偶成
今の時期の空気の香りはガーベラの香りがする。
それはわたしがガーベラに特別な思いを持っているから、しかも今の時期のガーベラに特別な思いを持っているから、なだけなのかもしれない。わたしの記憶を鼻孔からつんざく。
会社からの帰り道、陽も暮れかかった夕暮れの今、わたしはデスクワークの疲れを心地よく感じながら、いつもの並木通りを歩く。
青々と生い茂った木々が、わたしの心を揺らす。
ガーベラは、過去だ。ガーベラの香りなんて気のせいだ。わたしはいつまで過去にしがみつかれているんだ?ガーベラなんてどこにもない。あるのは青臭い並木通りの木々の臭い、車道を走る車の臭い、通りすがる人々の体臭、これが現在で全てだ。
わたしはダッシュで並木通りをかけ走り、アパートの三階のわたしの部屋まで息をきらしながらたどり着いた。
ポストにはガーベラが刺さっていた。




