表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/43

4

 気まずくて顔を上げられずにいる間、男の観察するような視線を全身に感じた。


“年は? 子供が、何故ここに……”


 肩にかけてくれた上着の重みを感じながら、恐る恐る顔を上げると、思慮深い双眸に見下ろされていた。彼ならば力になってくれるかもしれない、そんな淡い期待が胸に起こる。


“空母に連れて行かなくては……。大人しくついて来るか?”


 空母とは何だろう……。どんな所かは判らないが、いずれにしても、ここにいても仕方がない。

 飛鳥は勇気を出して顔を上げると、勇気が萎んでしまう前に口を開いた。


「あの、葛城飛鳥と言います。どうか、よろしくお願いします」


 お辞儀をすると、男は瞠目した。


『カトゥギアスカ?』


「葛城です」


 何度か繰り返したが、カツラギの発音が難しいらしく、“カトゥアギ”になってしまう。どうしても自分の名前に聞こえず、落ち着きが悪いので下の名前で呼んでもらうことにした。


「飛鳥、です」


『アスカ』


「はい!」


 笑いかけたら、男も微笑んでくれた。思わずドキッとするほど、魅力的な笑顔だ。


『**ルーシー・アッシュバード******……』


「ルーシー、アッシュバードさん?」


 完璧に復唱したつもりであったが、微妙に違うらしく何度か訂正された。「ルーシー」と繰り返すので、お言葉に甘えて「ルーシー」と呼ばせてもらうことにする。なんだか可愛らしい響きだ。


『アスカ、***********』


「はい」


 差し出された手を掴もうとしたら、袖が長すぎて指先すら出せなかった。慌てて袖から手を出そうとする飛鳥を見て、ルーシーは小さく笑う。


“子供だな”


 あらためて差し出された手を掴むと、膝裏に腕を入れられて、小さな子を抱き上げるように、片腕で持ち上げられた。


「えっ!?」


 決して軽いとは言えない飛鳥を、ルーシーは軽々と片腕で持ち上げた。すらりとした外見からは想像もつかない程、触れる腕も肩も鋼のように硬い。

 暫し瞳に互いの姿を映して、見つめ合った。ルーシーの瞳は、光の加減で紫にも青にも見える。星屑のような金色の光が煌めいていて、まるでオーロラのようだ。よく見れば、耳の形は妖精のように少し尖っている。

 人知を超えた美貌に、不意をつかれて見惚れていると、ルーシーは飛鳥をしっかりと抱え直した。


“大人しいな。今のうちに……”


 小島に接舷していた飛空船には、いつの間にかタラップが架けられていた。甲板に兵士達の姿がちらほら見える。

 タラップの下段は地面から一メートル程離れているが、ルーシーは飛鳥を抱えたまま、軽く跳躍して飛び乗った。


「えっ!?」


 驚異的な跳躍を目の当たりにして、飛鳥は目を丸くした。素晴らしい身体能力だ。ルーシーはちらりと見ただけで、すぐに視線を戻すと、あっという間に甲板の上に降り立った。


『******?』


“大人しいな”


 この世界の人間は皆、彼のように優れた身体能力を持っているのだろうか。疑問に思っている間に、ルーシーは丁寧な仕草で、飛鳥を甲板の上に降ろした。

 光沢のある木造の甲板は、木材と帆布はんぷ、それから油の燃焼する匂いがする。

 甲板に兵士達が集まってきた。中には女性もいる。皆とても背が高く、肌は白い。髪はブロンド系の色合いが多いようだ。

 彼等もやはり、飛鳥の知らない言葉を口にした。地球の言葉ではない。口から発せられる言葉よりも、彼等の心の声に耳を傾ける。


“誰だ? 子供?”


“艦長の上着だ”


“どうやって聖域に?”


“子供……、変わった容姿だな”


“基地に報告を”


“話せないのか?”


 訝しむような、探るような声ばかりだ。飛鳥が聖域にいたことは、彼等にとって重大なことらしい。


「初めまして、葛城飛鳥と言います。よろしくお願いします」


 勇気を出してお辞儀をすると、全員の視線が飛鳥に集中した。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=837031108&s
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ