No,42:ごじつだん
最終話、ごじつだんです!(・з・)
学校で起きたテロから数カ月後。
眞守さんはあのあと送られた病院から無事に退院し、普段通りに学校に通っていた。
蓮はと言うと、頭の傷が恐ろしいほど早くに完治してテロのあった1週間後には普段通りの生活をしていた。
俺は、大した傷を負うこともなく、病院に通うこともなくいつもどおりに。
酉種だけは、いつまでたっても心配してくれていたが。
そして今日はついに月乃が帰ってくる日である。
どこでいつ頃会えるのかはわからないが、今はまず普段通りに行動をしなければならない。
学校へ通う。普通のようで結構大変なこの日常生活の一部分。
しかし、それを削ることはできないのだ。
とりあえずは学校へ通い、それから考えよう。そう思っていつも通りにエレベーターでマンションの一階エントランスまで降りる。
ドアが開いたその先には、見慣れた少女が立っていた。
「月………乃……?」
今日、帰ってくるはずの少女。綺麗な金髪はそのままで、顔にある製造番号もそのままで、彼女はそこに存在していた。
「………」
「い、いつ帰ってきたんだよ! というか、今日じゃなかったのか?」
混乱していて自分でも何を言っているのかが分からなかった。
「なんでっ」
「え?」
何やら不満そうに月乃は頬を膨らませている。
いや、イライラしていらっしゃるように見える。
「なんで、って言ってるの!」
「何、何ですか、月乃サン!?」
「どうしてすぐに好きって言って抱きしめてくれないの!?」
は?
……何を言ってるのだろうかこの子は。もしかしておかしくなってしまったのではないだろうか。
それともこれは俺の幻覚で、月乃に会いた過ぎて見えたものなのかもしれない。
だからってこれはキャラ崩壊を起こしすぎなような気もする。
「な、に、を……?」
「もう……。帰ってきたよ」
そこで彼女は少し頬を赤らめて、そう言った。
「お帰り、月乃」
そしてやっと安心して俺も挨拶を交わすことが出来た。
月乃が帰ってきた。全員そろって、それで平和が戻ってきた。
それだけでもう俺は満足だった。
「学校、行くのか?」
「今日から行く。ほら」
そう言って月乃は手を差し出してきた。
その意味が分かって、俺は顔が赤くなるのを感じながら反撃してみた。
「お前、結構恥ずかしい奴だな……」
「な、何よ! 自分から好きって言ってきたくせに! べ、別に私は……」
「何だよ、私は?」
「…………なんでも無いわよ、馬鹿っ!」
そう言って月乃はエントランスから出ていってしまった。
こんなところも変わってはいなかった。
「待ってくれって、悪かった。 俺が調子に乗りすぎた」
「じゃあ、私のことどう思ってる?」
「好きです」
「ちょっ………。ば、馬鹿。そんな、え。そんな即答なの!?」
「お前なんでそんなにテンパってんだよ! お前が言わせたんだろうが!」
二人して顔が赤くなっていた。そんなことに気がついてさらに恥ずかしくなる。
『おーおー。朝から熱いねぇ』
上から声が降ってきた。見上げると、ベランダからは塩埜さんが顔を出していた。
見られた。
『まったく、なんなんさー。見せつけやがってぇ。 このこの~』
「うぐ………」
「し、塩埜さんっ! 止めて下さい!」
『あれれ、月乃ちゃん。 否定はしないんだいいねぇ。若い子はいいねぇ』
何を言っているんだろうかあの人は。あなただって十分若いだろうに。
「も、もう。行くよ亮!」
「わ、分かった……」
『いってらっしゃいお二人さん~』
やけにうれしそうな塩埜さんを背に、学校へと向かった。
学校への道のりの途中で、何一つ変わらない町を実感した。
普段通りの通勤をするサラリーマン。学校を目指す小学生。
いつもの情景が元に戻った。俺の横には月乃がいて、いつも並んで登校する。
「うおーい!亮、おはよう。って鵜川!帰ってきてたのか!」
何故か学校がある方向から蓮はやってきて、朝に似合わぬ騒がしい挨拶をしてきた。
「ああ、おはよう蓮。頭、大丈夫か?」
「え、なにそれ……頭がおかしいってことか!?」
「違うわっ!怪我だよ、完治したって言ったってさ、なんかあるかもしれないだろ?」
朝から騒がしくなってきた。蓮も月乃が帰ってきて喜んでいるようだった。
そんな中、月乃が小さな声で言った。
「おはよう……岩沢」
それは何気ない一言だったが、新たな一歩だと感じた。
一方、蓮は目を丸くして少し驚いていたようだった。
学校に着くと、生徒玄関の前に人だかりが出来ていた。
蓮がその場にいた適当なやつを捕まえて事情を聞いたところ、誰かが告白をしているらしい。
聞こえてきたのは、変声期を忘れたかのような少年声だった。
人混みをかき分けてとりあえず生徒玄関の前まで行く。
「おい、桃川……なにやってんだ」
「げっ、岩沢蓮!」
珍しくも話しかけたのは蓮だった。
そして、驚くことに桃川が告白している相手は酉種だった。
「ええと……あの」
「それで返事ばどうなんだっ」
桃川が言うと、酉種は少しおびえつつしかしはっきりした口調で言った。
「あのっ……私、す、好きな人いますからっ」
「なん……だと……。それってもしかしたら俺のこと?」
「どう考えても違うと思う」
桃川はポジティブな上に馬鹿だった。
その告白が撃沈したあとに、上から陽気な声が降ってきた。
間違いなく生徒会長、眞守さんだった。
「お~はよう!みんな、元気かね」
「眞守さんこそ、元気そうで…」
「いやいや~まぁね♪」
そんな会話をしつつ、俺は感じていた。
平和を勝ち取った。
数ヶ月前の出来事が全て夢だったかのように日常は平和である。
それは自分の望んだものだった。
これで良かった。
隣に居る月乃を見る。
少し変わった彼女は微笑み返してきてくれた。
この平和な日々の連続を、月乃とともにまた歩んでいこう。
また何か障害が立ちふさがっても、俺なら、いや俺たちなら乗り越えられる気がした。
願わくば、この平和な日常が終わりませんように。
「レールは右。次の分岐はいつごろなの?」
観測者である少女はそう訊いた。
白のワンピースにそれと同様の白い髪。それに加えて神から愛されたかのようなその美しい顔は作り物のようだった。
ここは立方体が鎮座する場所。いつもの集合場所のようなものだった。
立方体にはライトブルーの線が神経のように通っており、血液のように光は流れる。
「今はまだ視えない、以上」
対してぼさぼさな黒髪と、目の下の大きなクマが特徴である男、未来視が答えた。
一つの立方体の上にすわり、どこか遠くを眺めているようだった。
「記録は終了したぞ。今回は少し関わりすぎたな」
記録者が立ち上がりそう言った。
彼は複数の名を持っていた。それは白い少女も同様だった。
だが、真名は一つである。
ゴトリ、と立方体の一つが開いた。
それに反応して記録者は言葉を漏らした。
「久しぶりに目覚めたな」
『そうだね、久しぶり』
聞こえない程度の声量だったのだが、立方体から出てきたヒトガタはしっかりと返事を返した。
ただし、脳に直接語りかけるようにしてだ。音は発生していなかった。
『更新はされたのかな』
「当たり前だ。お前が寝ている間にずいぶんと増えた」
『そう、それじゃあ退屈せずに済みそうだね』
ヒトガタは立方体から出て、記録者から本を受け取った。
『ふふふっ………流石だね、面白いくらいに歴史は繰り返すんだね。変わらないなぁ、人間もnumberも……あれ? これは人間でよかったんだっけ?』
ヒトガタは分かっているにもかかわらずあえて質問をしたようだった。
それに答える者はこの中にはいなかった。それは応える必要すら無かったからだ。
自分たちがそうしたのだから、目の当たりにしたものをそうそう忘れるわけがない。
ヒトガタは笑う。愉しそうに笑う。
そのヒトガタをここに居る者たちはこう呼んでいた。
読者と。
はい、ということで終わってしまいました。
自分特有のわけのわからない謎を残しての終了となりましたが、いかがでしたでしょうか。そうです、ご都合主義です。
『何だこれ腹立つ!』という人がいたら感想をお願いします(笑)
第二部、という設定でいつか続編を書きたいと考えております。
その時にでも謎を解明できればと思っています。
ですがそれはおそらくもう少し後になると思います。
このPuzzlingly Number’sが完結したので、また新作を投稿しました。
良かったら読んでくださるとうれしいです。
new 天使と悪魔の共同戦線→http://ncode.syosetu.com/n8550v/
では、この辺で。