八機目 覚悟
そして歩くこと数分・・・
「こ、ここよ」
「・・・なんでそんなに顔が引き攣っているんだ?」
気にしないで・・・と言いながらさらに別のことを呟き始めた。
「私は知らない・・・私は知らない・・・」
小声でよく聞こえないが何か雰囲気が危機せまるものがある。
「ぞ、族長、客人を連れて参りました」
だから顔が引き攣ってるって・・・
アルマがそう言った後中から『入れ』という言葉が聞こえてきた。
「失礼します」
ゆっくりとアルマが襖を開けていき、中に入っていく。
それについていくように俺達も仲に入っていく。
中に入って出た言葉はひとつだった。
「どこの城主の部屋だよ・・・」
俺のいた世界で言うなら、時代劇に出てきそうな部屋がわかりやすいだろう。
だってさ・・・正面向かって左右に襖があるんだよ?
確か襖の中には護衛の人がいたはずだ。
歴史物は弱いからなんとも思い出せないが・・・
「そこに座って」
俺が考えことをしていたら、アルマがそう言ってきたので言われた通りに座る。
ふむ・・・正体は明かせないってか?
何故そう思ったのかと言われると、目の前に顔を隠すための黒いカーテンみたいなのがあるからだ。
正確には網戸に近いが・・・
そしてその両隣に護衛らしき人もいる。
と思っていたら・・・
「「「っ!!?」」」
護衛の人と顔の見えない族長がこちらの方を見て息を飲んだ雰囲気が伝わってきた。
はて?どういうことかね?
「・・・どういうことだアルマ」
「私は知りません」
族長?らしき顔を隠している人物が一瞬で立ち直ったようだ。
さすが族長っぽい人だな。
だが、あの反応は・・・
「トトちゃんってもしかして・・・」
「ん。たぶんあってる」
そうか・・・だからあの焦りようか・・・
「じゅん?どうしたの?」
ちなみにトトちゃんは部屋に入る前にちゃんと肩から下ろした。
そして俺が座ると膝の上に座ってきた。
なんだろうか・・・こう、心が癒される?感じがする。
おっと、こんなこと考える前にちゃんと返事をしなきゃな。
「いや、なんでもないよ」
・・・とりあえず、トトちゃんについて確かめるのは後でもいいからな。
とりあえず今は目の前にいる族長と話そうか。
「すまないな客人よ」
「いえいえ、私もここに来て少々緊張しておりますので」
とりあえず大人と話すやり方でいこう。
・・・黒守巡は小さい頃に親を亡くした。
その時に親戚が家が引き取ると口論になった。
何故か?それは簡単だ。親が残した遺産が原因であった。
黒守巡は残された遺産の量を知らなかった。
高校生になっても普通に生活するぐらいのお金しかないのは巡の母の母・・・祖母のせいであった。
子供が持つには余りにも大金すぎるということで祖母は大学を卒業するまでは巡に与えるお金を縛った。
祖母が亡くなった後もこの契約は銀行とされている。
この事実を知らない黒守巡はアルバイトなのでお金を稼いだ。
その際に大人との対応の仕方を学んだ。
そして現在に至る。
「・・・随分と話慣れているようだね?」
「ええ。こういう場面は何回も経験していますので」
・・・こら、キュアノスにアルマなんで、そんな「この人誰?」みたいな目で見てるのかな?
「まあいい、まずはアルマを助けてくれたことを感謝する」
「いいえ。感謝はいりません。これから私に必要なことでしたので」
「・・・どういうことかね?」
「簡単なことです。私はこの国をもらいにきました」
「・・・・・・正気かね?」
「いたって正気ですが?」
別に普通じゃないか?・・・普通ではないな・・・
いや、それは置いておくとして。
「君は盗賊と同じことをするというのかね?」
さっきから偉そうな口ぶりで言っているけど。
喋ってる本人は気づいてるのかね?
まだ話し方と雰囲気が若い。そして内容もだ。
高校2年の俺が思うのもなんだけど。
「あんた、本気で言ってるのか?」
俺は口調を変えた。
相手が大人と思っていたがまだ子供に近いからだ。
「・・・私を侮辱しているのかね?」
「よく考えろと言っているんだ」
「何・・・?」
はあ・・・仕方ないか・・・
「何故、俺が盗賊と同じに考える?俺はこの国をもらうとしか言ってないぞ?誰がこの国の人や物を盗むって言った?」
「・・・・・・」
「さらにもうひとつ・・・お前、族長じゃないな?」
「「っ!!?」」
だから護衛の人も甘いって・・・そんな反応したら「私は偽者です」って言っているようなものだぞ。
「だから私は知らないって言ったのに・・・」
どうやらアルマも一枚噛んでたようだ。
「それで本物の族長はこの子でいいのか?」
そう言いながら俺はトトちゃんの頭を撫でた。
「・・・・・・」
「沈黙は認めるってことか?」
さて・・・どうでてくる?
「カルマ、あなたの負けよ」
「アルマ・・・」
カルマ?ってのが族長の代わりをしてたやつの名前か?
「悪かったわねジュン。騙すようなことして、まあ途中から気づいていたみたいだけど」
「別にいいけど、理由を教えてくれるよな?」
「ええ」
アルマは頷きながら返事をした。
「まずは盗賊の話からね。私が盗賊に襲われていたのは知ってるわね?あれはカルマとトト様を逃がすためだったの。私達は南街の住人。西街や東街に応援を呼びに行っていたのよ。それでその帰りに盗賊に襲われた。焦ったわ。幸いこちらの人数を把握していなかったおかげで2人は森に隠して私が先行したってわけよ。で広場まで連れてかれて色々されそうな所をジュンが助けてくれたってわけよ」
ふむふむタイミングが良かったってことか。
「・・・次は何故盗賊に対して対抗しなかったかよ」
「姉様!!」
「いいのよ。これは知っておいてもらわなきゃいけないことよ」
そんなに言いづらい内容なのか?
それよりも完全に地がでたな。
「・・・父様。街に男性の生態反応がほとんど無い」
キュアノスがそんなことを言ってきた。
「気づいていたの・・・?」
アルマは驚いたようにキュアノスを見た。
それに対しキュアノスは首を縦に振った。
「そう・・・理由は簡単よ。街に住んでいた男性が盗賊を手引きしたせいよ。そこからはさらに簡単。奴隷にして他国に売った。それだけよ」
「何故、女性は奴隷にされなかったんだ?と言っても大体予想はできるが・・・」
「想像している通りよ。女性は盗賊の娯楽として扱われた」
やっぱりか・・・
「まあ・・・あなた達のおかげでその盗賊もいなくなったのだけど」
「人数はあれだけだったのか?」
「ええ。私達が対抗できなかったのは機人のせいよ」
「あの太い機体のことか?」
「そうよ。基本的に街の外でこの国に来る人を殺すのが趣味の糞野郎よ」
女の子が糞とか野郎とかいっちゃいけません!
「まあ、あなた達が街にいるってことはそいつを倒したってことなんでしょうけど」
その通りだけどさ・・・
「それでなんだけどあなたはこの国を手に入れてどうするつもりなの?」
言うことは決まってる。
覚悟もしてる。
人の命を扱うことも。
だからこそ俺の言葉でこう言おう。
「この大陸の戦争を止める」
「・・・本気?」
「当たり前だ」
「それでいくつもの人が命を落とすとしても?」
「それも覚悟している」
「この国は基本的に平和よ。なのにあなたはその平和の中で育った人を戦わせるというの?」
だろうな・・・だけど・・・
「・・・それは現実逃避」
俺が言おうとしたことを隣からキュアノスが言った。
「どういう意味?」
「戦わないで平和?本当に?盗賊ぐらいに街をのっとられているのに?」
「・・・・・・」
「あなた達は戦うとういうことから逃げてるだけ」
「貴様!それ以上姉様を侮辱すると許さんぞ!!」
あーあ、それはここで言っちゃだめだわ。
「侮辱?あなたは馬鹿。これは侮辱じゃない。警告」
「・・・」
アルマは思うところがあるのか沈黙している。
「どういう意味だ!?」
妹?さんの方は感情論で動くタイプか。
「あなた達は何をしたの?ここに父様がこなければ、ずっとあの暮らしをしていたの?」
あの暮らしとは盗賊にのっとられている時のことを言っているのだろう。
無表情だが威圧が半端ない。
「それは・・・!」
「言い返せるはずがない。何を言っても自分を守るために使ってる言い訳だから」
「・・・っ!!」
おおう・・・キツイのいったなおい。
「戦う気があるなら、他を頼るんじゃなくて自分でやってから言えばいい。それができないあなたは盗賊よりも汚い」
「ううう・・・」
あらら・・・妹さん泣き始めちゃった。
いやまあ言い方キツイけど合ってるからなんとも言えない。
「その辺にしてあげて」
苦笑しながらアルマがそう言ってきた。
「キュアノスが言ってることは合ってるわ。確かに私達は戦いから逃げていた」
「・・・それで?」
「・・・・・・今更かもしれないけど私は現状を変えたいとは思っていたわ」
まあ、自分を犠牲にしてまで盗賊から妹とトトちゃんを守ったんだ。
そう思っても当然だわな。
「街を渡すかはトト様次第だけど、私はあなたと一緒に戦うわ」
決意をしたという目で俺を見てきた。
「・・・いいのか?」
「ええ、私は戦おうと思った。それが大事なんでしょ?」
「頭が良いってのは便利だな」
苦笑しながら俺はアルマに言った。
「それで街なんだけど・・・トト様いかがいたしますか?」
そう言われたトトちゃんは俺の目を見た。
何かに吸い込まれるような感じがする目をトトちゃんはしていた。
そして答えがでたのかアルマの方を向いてこう言った
「じゅんならいい」
「わかりました」
その一言で終わった。
さすがに答えが出た理由が気になったのでトトちゃんに聞いてみた。
「トトちゃんなんで、俺ならいいんだ?」
「じゅんからは怖いものを感じないから」
ふむ・・・わからん。
まあ、認めてくれたならよしとするか。
「ジュン、ちょっといいかしら?」
「ん?なんだ」
「この街はすでにあなたが管理していいんだけど・・・」
「東、北、西か?」
「ええ」
説得しないと駄目だよな。
「いいさ。とりあえずは南の街を豊かにすることから始めよう」
「いいの?」
「ああ、それが俺達の戦争の始まりだ」