別れ?
「少しの間考えさせてください。」
「まあいいけど30分かそこらくらいしかないぜ?」
スープを食べながら、頭にはこの提案を受けた場合のメリット・デメリットが浮かんでくる。
まず、食べ物の心配をしなくてよくなるのは大きなメリットだ。食料に関して何の準備もしてない俺はこれから毎食ちゃんと口にするのは不可能かと思っていたのだ。さらに、不意打ちも防げる。一人旅で野宿なんかしてる時に魔獣なんかに襲われたらたまったものではない。それに盗賊なんかもいるかもしれない。俺の持ってるアイテムは相当特殊なものばかりみたいだから破壊されるならともかく盗まれたりしたらまずい。それになにより、彼女たちは面白そうだ。俺にとってこの提案はかなり魅力的だった。その時、俺の脳内に傷つけてしまった時のクーや、幾度となく破壊してしまった訓練場の光景が思い浮かぶ。俺は何のためにポエルを出た?俺の中に彼女たちと旅をしたいという自分と巻き込んではいけないという自分がいる。それに、俺には謎が多すぎる。自分でさえ自分のことが分からないなんて信じてもらえるわけないし、俺が彼女たちを信頼してないと思われるだろう。初めて会ったんだからお互い何もかもを話すなんてことはできないだろうけど。
俺は危険が大きすぎると判断し、断ることにする。
「すみません。こちらにとってもとてもありがたい話なんですが、俺、人と一緒に行動するの苦手なんです。」
その女性は一瞬残念そうな顔をしたが、次の瞬間には笑って言った。
「じゃあ仕方ないな。あたしはシャルムで、この子がオーリンだ。方角が同じなんだからこれから先会うことがあるかもしれねえからな。そん時はよろしくな。」
「俺は蒼真です。」
「ってかさあ、その敬語もどきやめろよ。ガキに敬語使われんのも気持ちわりぃし、第一あたしが敬語使われるような立派な奴じゃねえよ。それに、ソーマの敬語、時々崩れてるぜ?使えねえんなら無理すんなよ。」
そう言ってシャルムはニヤリと笑った。
「ああ助かった。俺敬語苦手なのに頑張ってたんだけど。やっぱ変だったんだ。あ、シャルム、俺ガキじゃないよ?」
「なーに言ってんだか。お前人間だろ?だったら18以下はただのガキだぜ?」
あ、そこは普通に日本と同じなんだ。ただ残念、5月生まれの俺はすでに20歳になっている。
「俺20だし」
こちらもニヤリと笑って返答する。
「はああああああ!?お前が?その見た目で?」
「その見た目って、そんなにチビでもないだろ。」
実際俺の身長は180くらいはある。
「いや、身体は確かにでかいけど・・・。せめて16,7くらいかと思った。」
そういうお前は何歳だよ、と聞こうとした瞬間、寝ていたオーリンが動き出す。
「そろそろ起きそうだな。俺は一足先に出発するよ。」
「ああ。んじゃ、これ持ってけ。1日くらいならこれでもつからよ。」
そういって、食料が入った袋を渡してくれた。
「サンキューな。今度会ったときにこの恩は返すことにするよ。」
そういってこの場を去る。
ある程度進んだと思ったところで後ろを振り向いても、靴と身体能力のおかげか、もう二人とも見えないところまで来ていた。
「なんか、面白い人だったな。」
ポツリと呟く。
「また、会えたらいいな。」
無理だと分かっていても言いたくなった。歩行速度が違うのだ。向こうが3,4日かけて歩く距離をきっと俺は1日かそこらで進む。
まあ、出会いはこれで終わりじゃないし、と気を取り直して黙々と歩く。
夜は襲われないか心配だったが、洞窟のようなものを見つけて、その中で寝た。朝起きたら体がバッキバキになっていて困った。
やっぱりシャルムから貰った食料は1日分と少しだったが、節約して食べて、2日はもった。
今自分がどの辺にいるかもわからないし、食い物はない俺は、段々嫌になってきた。
「あーあ。腹減ったなあ。」
そんなことを思っていた時、
ズドーンッ ドカッ バキッ
前方で戦闘音のようなものが聞こえてくる。結構な距離があったが、本気を出せば軽くたどり着くことができた。
そこで闘っていたのは、まさかのシャルム・オーリンと、よくわからない食人植物みたいなものだった。




