No,05:拒み絶つことの意義
桜参亮………この物語の主人公。科学技術者の父を持つ、差別を許さない。人間
鵜川月乃………金髪ツインテールの美少女であり、亮の幼馴染。ドSである。number
岩沢蓮………茶髪ツンツンの亮の友達。チャラく見えるがお洒落なだけ。number
酉種風見………少し癖のある髪の女の子。気が小さく、小動物的。number
錠越眞守………長いつやのある黒髪で、生徒会長として有名。かなりの美人
欠陥製品………numberとして機能しなくなった、または製造段階で廃棄されたもの。
numberの製品番号はいつつけられるかご存じだろうか?
肉体が完成した時、ではない。身体の一部分に付けられるのはその時だが、実際に製品番号が決まるのはその主核となる脳にあたる部分が完成した時だ。
カーヌルブレイン、そう呼ばれてるものだ。
これを作製できる科学技術者は世界に数えられるほどしかおらず、その中の半分はこの国の人間が占めている。
ようするに、この国がnumberの開発国なのだ。とはいっても、この国以外ではほとんどnumberは社会に出回っていない。それは食糧問題危機ではないからだとわかるだろう。他の国は食物の件では豊かなのだ。今現在、食糧を輸入に頼っている割合は90%。これは大きな問題である。
今頃の小学生でも危機に面してるということは優に理解できるだろう。
前にも話した通り、食糧問題によってnumberが作られたのだ。
話をカーヌルブレインに戻すが、これは科学技術者であれば容易に中を改造することができる。
非人道的な性格へと導くプログラム、感情規制されるようなプログラム、そんなものを組み込むのは簡単だということだ。身体検査、などといった名目で怪しげなプログラムをインストールすることだって可能なわけなのだ。
ここで言いたいのは、人間によってnumberは左右されることがあるということだ。
法的に人間とnumberは平等であると言っている以上、そんなことはあってはならないのだ。
行動を制御する電波を流すことも、カーヌルブレインを規制する電波を流すことも。してはいけないのだ。
しかし、犯罪を犯したnumberを捕えるときはそれを国際警察は秘密裏に使用しているのだ。
犯罪者を捕えるためとはいえ、フェアではないような気がする。法律はただの建前なのか。
それにもしそれが悪用されたらと考えると、恐ろしい。
私が恐れているのは、numberVS人間という構図である。自分たちの作り出した平等体との争いとなると、皮肉とはもう言えないのかもしれない。
今はただ、祈ることや考えることしかできないだろう。
朝、今日も何故だか月乃と投稿していた。鞄持ちはさせられていない、謎だ。
最近の月乃の行動に変な感じを覚えつつも、俺は出来事を思い出していた。
『最悪な出会いの曲がり角』で出会った少女、同じ学年ではあると思うのだが目立った様子はない。
でも、なんだか不思議な感じがした。いや、何か気になったというべきであろうか。
何か自分を卑下しているような、人に対して臆病であるような。
それだけではなんら変わったことはないが、何か根本的に………。
「さっきから何黙ってんのよ」
「うぇ?」
「何その返事」
「いや、うん………そうだな。月乃は知ってる?ちょっと癖のある肩までの髪の女の子」
そう聞くと月乃は面白くなさそうな顔になり、
「そんな特徴だけで分かるわけないでしょっ」
と、脛に蹴りを入れてくる。
「いっ、痛っ、痛いって!」
「痛いところ蹴ってるんだから当たり前でしょ?」
「また俺の脛が強化される!?」
「脛は強化されませーん。ってなんでそんなこと聞くわけ?」
不機嫌全開で月乃は俺に目を向ける。
うわぁ、目を見ればわかる。かなり不機嫌だ。
「あー、えっとさ。この間曲がり角でぶつかってまだ謝ってないなーと思って」
「ああ、そうなの」
なぜだか月乃は肩の力を抜いたような気がした。
そこでピーンと思いだす。かなり絞り込める特徴を。
「そうだ、月乃。そういえばその子、太股に製品番号があったはず」
「………太股?」
「え、ぁ、………しまった」
馬鹿みたいだ、というかこんなのは俺のキャラじゃない。
「しまったじゃないでしょうが、この変態っ!」
月乃16連コンボをモロに食らった俺はしばらくその場から動くことができなかった。
「うーん、嫌だなぁ」
俺は『最悪な出会いの曲がり角』の手前で立ち止っていた。
またぶつかるかもしれない、とそう思って。昨日は歩いていてもぶつかったのだ。
今日はいっそのこと走ってみるか………?
そんな考えが脳裏に浮かぶが、そんなことをしたら今度は吹き飛ばしてしまうかもしれない。
それだけは避けたかった。それに、ちゃんとした謝罪の他にも尋ねたいことは多々あった。
かといってここで会えるという可能性なんてない。統計学上はあるのかもしれないが、何万分の一とか億とか途方もない数字だろう。
何かの前振りみたいになりながらも、『最悪な出会いの曲がり角』を曲がる。そこには誰もおらず、ぶつかることもなかった。
立ち止って安堵のため息をついていると、後ろに少しの衝突感が生まれた。
とんっ
背中に当たった何かは跳ねかえって床についた。
「わ、わりぃ………ってまさか」
「つぅ………ん」
そこには少し癖のある髪の彼女がいた。
「お、おお………この間の」
そう言って手を伸ばすが、さっとかわされてしまう。彼女は立ち上がり言う。
「き、気にしないでください。あの、えと、………ごめんなさい」
「なんで謝るんだよ。この間もだけど俺が悪いんだぜ?」
「わ、私は………………」
彼女は言う。ハッキリと拒絶を、口にしてはいけないことを。
「numberですから……に、人間のあなたが謝る必要なんてありません……」
拒絶、拒絶拒絶拒絶拒絶。
明らかなる拒絶、numberと人間分け隔てての拒絶。この国の根本を使っての拒絶。
だけど、俺はこの言葉にいら立ちを覚えた。
カッ、と顔が熱くなり頭が真っ白になる。
「何言ってんだよおまえ!」
立ち上がった彼女を壁へと押しつける。小さなうめき声さえも耳には届かない。
図ったかのように廊下は閑散としてる。人の気が全くない。
それでも彼女はおびえずに、俺の目を見て言った。
「わ、私は違うんです。駄目なんです………」
「違わねぇよ! お前はなんでそう言うんだよ、なんで平等な権利を与えられながらもそう言うんだよ! numberができた当時は人権すらなかったんだぞ!? その中で同じ命として扱われてこなかった奴の前でも同じことが言えるのかよ! 」
俺がガキの頃見てきた光景は今でも鮮明に頭に残っていた。
が、
「平等……? なんですかそれ、権利? そんなもの、私の住む日常生活の中には存在しませんよ! 」
彼女は堰を切ったように言葉を溢れさせた。
「毎日毎日、周りからの視線、攻撃、陰口。 何でですか!? 私が何かしましたか、平等じゃなかったんですか!? 権利なんてもの、法律なんてものは飾りなんですよ! 表向きには認められていても、範囲が狭くなれば意味なんて無さないんですよ! 私がっ……どんな思いでっ……」
彼女の目には涙が滲んででいた。俺にたたきつけられるようにして出された言葉は、体温をじわじわと奪っていった。こんなにも近くで、苦しんでいた。気づくことすらできなかった。大声張り上げて怒った。
自分は小さな存在だと、それは知っていた。だからこそ、次取る行動も。
「……そうか、俺は分かってなかったな。 だけども、俺とお前は平等だ。それだけは言える」
「…………」
「平等なんだ、だから仲間にだってなれるだろ」
「っ…………」
彼女はそのまま泣いていた。
どの返事がこようとも、俺は泣きやむまではここにいようと思っていた。
急にこんなことおこがましいかもしれないが、精一杯考えた結果だった。
その現場を少し離れた場所から見ていた影があった。
授業が簡単すぎてつまらなかったのでサボろうとしていたときだった。
廊下の向こうから男子生徒の怒鳴り声とそれに対する女子生徒の怒鳴り声、どちらも何かを訴えているようだった。
事件か?大変だ! の前に面白そうだ、という心情があった。
ここは様子を見ようと物陰から窺うとそこには、桜参亮と酉種 風見の姿があった。これは面白い展開だな、と見ていたのだが。
やっぱり、面白い奴だった。桜参亮は。
自分の想像通り、久しぶりに気分がよかった。
物陰から窺っていた、私立舞桜高等学校生徒会長錠越 眞守はかなり楽しそうな様子だった。
「おい、欠陥製品をだせ」
日中だというのに全く光の差さない旧市街の廃ビルに少年はいた。
少年は長い髪を邪魔くさそうに払いながら、命令を下した。片方の目には眼帯をしてある。
「欠陥製品をですか? あれは、なかなか回っていないんですから変なことに使うのはやめてくださいよ」
命令を受けた男は、弱弱しくも反撃する。
「うるせぇ、いーからだせっていってんだ。お前は全壊製品になりたいのか?」
「す、すいませんっ。すぐにお持ちしますからっ」
弱弱しく男は退避する。そんな様子を気にも留めない少年は、どう動こうかを考えていた。
欠陥製品の使用。それとも、………。
びりりりりりっ、と妨害電波が頭に響く。少年に対してだけの電波である。
「っ、うるせぇな………………。おい、解読して新しいプログラム構築しとけ」
少年の視線は部屋の隅に向いていた。そこには目も悪くない癖に黒縁の眼鏡をかけた青年が居座っていた。新型のパソコンを開き何やらいじっていたようで、スクリーンの光が顔を照らしていた。
「まったく、それが人にものを頼む態度ですか」
新型のパソコンと、周りの風景は不釣り合いだった。
「うるせぇ、オマエは人じゃねぇだろ」
「法律をお忘れですか?」
「あんなものは建前だ。クニはなにを考えてるかなんてさっぱりわからねえよ」
「その割には自ら電話をかけていませんでしたか?」
「知ってたのか」
「当然です」
まるで友人同士のような会話だが、そこには少しの殺気が含まれている。
通常の会話には、混じりようのないものだ。
「も、持ってまいりましたっ」
弱弱しく男は軽量金属にまかれた物体を指す。
「さぁて、どこまで面白くできるかなぁ?」
少年の声は毒々しく、闇に響き渡った。