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 扉を開けて、豪華な正肩章を身につけた青年が入ってきた。とても端正な顔立ちをしている。ショートボブで整えたストレートの灰銀髪を揺らして、苛立たしそうに飛鳥達の前までやってくると、涼しげな青い双眸で睥睨へいげいする。


『カミュ、******』


 ルーシーは青年を「カミュ」と呼んだ。


『******……』


『*********』


 カミュは飛鳥を見て、顔をしかめる。


“何でこんな所に?”


 顔を俯ける飛鳥の肩を、ルーシーは守るように抱き寄せた。ルーシーはカミュに何やら説明しているようだが、カミュの表情は厳しいままだ。


“アスカを大切にしたい”


 魔法によって捻じ曲げられた、ルーシーの心の声。


“何言ってる? どうした?”


 そして、戸惑いを隠せないカミュの心の声。


『ルーシー、*****! ******、********』


 カミュは飛鳥を指差して、ルーシーに向かって声を荒立てている。


“閉じ込めてなどおけない”


“何考えてる? 子供だから油断してる? なんだこの客人扱いは……”


 飛鳥の扱いに対して、二人は真っ向から対決している。普段から、気さくに意見を交わせる関係なのだろう。カミュは様子の違うルーシーを不審に思い、その原因が飛鳥にあるのではないかと疑っていた。

 その通りだ。

 二人の争う声が耳に痛い。飛鳥が魔法を使ってしまったせいで、いらぬ騒動を引き起こしている。

 カミュは飛鳥の腕を強く引っ張り、無理やり立たせようとした。


「痛っ……」


『アスカ!』


 ルーシーがすかさず間に割って入る。飛鳥も逃げるように、ルーシーの背中に隠れた。悪循環と判っていても、この場を切り抜ける為にカミュに魔法をかけたくなる。


『****! アスカ*******。カミュ、******、************……』


“乱暴は止せ。アスカは危険なんかじゃない”


『ルーシー! ******』


“おかしい。らしくない”


『アスカ****! ********』


“アスカを隔離室に戻す”


『******!』


“出ていけ”


 二人はしばらく言い争った末、最終的にカミュが折れた。扉は荒々しく閉まり、静寂が訪れる。ルーシーの背中に張りついていた飛鳥は、慌てて距離を取った。


『アスカ、******……』


“怖がらないで”


 カミュのあからさまな敵意に晒されて、心はボロボロだ。もう思考を読むのは止めようかとすら思う。差し伸べられた手を殆ど何も考えずに取ると、ゆっくり手を引かれて広い胸の中に抱きしめられた。


“大丈夫、大丈夫……”


 ルーシーは慰めるように、飛鳥の耳元で『シィ』と囁いた。腕も声も暖かくて優しいけれど、魔法にかけられているせいだと思うと、何もかも虚しく感じる。

 もう魔法はたくさんだ。

 今より状況が悪化するとしても、ルーシーとロクサンヌを早く元に戻して、罪悪感から解放されたい。

 ルーシーは魔法にかけられたことを知ったら、怒るだろうか。自業自得だが、彼になじられるのは怖い。

 家に帰りたい。

 明日の心配など、いらない世界に帰りたい。安全で、幸福に溢れた我が家に帰りたい。自分のベッドに横になって、何の心配もせずに眠りにつきたい……。


『******?』


 ルーシーの腕の中から抜け出すと、静かに首を横に振った。ルーシーが傍へ寄ろうとすれば、その分だけ距離をとる。

 一人になりたい。

 思考を読み取る気も失せて、ただ静かに首を振った。

 飛鳥の拒絶を感じとり、ルーシーは名残惜しそうにしながらも、静かに部屋を出て行った。扉の鍵も今はどうでも良かった。閉じ込めたければ、好きにすればいい。

 疲れた……。

 シャワーを浴びて、白いワンピースのようなネグリジェに着替えると、緩慢な動作で天蓋つきのベッドに潜りこんだ。

 白い絹のシーツは、うっとりするような手触りで、溜息が出そうになる。手足を伸ばすと、凪いだ海に浮かんでいるような、ゆったりとした心地良さを味わえた。

 だけど――。

 どんな豪華なベッドよりも、愛する我が家の、慣れ親しんだ狭いシングルベッドがいい。あのベッドの安心感に勝るものなんてない。あのベッドで目覚めることが出来ないのなら、いっそこのまま、永遠の眠りにつきたい。


 ――明日なんて、来なくてもいい。目が覚めなければいい……。





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