食料
物音をたてないようにそーっと群れの隙間を縫って歩く。そもそも魔獣というのは東側に多く生息するようだが、普通に大陸全域にいる。結構な量が。ただ東側は特に多いというだけの話だ。今回は通り抜けることができたが次もうまくいくとは限らない。これからこんな一人旅を続けるのだから、一時でも気を抜いたら大変なことになりかねない。
ただひたすら、北へ、北へと進む。そういえばこの世界に来てから、体が軽いし、体力も増えた気がする。やっぱり転生しちゃったことで体も変わったのか?
歩き続けて数時間。周りの景色は一様に草原のようになっていて代わり映えがない。時々魔獣の群れのようなものもあるが、人間が住む南側にはあまり凶暴な魔獣もいない。人間は魔獣にそこまで興味がないせいだろう。襲ってきたら倒すが、手を出してこない限りは関わらない方針のようだ。
そろそろ昼時、という頃にお腹が減ってくる。俺としたことが食べ物のことを失念していた。ポエルでは朝夜はバスが用意してくれていたし、昼は訓練や読書に夢中で食べるのを忘れていたり、時々リリスがお弁当をくれたりしていたので、食べ物について考えたことがなかった。
さあ、どうしよう。
その辺に牛と猪が混じったようなただの獣か魔獣かよくわからないのはいるが、食べれるかもわからないし、調理方法は知らないし、手段もない。ちなみに獣と魔獣の違いは魔法が使えるか否か、だ。
魔獣は時々体内に魔石というものを持っているものがいる。それを使えば、多少の魔法が使えたりもする。炎系の魔法が使える魔獣から得た魔石を使えば、炎魔法が使えない人でも、火をおこしたりすることができる。ただ、すべての魔獣が魔石を持っているわけでもないため、魔石はかなり高価なようだ。結構な高値で売れるらしい。大量の魔力が魔物の体内で極稀に固形化したものらしいからだ。つまり、魔力が高い=強い魔獣しか持ってない。
まあ、今はそれはどうでもいいことだ。兎に角腹が減った。
腹減った。腹減った。腹減った。腹減った。腹減った。腹減った。腹減った。
なんかもうそれしか考えられないくらいに腹減った。普通に地球で暮らしてた頃はこんなに食欲出ることなかったんだけど。まあ、1日中歩いてたからかな。
そんな時、ちょうどいい具合に美味そうな匂いが漂ってくる。これを見に行かずしてどうする!と思って匂いのする方へ足を向ける。そこには焚火とスープのようなものがあった。辺りに人はいない。これはきっと神様からのプレゼントだ!そう思ってスープに手をつけようとした瞬間
「人の食いもんに手ェ出すんじゃねえ!!」
どこからともなく若い女の声が聞こえてきた。辺りを見回すと、こちらに歩いてくる人影が見える。
「すみません。これ、あなたのものなんですか?」
「ああ。だから手、出すな」
「俺、お腹減ってるんで少し分けてもらえませんか?代わりに、何かお手伝いできることあったらするんで。」
「どうしてもこれが欲しいなら、アカルキを探してこい。」
「アカルキ?何ですか?それ。」
「アカルキを知らないのか?薬草だよ。この子が怪我しちまってさ。さっき探しに行ってたんだけど見つからなかったんだ。あんたが見つけてきてくれたら、このスープわけてやるよ。」
そう言う女性は、顔色の悪い男の子を抱いている。俺はふと気になって尋ねる。
「そんなの回復魔法かければすぐ治るじゃないんですか?」
俺の言葉に、女性の顔が歪む。
「それが使えたら苦労しねえよ。」
「俺、使えますよ?アカルキって草探してくるよりそっちが早いでしょう?」
「ほ、ほんとか?それで治るんなら頼むよ。」
「はい。ちょっとその子見せてください。」
そう言って、女性が抱いていた少年を見せてもらう。
「これは・・・」




