第三話・罠
アグニ達三人は平民の格好をして、町中を隠れるようにしながら歩いていた。貴族の格好だと町中では目立ってしまう。
「♪〜〜」
レイアにとっては見聞きする物すべてが新鮮なようで、辺りをキョロキョロ見回しながら歩いている。
「レイア。あまりキョロキョロするな。目立つぞ」
アグニに注意されると、レイアが恥ずかしそうに首をすぼめた。
「アグニ殿!姫を呼び捨てにするとは!」
モーザが顔を真っ赤にした。
「ジジイ、さっきも言っただろ。俺とレイアは兄弟で、ジジイの孫って事にするって」
アグニが面倒臭そうに説明した。
「だが!」
「別に良いんだぜ?従えないなら」
少し脅してみた。モーザが黙ってしまった。
「おじいさま。良いじゃないですか」
レイアが仲介した。この状況を楽しんでいるようだった。
「・・・わかりました。私もできるだけ努めます・・・」
モーザを納得させると、アグニは満足そうに笑った。
その時、後ろからゾクッとするほど殺気をはらんだ視線を感じとった。この中でそれに気付けたのはアグニだけだ。
「・・・」
「お兄様。どうかしましたか?」
突然表情を変え、黙り込んだアグニをレイアが心配そうに覗き込んだ。
「・・・恐らく追っ手に見つかった」
『えっ!?』
いきなり言われた二人は大きな声を出してしまった。
「騒ぐな」
そんなレイアとモーザをアグニが諫めた。
「ジジイ、すぐに馬車に戻れ。ツキメがいるはずだ。そのまま少し離れた所に逃げろ」
「アグニは?」
「追っ手を何とかする。早く行け」
そう言うと剣の柄に軽く手を掛けた。
「・・・」
レイアがアグニを心配そうな目で見てくる。
「レイア、大丈夫だ。早く行け」
その視線に気付いたアグニが優しく言った。
「・・・御無事で」
そう言い残すと、モーザと共に走り去って行った。
それを見送ったアグニは急に後ろを振り向き、ダッと突っ込んでいった。そのままシャッと剣を抜くと、白いマントを着た奴に切りかかった。
ガチィッーン!
金属同士がぶつかりあう音が辺りに響き渡る。
『うわ〜〜!』
『きゃあ〜〜!』
切り合いに気付いた周りの人達が、叫び声をあげながら散っていった。
不意打ちを防がれたアグニは後ろに数歩下がり間合いを取った。それを見ると、白マントが剣を構え、ジリッ、ジリッと間合いを詰めてくる。
しばらく睨み合いが続いた。そして、しばらくそれが続くと、まるで合わせたかのように二人が同時に地を蹴った。
ちょうど真ん中ぐらいの位置で二人が交差し、逆の位置になると、パキッという金属の折れるような音が後ろから聞こえてきた。
「ふ〜」
息を大きく吐きながらアグニが振り向くと、白マントの剣が折れ、地面に突き刺さっていた。
「クックックッ」
突然白マントが肩を震わせ笑いだした。
「何がおかしい」
アグニが怪訝な表情をした。
「私の任務はお前を引きつける事。既に任務は完了している」
「まさか・・・」
嫌な予感がした。
アグニは白マントを無視し、横を弾けるように走り抜けた。
「逃がさん!」
白マントがそう叫ぶと、先の折れた剣をアグニの背中目掛けて力一杯投げ付けた。
「くっ!」
間一髪でそれを躱したが、白マントはその間に一気にアグニとの距離を詰めてきた。そして、そのままアグニのみぞおちに拳を叩き込むと、上に飛び上がり、顔面に蹴りを仕掛けてきた。
アグニは屈んで蹴りを躱すと、剣をパッと放し、白マントの脇腹を思い切り殴りつけた。
「カハッ!」
空気の漏れる音をだしながら、小柄な体が横に吹っ飛んでいく。
「クソッ・・・」
アグニはそれに目もくれず、馬車に向かって走り出した。