傷
その女性から見せてもらった少年のお腹には酷い切り傷のようなものがあった。そして、何やら強い違和感を感じる。一見、何か獣のようなものに爪か牙でえぐられたように見えるが本当にそれだけなのだろうか。
「この傷は?」
「ベイノルドにやられたんだ。あたしがちょっと目を離したすきにこの子がどこかへ行っちまってさ。見つけた時にはこの状態のこの子とその場を去っていくベイノルドがいたんだよ。」
ベイノルド。図鑑で少し見たことがある。確か闇属性の魔獣だった気がする。ってことはこの傷は毒か呪い系の影響を受けてる可能性が高い。
一度回復魔法をかけてみる。
傷は治ったが依然男の子は苦しそうだった。
「な、なんでだよ。傷は治っただろ?なんでオリは元気になんねえんだよ!?」
取り乱す女性に事情を説明する。
「じ、じゃあどうすればいいんだよ。」
「方法はいくつかあるんですが、俺の光魔法で、解毒の魔法はできるんですけど呪い解除知らないんですよね。俺が魔法使っても治らないところを見ると、呪術系のベイノルドだったみたいですね。呪い解除は結構メジャーで知ってる人多いらしいんで、ポエルとか行ったらすぐ治してもらえると思いますよ、そんなに遠くないし。」
「ポエルが遠くないだって?お前何言ってんだ?ここからなら普通の男が歩いても2日くらいはかかるぜ?ましてこっちは女と怪我した子供だ。それに魔術師に治癒を依頼するほどの金は生憎もってないんでね。」
2日って・・・。俺、半日くらいで来たんだが?
そして靴、ジャブレの靴を履いていたことを思い出す。そういえば、歩行速度と脚力を上げてくれるんだっけ?それにしても上がり過ぎだろ。
「じゃあ、2つめの方法。その傷をつけたベイノルドを倒せばいいんです。こっちが早いですね。倒しに行きましょうか。」
「お前何言ってんだよ。ベイノルドっつったら結構なレベルの魔獣だぜ?倒せるわけねえだろ。」
「大丈夫です。俺がやりますから。っていうか、早く倒してご飯食べたいんです。お腹減ってるし。」
そう言って歩き始める。
「お前どこ行くんだよ。」
「さっき言ったじゃないですか。ベイノルドを倒しに行くんですよ。血の匂いが向こうからしてるし、ある程度近づいたら多分魔力の気配でわかるし。あ、あなたここにいていいですよ。多分1人で倒せるし、その子の容体いつ変わるかわからないので。流石に連れていけないでしょうし。」
呆然としている女性を取り残してさっさと歩き出す。女性をここに置いていくのに、少年を使ったのは単なる言い訳だった。本格的な戦闘はこれが初めてになるし、巻き添えを喰らわせない自信がなかったんだ。少年のものであろう血の匂いを辿って歩いていく。匂いが相当濃くなってきたところで、魔力を感じる。魔力ってなんだよって自分でも思うけどなんとなく分かるんだ。魔力を持った何かがいることは。
慎重に進むと、黒い塊のようなものを見つける。丸くなって眠っているベイノルドだ。大型犬くらいの大きさで、見た目も犬に似ている。首が短いけど。
これなら楽に倒せるかと思った瞬間、ベイノルドがピクリと動く。慌てて距離をとると、跳ね起きてさっきまで俺がいた場所に立ち唸り声をあげていた。




