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メル・アン・エディール - 飛空艦と少女 -  作者: 月宮永遠
3章:ゴットヘイル襲撃
35/43

7

 隔離室に戻った後も、ルーシーはすぐに出て行こうとしなかった。


「リオンは、これからどうなるんですか?」


 無言を埋めるように飛鳥が呟くと、


“……そんなに、気になりますか?”


 不服そうに応える。


『はい』


“……彼は、アスカの情報を密かに流していた内通者ですよ”


『はい』


 ルーシーは迷ったように告げたが、揺るがない飛鳥の様子を見て眉根を寄せた。


“リオンから話を聞いた?”


『はい』


“なら、どうして……”


 はい、としか言えないことが辛い。ルーシーこそ、リオンから真相は聞いたのだろうか? 言葉を伝えられないことが、もどかしくて仕方がない。


“なぜ、そんなにリオンを庇うんですか?”


「なぜって……」


 戸惑う飛鳥を、青い双眸で探るように見下ろす。視線を逸らした途端、ルーシーの明瞭な思考は霞のようにぼけた。


“やましいことでも? リオンが大切?”


 疑念。困惑。苛立ち……微かな、嫉妬。錯雑とした思考を読み取り、飛鳥は視線を背けたまま目を見開いた。

 慌てて思考傍受を遮断するが、覗いてしまった。

 リオンへの妬心。

 そんなことがあるのだろうか。

 嫉妬それは、彼の職務とは完全に別にある感情だ。こんな立派な艦の、艦長を務めるようなひとが、得体も知れぬ飛鳥に――?


『アスカ、******』


『は、はい』


 混乱の極地にいると、焦れたように名を呼ばれた。心の内を読まないといけないらしい。


“私に……魔法はかけていませんよね?”


 疑念に満ちた言葉が、ぐさりと心に突き刺さる。そんなにも、信用されていないのだろうか……。

 力なく首を左右に振ると、ルーシーは躊躇いがちに言葉を続けた。


“……念の為、解呪を唱えてもらえますか?”


 内心ガックリしながら、要望通り、ルーシーを見上げて解呪を唱えた。


「ルーシー、メル・サタナ」


 当然だが、ルーシーに変化はない。飛鳥をじっと見下ろしたまま、呆然自失したように動かない。

 思考は非常に不明瞭で、彼にしては珍しく錯綜さくそうしている。


『アスカ……』


『はい』


 様子のおかしいルーシーを見上げて、真正面から見つめ合う……つくづく思うが、ルーシーはすごく綺麗だ。金色の星屑の浮いた青い双眸は、綺羅星のよう。

 不意に見惚れてしまい、我に返るなり俯いた。

 冷静になろうとしていると、形の良い指先が視界に映り、おとがいをすくわれた。上向いた途端、青い双眸に囚われる。

 距離が近すぎる。

 腕を伸ばして押しのけようとしたら、逆に腕を取られて抱きしめられた。頬を撫でられ、唇を親指で触れられる。


“魔法のせいじゃない”


「ルーシー」


 意味もなく呟いた瞬間、掠めるように唇にキスされた。柔らかな感触は、すぐに離れていったけれど、飛鳥の思考は完全に停止した。


『*****……』


「……」


 ルーシーも時を止めたかのように、瞳を見開いて飛鳥を見下ろしている。瞳に互いの姿を映して、なんとも気まずい沈黙が降りる。

 扉をノックする音が聞こえた時、飛鳥だけでなく、ルーシーも弾かれたように振り向いた。


『アスカ……ルーシー?』


“どうした?”


 扉の外に、怪訝そうな顔のカミュが立っていた。





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