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第二話 死んでくずれて灰になれ(1)

翠と碧衣がメインのお話です。



 柊雲寺しゅううんじは、江戸時代にこの地に流れ着いた修行僧が開いた寺である。

 修行僧はこの地に巣食っていた大妖・女郎蜘蛛を封じ、代々その子孫が封印の監視役を務めていた。一方で、脈々と受け継がれた験力を用いこの地に起こる怪異を討ち払うこともまた、修行僧の子孫である柊雲寺の者の務めであった。



 そして昨夜も、柊雲寺の柊翠ひいらぎあきら碧衣あおい兄弟は父である住職に命じられるまま、とある踏み切りに出る地縛霊の除霊に借り出された。それが予想外に長引き、ようやく眠りにつくことができたのは日が昇ってからだった。

 これで翌日、つまり今日が休みの日だったら寝倒すのだが、あいにく今日は平日。学校がある。しかも午前中に外せない試験が入っていたので、休むこともできない。

 翠がようやく一息つけたのは、昼休みに入ってからだった。

 人気の無い屋上。早々に昼食をかき込んだ柊兄弟はごろんとコンクリートの床に寝転がった。こんな硬い床でも、今なら寝られるくらい眠い。

 しかし、その休息は長く続かなかった。

 がちゃり、と屋上の扉が開く。数人がこちらに向かってくる音がした。


「あれ? 翠と碧衣、寝てる?」

 明治あきはるの声だ。

 翠は目を瞑ったまま、気配をうかがう。

「めずらし~」

 どこか癇に障る声。これはじゅんだろう。

「ほんと、珍しいね。静かに寝かせておいてあげよう」

 明治は自分達に気遣って、なるべく音を立てないように座り込み、購買で買って来たパンの袋を開けた。

 翠の意識はまだ覚醒していたが、明治の言葉に安心して眠りの淵に落ちようとする。

 ところが、

「でさでさ、そのHide&Seekってバンドの新曲がすっげーかっくいーの!!」

 興奮を隠せない様子で、潤が声高に明治に話しかける。

(うるさい…)

「じゅ、潤…。二人が寝てるんだから、落ち着いて…」

 と、なだめる明治。

(………)

「ん、あ、ごめんごめん。でもさ~、ホントいいんだぜ。俺CD出たら絶対買う!!」

(だからうるせえっつってんだろ…)

 寝付けず、寝返りを打つ翠。薄目を開けて隣に寝転ぶ碧衣を見れば、双子の片割れはすうすうと寝息を立てて熟睡している。うらやましい。

「サビがな、こんななの。 ♪ヘイヘイ 腐乱ボワーズ!! ボワっと腐乱なボワーズ♪」

(……っ)

「じゅ、潤…」

「♪あっかっい ちみ~ど~ろ フラッフラッ フラッ 腐乱!! ボ~ワ~ズ~♪」

 ぶちっと、血管のどこかが切れたような音がした。

「うるっせんだよこの野郎!!」

 潤の歌に耐え切れず、がばっと起き上がった翠は潤の胸倉を掴む。

「なんだその電波な歌はぁ!!」

「なにおうっ!! 『赤い血みどろ男爵腐乱ボワーズ☆のテーマ』になにか文句でもあるのかっ!!」

「文句があんのはテメエの騒音公害だよ!! 眠れねえだろっ!!」

 つかなんだその変なタイトル!! と翠がつっかかれば、素晴らしいセンスじゃないかと真顔で潤が迫る。

「ま、まあ二人とも落ち着いて」

 明治がとりなすように二人の間に入る。

「潤、翠達が寝てるってわかってたんだから静かにしてなきゃ。ね? ごめん翠、騒いで。大人しくしてるから(させてるから)、ゆっくり休ん…」


 キーンコーンカーンコーン♪


 ああ無情。

 明治の気遣い虚しく、貴重な昼休みは終わってしまった。

 結局翠が得られたものは、わずかなりとも安らげる睡眠時間ではなく、潤の電波な歌だけであった。



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