ボロテント
ふと後ろから黑い気配を感じて振り返ると、泣きそうなのか怒ってるのかわからない顔でこちらを見てるオリがいた。
やばい。完全に忘れてた。
オリはこっちに物体の半分を差し出したまま微動だにしていない。
「オ、オリ?」
「オイラのは受け取らなかったくせに。」
「だってどう考えたってそんなの食べれるわけないだろ!?」という言葉を飲み込む。言ったら余計怒らせそうだ。シャルムの方を見ると、「あたし関係ない」みたいな態度で、またフィルネーを物色し始める。
「オ、オリ?俺、腹は減ってなかったんだ。ちょっと喉乾いてたからシャルムのはもらったけどさ。もうしばらくして、腹が減ったらまた何か買うからさ、とりあえずそれはオリが食べろ。」
できるだけオリを怒らせないような言葉を選んでいう。不満そうな顔をしながらも、オリは自分で全部食べた。「こんなに美味しいのに。」と、最後にオリが呟いたのは聞かなかったことにしよう。
機嫌がよくないオリと一緒にシャルムを追いかける。シャルムは気味が悪いテントのようなものの前に立っていた。
「シャルム、何してんだ?」
オリが尋ねると、シャルムが微妙な顔をして答える。
「いや、これ何のテントかと思って。看板も何も出てないし、人の気配もしない割には誰も潰そうとしないし。フィルネーは大きい街ほど皆出店したがるから常に場所はいっぱいなんだ。こんなぼろいテント、すぐ撤去して誰かが新しい店出すと思うんだが。」
「おやおや、ここに客とは、珍しいことも、あるもんだねえ。」
「「「な!?」」」
中から老婆の声がした。誰もいないと思ていた俺たちは突然のことに驚きを隠せない。
「何を、やって、いるんじゃ?早く、入って、おいで?」
老婆の声は確かにテントの中から聞こえてくる。いかにも怪しい雰囲気を醸し出してるテントに誰も近寄ろうとしない。
「早く、入って、おいで?ソーマ、シャルム、オリ」
「「「????」」」
名前が知られている?俺の名前を知っている人間はそんなに多くない。なんせまだアポルに来て3か月もたっていない。そんな中俺の名前を教えた人は10人もいないはず。
「自分が、何者なのか、どうして、こんなことに、なっているか、知りたいだろう、ソーマ?行方を、知りたい人が、いるのでは、ないのか、シャルム?悩みが、あるだろ、オリ?」
何だ、こいつ。迂闊に言葉を発すると危険な気がする。
「どうして知っている?」
しかし止める間もなくシャルムが口を開く。シャルムには珍しく、取り乱しているように見える。
「そりゃ、知ってるさ。わたしゃ、占い師だもの。なーんでも、お見通し、さ。」
ここまで言われるとテントの中にどんな人がいるのか気になる。明らかに怪しい店だ。しかもこんな小さいテントに3人も入るわけがない。
しかし、隣にいたシャルムが意を決したような顔をしてテントの方へ進みはじめた。まさか入る気か?しかもオリもそれを追いかけていく。
こうなったら俺も行くしかない。覚悟を決めて三人で一緒に入る。
「ようこそ。占いの館、へ。」
入る瞬間、耳元でやはりあの老婆の声が聞こえた。こんな狭いテントで何が館だ。
入った直後は真っ暗だったが少し進むと仄かに明るくい、薄暗い部屋についた。
しかしそこは、あのテントの中とは思えない程綺麗で広かった。
「あれ、このテント、こんなデカかったけ?」
しかし俺の声には誰も答えない。周りを見渡すと、一緒に来たはずのシャルムとオリがいなかった。
「おい!シャルム!?オリ!?」
「へへへ。無駄じゃよ。」
部屋の最奥にある人影が声を発する。どうやらアレが俺たちをここに招きよせた声の正体のようだ。
「シャルムやオリはどこだ?なんであのボロテントがこんなに広く、綺麗なんだ?何故俺たちのことを知っている?お前の目的は?」
知りたいことを一気に言う。まあどうせ全部に応えてもらえるとは思ってないが。
「まあまあ、そう、慌てな、さんな。2人は、無事、じゃよ。別の、場所で、別の、わたしと、きっと、同じような、会話を、してるところ、じゃろう。」
別の私?こいつは何を言ってるんだ?無事だとは言っているが本当のことかどうかなんかわからない。
「どうせ、信用、しないんじゃろうの。これを見ても、まだ疑うかの?」
そう言ってどこからともなく取り出した水晶を俺に見せてくる。それを覗くと、確かに俺の前にいるやつと同じような格好のものとそれぞれ何か話しているようだった。
3人バラバラか。逃げにくいな。
「わたしゃ、テトじゃ。よろしくの。」
遠くて顔が見えないが、ニヤッと笑ったようだった。




