No,09:表裏一体
桜参亮………この物語の主人公。科学技術者の父を持つ、差別を許さない。人間
岩沢蓮………茶髪ツンツンの亮の友達。チャラく見えるがお洒落なだけ。number
酉種風見………少し癖のある髪の女の子。気が小さく、小動物的。number
道寺昌………勇敢な男の人。銃の扱いも心得ているらしい。
壊れない実験台………暗がりに住む(?)、一人の少年。眼帯をしている。
欠陥製品………numberとして機能しなくなった、または製造段階で廃棄されたもの。
無人警官………人工知能を持ったロボット。ただし、感情機能が搭載されていないのでnumberとは扱いが違う。
本来ならば、numberとしてでも生きて日の光の下を歩けるはずだった。
しかし、ほんの一つピースが欠けているだけで存在してはいけないものになり下がる。
欠片が一つ足りなければ。
パズルは完成しない─────────いや、何においても同じことは言えるだろう。
足りなければ異常。通常の世界には異常の居るべき場所がない。それは当たり前のことのようにされている。確かにそうかもしれない、誰だって異常は忌み嫌う。突飛してるもの、格段に底辺のもの、種類が違うもの…………。
だけども、それでは異常はただ排除されるだけの存在であっていいのか?
ほんの一つ足りなかっただけで、それだけで別物と判断され消されてしまっていいのか?
完成していない不完全では駄目なのか、そんなに完成したものが偉いのか?
もし、すべてが肯定で答えられてしあうのであれば、この国は腐っている。
ではどうすればよいか、答えは簡単であろう。そんなものは決まってしまっているのだ。
人類が長らく使ってきた方法だ。
────────壊せばいい────────
だからまずは手始めに目の前の二人を殺してしまおう。
手の内の拳銃の引き金を引くだけでよい、それだけで息は切れて、死に絶えるだろう。
では始めよう、一方的な残虐を。
状況は最悪だった。目の前にはこの事件の犯人といえるだろう人物が立っていて、拳銃を所持している。
しかもそれはただの拳銃ではない。拳銃の方が特殊なのか弾丸の方が特殊なのかはわからないが、何かに打ち当ると、爆発を引き起こす。
これではかすっただけでも危険だし、本当に一発もらったら最後だろう。
そんな中でこちらは丸腰、そして力のない俺と怪我をしている昌さん。
どうすれば………どうすればいい?
「目標捕捉、命中率70パーセント、第2射」
「危ないっ!」
かがんでいる状況の中、昌さんはこちらに向かって飛び込んできて、俺を転がすように突き飛ばす。
ベゴォン、と先ほどまで俺が身を伏せていた場所は陥没し、小さな爆発を引き起こしていた。
「命中せず、」
「昌さんっ、とりあえず逃げましょう!」
「分かった!」
出口とは反対方向に蛇行しながら逃げる。直進では銃が発砲さえた場合当たるかもしれないからだ。
みるみるうちに人影は小さくなっていく。
蓮のことが心配だったが、あいつは必ず俺たちを狙ってくる。
そう確信し、逃げた先に着いたのは本屋だった。
雑誌や単行本が床に散乱し、歩きにくかったがここには背の高い本棚がたくさんある。もしかしたら反撃の余地があったり、一周して相手と位置を逆にして出口までいけるかもしれない。
ひとまず本棚の影に隠れ、相手の様子を窺う。
「亮君………拳銃がある。もしかしたら動けなくすることぐらいはできるかもしれない」
見ると、昌さんの手には敵が持っていたのと同じような形をした拳銃があった。
「それ……どうしたんですか?」
「さっき君の友達を助けた後に穴を抜けただろ? その時に床に落ちていたんだ。もしかしたら使えるかなと思ってね、おそらくあいつの落したものだろう。このことから考えるに、あいつは何度もこの建物の中を徘徊している」
確かにあいつは破壊すると言っていた。それならばこの中を徘徊して生き残った者を消そうとするのもわかる。しかしあいつはなんで煙の害を受けないんだろう。人間だろうがnumberだろうが器官は同じなんだから苦しいはずなのに。
そこで一つの新しい疑問が思い浮かんだが、すぐに打ち消した。
その間にも昌さんの頭に巻いたタオルは血がさらに滲んできている。
「亮君、相手はどれだけいるかわからないけど、とりあえずはあいつを抑えれられれば逃げ出せるから頑張ろう」
そんな励ましが聞こえて、ぐちゃぐちゃになる思考を言ったん停止した。
今は抜けだすことだけを考えていればいい。余計なことは考えなくていい。
がさっ、と音を消そうともせずに何者かがこちらに向かってくるのが分かった。
そして無差別に弾丸を周りに打ち込み、暴発させる。
次々と本棚が砕け、燃え、跡形もなくなっていく。
俺たちが隠れているのは参考書コーナーであり、あいつが今発砲しているのは入り口付近であるから小説コーナーだと思われる。だとしたら、あいつはこちらに背を向けていることになる。
昌さんが今発砲すれば、命中するかもしれない、しかし当たらなかった場合はこちらの居場所を知らせることとなる。煙で視界が良好ではなく、それに昌さんは拳銃を使うのも初めてだろう。
当たる確率はほぼないと考えられる。
どうしますか、という意味を込めて昌さんに視線を送るが、そこに昌さんはいなかった。
「どこにっ………」
小声でつぶやくが、姿は一向に見当たらない。
遠くで銃声がし、声が聞こえる。
「ぐっあ………損傷レベル………最大、再起不能………」
続けてパンパンパァン、と音が聞こえた。
「亮君! 大丈夫だ、こっちに来てくれ」
昌さんの声だった。急いで本屋の入り口方面へと向かうと、あいつが倒ていてその隣に昌さんが立っていた。
「昌さん………? どうして?」
「ごめん、何も言わずに飛び出して言ったりして悪かったよ。………僕はね、実は自衛隊に属していたことがあるんだ。相手に気付かれず、そして倒すことぐらいは簡単だったんだ。でもね、それを君に伝えてしまうと、少しの安堵感が相手に伝わってしまうことがあるんだ。だから緊張したままで、そのままむかったんだよ。本当にごめんね」
「そう、だったんですか」
思わず目線があいつの方へ行ってしまう。血は流れていなかった。
そんな俺の目線や考えに気付いたのか、昌さんはこう言った。
「ああ、この拳銃の中身は硬質ゴム弾だったよ。当たり所が悪ければ脳震盪を起こさせることも簡単なくらいにね」
「よかった………」
「よかった? …………君はやさしいんだね。 僕たちを殺そうとしたこんな奴にもそんな気持ちが出てくるなんて」
「…………いえ」
それだけ言って、後は先ほどの出口まで向かうのであった。
「よぉ、」
煙の向こう側から声が聞こえる。それは俺に対してのものではなく、昌さんにとってのものだったと感じた。それが分かったのは、昌さんが動揺していたからだった。
人影はいまだに見えない。殺意は感じないので、先ほどのあいつの仲間ではないと感じた。
「な、………何故だか解らないけど怖い……震えるんだ、何か身体が反応するんだ」
顔が真っ青になり、ガクガクと震えるその姿はまるで何かに脅えているようだった。
雨にうたれて身体が冷え切ったような子犬のように震えながらも拳銃のグリップは離さなかった。
「誰だっ?」
昌さんの代わりに煙の中へと問いかける。
「あぁ? んだよ、一般人連れまわしてんのかよ。………お前だな、使い捨てが大脳部を損傷したって言ってたのは。まったく、壊れる前の記憶か、そりゃあ? 他の欠陥製品も全員使い物にならなくなったしな。………やっぱり欠陥製品に頼るのは駄目か、まぁ想定内の結果だったがな」
煙の向こうからはため息混じりの声が聞こえてきた。
それは楽しんでいるようにも聞こえた。その間にも昌さんは震えたままだ。
何かとてつもなく嫌な予感が走る。それは先ほどまで自分が考えていたことについてだ。
あわよくば嘘であって欲しいと願った自分の考察。
「おい、お前。お前だよ、そこの拳銃握っている奴。しっかりと働けよな?」
──────────欠陥製品なんだからよぉ────────
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
昌さんはためらいもなく拳銃を握り直し、煙の中のようやく見えるようになった人影に向かって二度発砲する。
ズガン、ズガァン
と明らかにその人影に命中した。ぐらりと身体は揺れるが、倒れはしない。
人影は歩きだした、こちらに向かって。だんだんと煙の幕が晴れていき、その全貌が明らかになった。
整った顔立ちに長い髪前髪、それは目のあたりまで伸びており邪魔そうだった。
片目に眼帯をし、上は黒の無地の半そでシャツに下は紺や黒に近い色のジーンズだった。不思議なのは靴を履いていないことだった。
そして、傷一つないということ。
「きかねぇって言ったらどうする?」
「う、う、くそぉぉぉぉぉぉぉっ!」
続けて引き金を引くが、一発しか発砲されなかった。しかしそれは彼の眉間へと吸い込まれていき───────。
当たる直前で左上に逸れて天井にぶつかる。ドン、という音だけが二回辺りに響き渡った。
「当たった………? いや、当たってから逸れた?」
「おい、そこの欠陥製品。お前はいい加減思い出したらどうだ? 自分はもう死んでいて、俺たちに弄繰り回されてここに居るってことをなぁ?」
ガン、と昌さんが床に膝をついた。目は虚ろになり、何を見ているのか何を考えているのかも話からない。
「おっと、使い捨てがやってくれたようだな」
「な、昌さんはどうなったんですか!」
「んなことはどーでもいいんだよ、一般人。そんなことより今のこの国をどぉ思う?」
「そんなことって! 昌さんは俺を助けてくれたんだよ、このままの状態なのは俺が許せないんだよ!」
「ほぉ、所詮number、しかも欠陥製品。なんてことはいわねぇんだな」
「当たり前だろ! 人間とnumberは平等なんだよ!」
「へえ、」
この建物が震えるくらいの殺気をここで感じた。
脳からの命令とか、頭で考えるとかそんなことは一切関係なしに身体が震えていた。
「この国の政府がどれだけ腐っているかも知らずにのうのうと生きている人間がふざけたことぬかしてんじゃねぇよなぁ!」
重く圧し掛かる重圧に、俺は声だけを聞いていた。
「裏を知っている人間がいいとはいわねぇ、むしろ最悪だ。だけどな、裏の奴に対して表の奴が口出しするなんてなぁ、自殺行為だ、よく覚えておけ。それと、こいつはもう動かない」
昌さんを指し、少年は言う。
「もともとは欠陥製品だ、死んでたものだからな」
そのまま背を向けて遠ざかっていく少年には謎しか残っていなかった。
もう理解することも疲れ、そのままここで眠ってしまいそうだった。
力を振り絞って立ち上がろうとするが、うまく立てない。すぐにふらついてその場で倒れる。
意識がだんだん遠のく。その中で、最後まで俺はあの少年の言葉が頭に残っていた。
『この国の政府がどれだけ腐っているかも知らずにのうのうと生きている人間がふざけたことぬかしてんじゃねぇよなぁ!』
テストが終わりました!
更新率が回復できるの思うのでまたよろしくお願いします!