和解
俺の言葉に怒りをあらわにするオーリン。
「ふっざけんなよ!?オイラをどんだけバカにしたら気が済むんだよ。いいさ、やってやるよ。それで死んでも自業自得だからな。」
確認の意味でシャルムを見ると、あっちでやれというように手を振られた。
「ここでやって折角の作りかけの飯を台無しにすんなよ。」
その言葉にうなずいて、野営地から十分に距離をとる。
「んじゃ、今から10分な。スタート。」
適当に開始を告げる。時間は測っていない。ある程度満足したら諦めるだろうと思ったからだ。
「ウォーターフィルム」
「後悔すんなよ!」
そう叫びながら手から雷のようなものを出してくる。
詠唱はない。無詠唱魔法を使えるのかとも思ったが、魔力の流れ方がやはりおかしい。普通、魔力はなんとなく体を覆っているものというイメージだ。だが、さっきのシャルムや今のオーリンは、体内から魔力を出しているという感じがする。
「これでもくらえ!」
放電したような状態の拳で俺の膜を殴りつけてくる。こいつは馬鹿なのか?膜は水で張ってるんだから感電するだろ。
「なんだこれ。さっきも思ったけどブニュブニュしてるし。」
「何で感電しないんだよ。」
「は?お前バカ?オイラが感電なんかするわけないじゃんか。雷はオイラの一部だぜ?」
意味が分からない。でもそれをいいことに雷を纏った拳で膜を何度も殴りつけてくる。
「何でこんなシャボン玉みてーなのが割れねえんだよ。」
イラついたオーリンが叫ぶ。すると、何を思ったのか、突然膜から離れていき、天に向かって手を挙げる。
バキバキバキィ
すごい音がして、見てみると上空から特大の雷が俺めがけて落ちてくるところだった。オーリンの方を見ると「どうだ」と言わんばかりのドヤ顔をしている。そして目を見開く。きっと自分が見た光景が信じられないのだろう。雷が膜を突き破って俺に直撃するとでも思ったのだろうか。落ちてきた雷は膜を伝って全て地面に流れていったのだ。ただ、自信があるだけあって、地面を伝って電気はかなり広がっていた。そして気づく。
「あ、シャルム!」
オーリンも気づいたようで、しまったという顔をしてシャルムの方を振り返っていた。ご飯のためだ。仕方ない。そう思ってシャルムの方に向けて魔法を放つ。
「これが一番楽だからなあ。ウォーターフィルム」
シャボン玉のような球状のものが俺の手から少しずつ出ていき、完全な球体になったら手から離れて飛んでいく。ただし、超高速で。なんせ今現在地面を伝う電気に勝たなければならないのだから。飛んでいった球は野営地一帯を包み、下半分は地面に沈む。今の俺のように半球状のものに囲まれたような形だ。突然のことに驚いた顔をするシャルムだったが、その直後に雷が伝ったことですべてを悟ったのかオーリンを睨みつける。電流はシャルムを包む膜を伝って、囲まれたところを丁度ぬかした形で広がっていった。
「な、なんだよ。今のかなり力込めたのに。あっさり流しやがった。」
呆然とするオーリンに声をかける。
「まだやるかー?お前じゃまずこのフィルムも割れないだろ。」
俺の言葉にハッとしたのか悔しそうに顔をゆがめる。すると、いつの間にやらすぐそばに来ていたシャルムがそっとオーリンの肩に手を置く。
「オリ、上には上がいるさ。お前も遊んでばっかじゃなくてもうちょっとちゃんと訓練したら普通に強くなれるぞ。案外アレになれたらお前の方が強くなるかもしんねえし。」
強くなれるぞ、の後はうまく聞き取れなかったが、オーリンが静かに頷くところを見ると負けを認めたようだ。
野営の方に向かって歩き始めたシャルムがくるっと振り返って笑いながら「飯できた」という。着いていこうと歩き始めてからオーリンが動かないことに気づく。
「何やってんだよ、オーリン。行くぞ。」
俯いていたオーリンが、ゆっくり顔を上げて何かを呟く。
「何ていった?聞こえなかったんだけど。」
そう言うと、そっぽを向いて顔を赤くしながらさっきよりは大きな声で言う。
「オリで、いい。」
なんとなく嬉しく思って「行くぞ、オリ。」ともう一度言うと、照れくさそうにしながらついてきた。




