第二話・頼む!
「あんた達の名前は?」
「申し遅れた。私はモーザ。こちらは私の主人の娘のレイア様です」
レイアの名前を聞くと、アグニが少し怪訝な顔をした。
「レイア?何処かで聞いたような・・・」
「それより、アグニ殿はマルキスの生まれですかな?」
まずいと思い、モーザが話題を切り換えてきた。
「いや、オクドゥールだ。今は世界中を旅している」
「ほう、それは大変ですな」
「ははっ。あんた達程じゃないよ」
談笑していると、外から声が聞こえてきた。
「もう着きますよ」
さっきの子供だ。
「彼は?」
「んっ?ああ、あいつはツキメ。色々あって一緒に旅してる。それに彼じゃなくて彼女ね」
そんな雑談をしていると馬車が止まった。
「ツキメ。矢と食料買って積んどけ」
指示をすると、はい。と返事し、町の中に消えていった。
「さて、宿を探すか」
「かたじけない」
「いいって」
そう言うとアグニがレイアを背負って歩いて行った。
宿はすぐに見つかったが、何処も満室になっていた。
「一室だけ空いてますが、とても貴族の方をお泊めするような部屋じゃ」
「いい。少し休むだけだ」
やっと五つ目の宿で見つかった。
「それでしたらご案内致します」
案内され部屋に入ると、確かに貴族が耐えられるような部屋では無かった。一応掃除はされているようだが、汚い。さいわい、シーツはきれいだったお陰で、取りあえずレイアをベッドに寝かせる事はできた。
「さて、さっきの説明をしてもらおうか?」
イスに座ると早速アグニが聞いてきた。
「すまないがこちらにも事情がある。聞かんでくれないか」
「・・・ま、良いけど」
沈黙が流れた。
「アグニ殿、頼む。我々を首都のタイロまで連れて行ってくれないか?」
突然モーザが頭を下げた。
「・・・さっきは殺されそうだったから助けたが、用心棒はやっていない」
冷たい言い方だった。
「頼む!何としてでも行かないといけないのだ」
モーザが床に頭をつけて頼んできた。
「・・・うっ・・うん」
その時、レイアが目覚めた。
「おお、起きられましたか」
モーザが立ち上がり駆け寄った。
「モーザ。・・・貴方は?」
レイアがアグニに気付き尋ねてきた。
「こちらの方は先程助けて下さった方でございます」
モーザがさっきの事を簡単にレイアに説明した。
「そうでしたか。ありがとうございました」
説明を聞き終わると、レイアがアグニに向かって深々と頭を下げた。
「勿体ない。貴族が平民に簡単に頭を下げるべきじゃない」
アグニが諭した。
「いえ、命の恩人に貴族も平民もありません」
「なかなかしっかりしている。流石マルキス国の姫様だ」
「知っていたのか!?」
モーザが驚いた表情を見せた。
「まあ一応ね」
「知っているのなら尚更頼む!タイロまで守ってくれぬか」
「私からもお頼み申し上げます」
モーザとレイアが頭を下げた。
「うーん。姫様の頼みを断るわけにもいかないか。ただし、それなりの礼は払って貰うぞ」
二人共その言葉に嬉しそうな顔をした。
「かたじけない」
「それと、旅の最中は俺の言う事を聞いてもらう。いいな?」
「わかっています」
レイアが答えた。
「それじゃさっさと出発するぞ」
アグニがさっさと部屋から出て行こうとした。
「もう行くのか?」
モーザが戸惑ったような表情を見せた。
「当たり前だ。奴等の仲間がいるかもしれないだろ。捕まりたいのか」
厳しい言い方だが、アグニが正しかった。既に町には不穏な影がうごめいていた。
フードの付いた白いマントに身を包んだ三人組が、アグニの馬車を囲みながら話をしていた。
「ここにいるはずだ。探せ。姫以外に用は無い。殺せ」
中心の男が指示すると、他の二人が散っていった。