第二話 死んでくずれて灰になれ(2)
「くっそ。ぜったい寝てやる!!」
わずかな安眠を潤によって邪魔されてしまった翠は、午後の授業をサボることにした。眠い。体が疲れている。そしてついでに精神もさっきの潤とのやり取りで疲弊してしまった。
片割れの碧衣は潤の騒音公害をものともせず爆睡していたので、翠は一人で保健室へ向かう。水城が成仏してしまった後、新しく入った女性の養護教諭に頭痛を訴え(もちろん嘘だ)、ベットに寝かせてもらうことになった。
屋上の硬いコンクリートの床より、清潔で柔らかい保健室のベットの方が気持ち良い。
翠は今度こそゆっくり眠ろうと、目を閉じた。
ヘイヘイ 腐乱ボワーズ!!
(…………………っ)
ボワっと腐乱なボワーズ♪
(う…)
あっかっい ちみ~ど~ろ フラッフラッ フラッ 腐乱!! ボ~ワ~ズ~♪
「うるせえっ!!」
「!? どうしたの柊君!!」
がばっと起き上がって、いきなり叫びだした翠に養護教諭が驚いてベット周りのカーテンを開く。
「す、すみません…」
「?? 何か悩みがあるなら、遠慮なく言ってね?」
「…なんでもないんで…。大丈夫です…」
翠はそう言って、もう一度布団を被った。
養護教諭の心配げな視線を感じたが、しばらく大人しくしているとため息と共にカーテンが閉まる音が響いた。
「ゆっくり休んでね」
休みたい。眠りたいのだ。
だが、
(あいつの歌が、頭から離れない…)
あの電波な歌詞。特徴的なメロディラインが頭の中でエンドレス。
ちっとも眠れやしないのだった。
(あの野郎~…)
結局、わざわざ授業をさぼってまで保健室のベットに寝転がっても、翠は一睡もできなかった。放課後、ふらふらになりながら自分の教室に帰ると、待っていた碧衣が気遣うような視線を向け、自分のカバンを渡してくれる。
「眠れた?」
「…ぜんっぜん!!」
こうなったら家に帰って眠剤でも飲んででも寝てやる!! と翠は息巻いた。
二人が所属する自然科学研究部(略してシカケン)は自由参加の部だ。好きなときに顔を出せば良い、マイペースな部である。だから今日は、部活に顔を出さないで帰るつもりだった。
やっぱり自宅の布団が一番だ。
寺だから周りには墓と林しかなくて静かだし。
「……言い難いんだけど、」
碧衣が、帰ったら速攻布団に直帰しそうな兄に、こう告げた。
「さっき親父から連絡があった。このまま電車で隣町に出て、仕事してこいって…」
「…隣…町…?」
「うん」
「また…仕事…?」
「うん」
ああ…どんどん安眠から遠ざかっていく。
「あんの…クソ親父!!」
そして翠と碧衣は、そのまま駅へ向かい隣町へ行くことになった。