなものが現れた。しかも、中に何かいる。
あれは・・・猫?
「ソーマが、解いて、あげるのじゃ。その、封印を。」
封印?そんなものをしないといけない程危険なものが入っているのか?一見ただの猫が入ってるようにしか見えないが。
「その子は、ソーマの、仲間の、1人じゃ。持って、おるじゃろ?精霊の核、を。記憶は、なくとも、感じるのでは、ないかの?それに、早く、しないと、そろそろ、限界が、近いぞ?」
「早く来て!私の名前を呼んで!あなたならわかるはずよ。私の本当の名前。」
またさっきの女性の声。まさか、あのカプセル内の猫?恐る恐る近づく。誰にも教えられていないのにわかる。カプセルに触って猫の名前を言えばいいんだ。
カプセル内の猫がこちらを見上げる。猫と目が合った瞬間、頭に1つの名前が浮かび上がる。
《ルネティームス》
ああ、きっとこれがこの猫の名前なんだな。最初の罠かもしれないとか危険なものかもしれないとかいう思いは完全に消えていた。
そっとカプセルに触れて小さく呟く。
「ルネティームス」




