魔法の威力
俺の手を離れた水球はリリスのもとへ一直線に飛んでいく。水球が近づくにつれ、リリスの表情がゆがむ。そして、あと数メートルで当たるというところでリリスが詠唱を始める。
「聖なる風よ。我が声に応えよ。そして従え。あらゆる攻撃より我が身を守る術としてその刃を顕在せよ。ウィンドカッタープロテクト」
詠唱が終わった瞬間、リリスの周りに強い風が吹き荒れる。そして水球も風によって切り刻まれる。しかし、それでもリリスに向かって飛び続ける。そこで完全にリリスの表情が変わる。そして2度目の詠唱に入ろうとするが、水球と自分の距離からもう1度する時間がないと悟る。
「ウォーターウォール」
水の壁を超圧縮し、風によって切り裂かれた水球に位置を合わせると、壁に突っ込んだ水球は消滅した。
「やっぱ力込めなさ過ぎたかな。相手はシェルリーの副長なんだからもうちょっとちゃんと作ればよかった。」
そう呟くとリリスがギョッとした顔でこちらを見る。
「ソーマ、あれが全力じゃないの?」
その言葉に首をかしげる。
「だってこれ、詠唱省略の練習だったじゃん。とりあえず実体化できる程度にしか魔力込めてないよ。リリスとやりあうって分かってたらもうちょっとちゃんとした水球作ってたのに。」
「な、何言ってるのよ。私が使ったウィンドカッタープロテクトは上級の技よ。しかも物理攻撃専用の防御技で上級の中ではかなりの守備力を持ってるのよ?しかもその壁をあなたの水球がぶち抜いちゃったし。水球なんて下級の中でも一番初歩的な技なのに。」
やっぱり俺の能力値がおかしいのかもしれない。
終わったことに気が付いたケイルやクーが戻ってくる。
「ソーマ、リリス、どうだった?」
ケイルの言葉にもリリスは反応できないくらい動揺していた。
そして俺は重要なことを思い出す。
「ケイル、今何時?」
「もうすぐ6時くらいだけど。そういえば、お昼ご飯食べるの忘れてたね。」
「やばい、俺帰らないと。」
バスの夕飯が食べれなくなる。
「ソウ、もう帰るの?」
クーが泣きそうな顔で聞いてくる。
「クー。ソーマにだっていろいろあるんだよきっと。それに今日は集会があるだろ。」
ケイルの言葉にクーは俯く。
「ソウ、明日も来て。」
クーはウルウルしながら俺の袖にしがみつく。特にすることもないからと、クーの頭を撫でてやってから頷く。
「じゃあ、明日もここに来るから。今日はバイバイな。」
そう言ってクーから離れる。
「明日、絶対だよ。約束だからね。」
何度も言うクーに手を振ってバスティートへ帰る道を急ぐ。
「ただいま。」
バスティートのドアを開けるとバスが笑顔で迎えてくれた。
「おかえり」
夕飯のおいしそうな匂いが食堂に漂っていた。
「ソーマ、今日1日何してた?」
笑顔で聞くバスに応える。
「小さな友達がたくさんできたよ。シェルリーっていう子たちなんだけど、みんな強いらしいんだ。」
俺の言葉にバスが目を見開く。
「シェルリーってあのシェルリー?というかアレ以外にシェルリーなんてないわよね。それと友達になったってどういうことよ。」
バスの剣幕に驚きながらも正直に答える。
「いや、適当に散歩してたら広場に出てさ、そこで子供が楽しそうに魔法の練習してたから、眺めてたんだよ。そしたら話しかけられてそのまま仲良くなった。」
「あんた、よくそんなところは入れたわね。あそこ、セキュリティーチェックないのかしら。」
バスは首をかしげて心底不思議そうにしていた。




