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メル・アン・エディール - 飛空艦と少女 -  作者: 月宮永遠
3章:ゴットヘイル襲撃
32/43

4

 ウルファンは驚愕の表情を浮かべて、大きく目を見開いた。

 成功した。離せと言わんばかりに腕を振ると、今度はあっけなく手を離す。飛鳥は俊敏な動きでタラップを駆け下り、一目散にリオンの傍に駆け寄った。


「リオンッ!」


『アスカッ、****!!』


“逃げろ! 最上甲板に艦長がいる!”


 飛鳥は泣きそうな顔でリオンを見下ろした。

 彼を置いていけない。それに今のウルファンに、飛鳥を傷つけることは出来ないはずだ。

 ウルファン。確か、クリークダウン空賊団の船長の名前だ。ゴットヘイルでルーシー達と戦っているのではなかったか。なぜ艦内に侵入しているのか。

 この艦に今、何が起きているのだろう――。


『アスカ……』


 ウルファンは呆然と、タラップから飛鳥を見つめている。

 兵士に扮したウルファンの手下達は、様子の可笑しいリーダーに何やらわめいているが、男には聞こえていないようだ。

 金緑に光る瞳は、もはや飛鳥しか映していない。


“アスカが欲しい……”


 ウルファンの心を読んで、飛鳥は震え上がった。

 男は、獲物を狙う猛禽のような視線でひたと飛鳥を見据え、ゆっくり近付いてくる……。

 リオンは血に濡れた手で銃を構えると、躊躇わず引き金を引いた。

 パンッと強烈な発砲音が鳴り、ウルファンの腹に命中する。しかし、近接を止めるには至らない。全く怯まずに歩いてくる。


「リオン、逃げようっ!?」


 飛鳥は叫んだ。リオンの肩を支えて起こそうとすると、リオンも苦痛の声を上げながら、どうにか立ち上ろうとする。

 ウルファンはリオンに銃口を向ける――飛鳥は咄嗟に、両手を広げてリオンの前に立ちはだかった。


「撃たないでっ!!」


『*****!!』


“危ないっ”


 リオンに肩を掴まれたが、頑として動かなかった。今の飛鳥を、あの男が撃てないことは判っている。

 ところがウルファンは、表情を変えずに銃口を飛鳥に向けたまま発砲した。

 きつく目を瞑って肩を竦めたが、弾丸は飛鳥の顔の横をすり抜け、後ろに立つリオンの右肩に命中した。


『ぐっ……』


 鈍い苦痛の呻き声。


「リオンッ!!」


 次いで悲痛な飛鳥の悲鳴が格納庫に響く。リオンは苦悶の表情を浮かべて、その場にくずおれた。

 かしぐ身体を咄嗟に支えると、光が失われつつある青い瞳は、ぼんやりと飛鳥を見上げる。


『アスカ、*****……』


“逃げて……”


 リオンの身体から力が抜けていく。


「リオンッ!」


 必死に周囲の気配を探った。思考を感知する領域を網目のように広げ、何度も触れてきた、清廉とした思考を探す。


“――……ゲートを開けたのは誰だ? 内通者がいる。探せ”


 見つけた。

 ルーシーの思考は、どんどん明瞭化していく。ここ、屋内格納庫に近付いているのだ。


“無謀にも程がある。鹵獲ろかくが目的か?”


 ルーシーの傍に、猜疑心に満ちた思考の持ち主がいる。馴染のある思考だ。カミュに違いない。


“違う。目的はアスカだ”


“同じことだ。あまり、情を移すな。アスカは古代神器――太古の兵器だ”


 ルーシーの返答に、カミュは苦言を呈した。カミュの言葉は、飛鳥を茫然自失させた。

 飛鳥は“兵器”。

 人である自信を失くしかけていたが、改めて人から指摘されると、思った以上に強烈だ。

 衝撃を受けている場合では……そうは思っても、身体に力が入らない。よろよろと床に座り、リオンの頭を抱えた。

 ウルファンは巨躯を二つに折り曲げて、静かな動作で飛鳥の前に跪く。


『アスカ、*******』


“来てくれ”


 大きな手が、飛鳥に向かって伸ばされる。


「来ないで……」


 飛鳥はリオンをぎゅっと抱きしめ、首を左右に振った。


『*****、**********……』


“叩いて悪かった……。頼む、来てくれ……”


 飛鳥が一向に首を縦に振らないと判ると、ウルファンは仕方がない、というように飛鳥の脇に手を挿し込み、強引に持ち上げようとした。





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