ツーリルノ
「ごめん、忘れてたわ。」
シャルムが申し訳なさそうに言う。
「いや、別にいいけどさ、これってどういう状況?」
「うーん、オリが調子に乗ってツーリルノに手だして、返り討ちにされかけてるところをあたしが見つけて助けようとして参戦して暫くしたらオリが捕まっちゃってあとはアンタが見たとおりだと思うぜ。」
「シャルム!こいつ誰だよ。」
オーリンが言った瞬間またポカリとシャルムがオーリンに拳骨を落とす。
「バカたれ。お前の命の恩人だろうが。」
「さっきのは違うって言ってんだろ。こいつが単にオイラの邪魔しただけだ。」
「違う。その前だ。お前がベイノルドにやられたとき助けてくれたのがソーマだ。」
オーリンの顔が嫌そうにゆがむ。
「オイラ、こんな奴に助けられたのかよ。」
「ああっ?聞こえてんぞ。」
また殴ろうとしたシャルムを慌てて止める。
「そんなことより、これどうしますか?」
それは、もうだいぶ近くまで迫ってきているツーリルノのことだ。
「はあ。巻き込んで悪かったな。できるだけ生き残れるように頑張るが、ソーマも死ぬかもしれん。」
「え、何で?全員倒せばいいだけでしょ。」
「やつらは瞬殺しないと無限に発生し続ける。こいつら全部を瞬殺するのは難しい。しかも下手に傷つけても鳴く可能性あるからな。」
「え、だから何で?全部一気に倒せばいいじゃん。」
「は?そんなの無理に決まってんだろ。オイラの雷じゃ同時は無理だしシャルムの火力じゃ複数は燃やし尽くせねえよ。さっき見たけど、お前風、水だろ?回復も行けるってことは3属性使いか。それでも無理だろ?多属性使いはバリエーションは多くてもそんなに威力出せないことが多いし、第一その3つじゃツーリルノは倒せない。」
「ふーん。じゃあオーリンのお望み通り行くか。別に水、風使ってもこのくらいなら余裕で行けるけど。」
「は?お前なんて言った?」
慌てて聞き返すオーリンを無視してシャルムにその場から動かないように指示する。
「ウォーターフィルム」
自分たち3人の周りに半球状の膜が現れる。これで多少規模が大きい魔法を使っても俺たちに被害が及ぶことはないだろう。
「なんだこれ?水の膜?シャボン玉の中に入ってる見てえじゃんか。」
膜を指でつつきながら首をひねるオーリン。シャルムは黙って俺の動きを目で追っている。
「ヘルブレイム」
そう唱えた瞬間辺りが炎に包まれる。炎に触れたツーリルノは例外なく瞬時に燃やされる。それこそ、鳴いて仲間を呼ぶ間もないほどに。鳴こうとしたときにはもうすでに全身に炎が回っているし多少の声が出たところで炎の燃える轟音にかき消される。ツーリルノを燃やし尽くした場所から順に勝手に炎は消えていき、数秒たったころには辺りにはツーリルノのわずかに残った燃えカスしかなかった。
「こんなもんか。」
ボソッと呟いてから膜を消す。その瞬間勢いよく出てきたオーリンは今までツーリルノが居た場所に駆けていく。ただし、俺たちが立っていた膜の内側以外の場所はほんの数秒前まで燃えていたため、かなり熱いらしく大騒ぎしている。
オーリンがある程度離れたところまで行ったと思ったらシャルムが口を開いた。
「お前、何者だ?」
「それはお互い様だろう?」
俺がニヤッと笑って答えると向こうも笑った。
「それもそうか。今夜は一緒に過ごすだろ?そん時に話でもしようぜ。その様子を見た限りじゃあたしがあげた食料以外食べてなさそうだしな。」
そう言ってその場で野宿の用意を始めた。
「おいおい、ここで寝るのか?」
俺が驚いて声をかけると、あきれたように返された。
「当り前だろう。あと1時間もすれば日が暮れる。ここ以外誰かさんのせいで焼けただれてるし、しばらくしないと熱くて歩けないだろうし。それに暗くなってから野営の準備はいろいろ危ない。」
「それ、シャルムが言う?」
「なんだ、やっぱ気づいてたのか。」
「誰だっておかしいと思うさ。お前ら、普通の人間じゃないだろう?」




