表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/42

No,40:無能と苦悩と

朝から投稿ーヾ(・◇・)ノ

「何だぁ。学校って所はフジュンイセーコーイってのが了承されてんのかァ?」

聞こえてきた言葉はそうだった。向こう側からやってくる声の主は間違いなくアイツだった。

先日の夕川町地下街テロの実行犯。俺らの前に降り立った壊れない実験台ハードと自称する少年。

絶対悪が迫ってきている。

「お前っ………」

俺はとっさに月乃の上から退き、少年と対峙した。

が、そこで重要なことを思い出す。少年には拳銃が効かない。何らかの理由で弾がはじかれてしまうのだ。

この状況で、少年を振り切って逃げることが出来るのであろうか。いつ録武ナナになるかもわからない月乃を連れて。

おそらく、不可能。

「録武ナナさんよぉ、いい加減メンドウだ。 さっさと目覚めろよ。俺は次の段階に行きたくてしょうがねーんだァ!」

少年は吼える。むき出しになった欲望を暴発させるかのように。

与えられた玩具を前に、高揚感を押えられない子供のように。

「くっそ!」

腰のホルスターから拳銃を抜き、壊れない実験台ハードに向けて発砲する。

案の定弾丸は弾かれ、天井にめり込む。パラパラと削られた天井が降ってくる。

「意味無し、ってかお前は俺のコト知ってんだろ? 何を無駄なことしてんだよ。………思えば俺のことを知っている一般人ザコなんてセカイでお前一人じゃねぇのかァ? 大した奴だよお前は。オモシロイ奴だ。そしてどうしてか俺はお前を殺そうとは思えねぇ。何だろうなァ、俺にもイミ分かんねぇんダよ」

相手は自分のことを敵だとすら思ってはいない。障害にすらも同様に。

確かに何も出来ない。少年はそれを分かっていてそう思っている。

俺だってそう思う。どうすればいいのか分からない。拳銃が効かない時点で俺の持っている対策術が無くなる。

俺に動く術はない。

「俺は録武ナナさえ手に入ればいい。クニさえ潰せるならそれでいい。ま、その後人間がどうなるかは知らねぇけどな。それまでの間で無駄に殺そうとは思わないってかァ」

「お前はっ………テロで散々……」

「アレは必要な死だ。殺しておかないとクニが反応しねぇ」

「なんでそんな簡単に………何とも思わないのかっ」


「思わないな」


少年の返答は淡白なもので、それゆえに恐ろしく悲しかった。

話が通じない。そんな事は分かっていたが、ここまでズレていると思うとやっていけない。

どちらも譲らない場合は、片方が折れるのではなくもう片方を折るしかないのだ。

「オマエたちが虫を殺す時に抱く感情と同じだ。邪魔臭い、目障り、分かるだろ? 表の人間と裏のnumberはここまで差がすでに出来上がってる。 もうどうすることも出来ねェ。 だからオマエはじっとしていろ。たかが人間が、しかも表の人間が、何か出来ると思うなよ」

ジリ、と少年が一歩を踏み出す。

月乃を連れて行くつもりだろう。

しかし、俺にだって持論はある。それに、本当にどうすることもできないのか。

なんでもかんでも丸く収められるとは思っていない。自己中心的理論で自分たちの周りだけが平和であればいい。それを押し通せば少なくとも俺たちがわざわざ危険な校舎に出てきた結果にはなる。

ほんの少しの勝利。それが手に入るのだ。

生徒会長さんも言っていた、俺たちの力なんてものはたかが知れている。だから、出来る限りのところで妥協する必要はあると。

だけど。

俺の妥協点はここじゃない。

震える足を強引に動かし、月乃の前に立つ。後ろで月乃が息を飲んだのが分かった。

何を馬鹿なことを、とでも言いたいのだろう。

しかし、俺にだって動く権利はある。

「ナニしてんだァ、オマエ」

「何って、……月乃は連れて行かせない。抵抗する」

「ハッ、分からなかったか? もう一度言う、表のオマエじゃ無理だ。一般人ザコじゃ無理なんだよ!」

少年がこちらに向かって走り込み、拳を突き出してくる。

避ける暇もなく、宙をさまよっていた腕に突き刺さる。 並大抵の威力じゃなかった。

続けて鳩尾に一発もらい、視界が歪んだ。

もう自分がどのような状態で居るのかもわからないまま、手だけは必死に動かしていた。

だが、何も掴めない。

ドンッ、と地面が降ってくる。そしてようやく、倒されたのだと実感した。

身体はピクリとも動かず、指先も震え、何も出来なかった。


何も。出来なかった。


「ほら、見てみろ。これが結果だァ。何においても素人のお前が、死と隣り合わせで生きてきた機械に・・・勝てると思ったか? 無理に決まっている。俺の答えは正しかったってワケだ」

少年の声だけが響き渡る。

月乃は、月乃はどうなった?


「オマエはそこで寝てろ」


彼の言葉通りに、亮は瞼を閉じてしまっていた。



暗い暗い闇の中、一人の女の子が泣いている。

その子は自分にとってとても大事な子だったはずなのに、守れないでいた。

自分の弱さが憎い。自分に強さが欲しい。

願ったところで、叶うことはない。

では、打開策は見つからず、その女の子は泣いたまま一生を過ごすことになるのか。

違う。

嫌だ。

それだけは絶対に許せなかった。

たとえ敵うはずもない相手が立ちはだかっても。超えられない壁が存在しようとも。

自分は抗い続けたかった。

誰かに無理だと諭されて止めるのでもなく、自分の限界を知って止めるのでもなく。


止めない。


最後まで、死ぬまで、勝つまで。

だって、好きだと知ってしまったから。

闇の奥で泣いている彼女が好きだと言ってしまったから。

自ら放った言葉は取り消せない。行動も同様にそうだ。

だから、立ち上がる。負けない。止まることはできない。


進め。




目が覚めると、見なれない天井だった。

鉄筋が複雑に絡まって出来ている天井だ。やけに高い。

照明もちらほらと見え、やっとここがどこなのかを理解した。

「さ、桜参さんっ!」

声のした方向を振り向くと、そこには酉種の姿があった。そこで確信する。ここは体育館であると。

「あれ、俺は………」

起き上がろうとする俺を手で制して、酉種は近づいてくる。

「部室棟の二階で倒れていたのを岩沢さんが担いで来てくれたんですよ………。本当に心配しました。生徒会長さんも傷だらけだったし、岩沢さんも打撲していましたから……」

「みんな、怪我してるのか……。蓮はどこに?」

「今は生徒会長さんのところに。 ……生徒会長さんは血まみれで倒れていたそうです」

「本当か!?」

「……っ!? そ、そうです。近くにテロリストらしき女の子も倒れて居たらしいです」

「行ってくる」

起き上がる俺を酉種は再び制止に入る。

「駄目ですよ! 桜参さんだって、頭を打ったんですから……」

「いや、俺は大丈夫。それより、生徒会長さんの方が気になるから。あと、蓮にもお礼を言っておかないと」

酉種は俺の行動を止めなかった。

「分かりました」

ただ、そう言って静かに座っていた。

分かっていた。酉種だって不安だし、恐れている。

他にも、自分だけ何もしていないという自分への嫌悪感などもあるのだろう。

だけど、それは抑えていてもらわないといけない。

理解することはできるが、話してやることはできない。

余計に彼女を悩ませるだろうから。


シーツと紐で簡単に仕切られた体育館の簡易治療室を回っていると、蓮の姿を見つけた。

「亮! 無事だったか!」

「ああ、おかげさまで。 ……ところで、眞守さんは」

「……大量出血でヤバいところだったらしい。もし、ここに連れてくるのが遅かったら死んでいたかもしれないって」

「と、いうことは……」

「おう、今は大丈夫ってことだ! これも桃川のおかげだぜ」

「桃川が……?」

「あいつが窮地を救ってくれたといっても過言ではない! ……しかし、さっきから姿が見当たらないんだな」

意外だった、という言い方は良くないのかもしれないが桃川が助けてくれたのだ。

仲間と言うものは力強いものだと感じざるを得ない瞬間だった。

「まぁ、照れてるんじゃないのかな」

「そうかもな。……あ、そう言えば眞守さんが亮のこと呼んでたぞ?」

「そうなのか? じゃあ、案内してくれないか」

「よっしゃ、任せとけ」

蓮の後に連れだってシーツの迷路をくぐっていく。

その間にもやはり、月乃のことが気が勝手仕方がない。

今どうしているのか、何か危険な目には合っていないのか。

壊れない実験台ハードは使うと言っていた。

月乃に、いや、録武ナナにどんな効力があるのかは知らない。ただ、国家転覆という時点で嫌な予感しかしない。

正直、すぐにでも助けに行きたかった。

その反面、俺に出来るのかという不安な顔も見え隠れしていた。

「ここだ」

蓮に言われてシーツをくぐると、保健室から運んできたのであろうベットに眞守さんは横になっていた。

「ああ、桜参くんか。怪我は大丈夫だったかい?」

「俺は平気ですけど。眞守さんこそ、大丈夫ですか?」

「うん、ちょっと無茶しちゃったくらいかな。 それより聞いてほしいことがあるんだ」

眞守さんは一息つくと、少し真剣味を増した声で続けた。

「姉さんがテロリストの首謀者についての情報を掴んだらしい。それで、弱点も分かったみたいなんだけど、問題は姉さんたちがここに来るまでの時間とテロリストの行動なんだ。 要するに、足止めをしなくちゃいけないんだけど……」

チャンス、という言葉が頭の中に浮かんだ。

しかし、逆にこれはピンチでもあった。

足止めと言うあまりにも重い役割を担わなければならない。

今、動けるのは自分くらいしかいないことぐらいは分かっている。

けど、今の俺があいつに敵うのだろうか。時間を稼ぐことはできるのだろうか。

「俺が、やります。やりたいです。でも………」

「重い役割ばかり押し付けてすまないね。私も動けたらいいんだけど」

「…………」

その時、シーツが捲られて蓮が入ってきた。

やけに真剣な顔をしていた。それも束の間、彼は顔を崩してこう言った。

「もちろん、俺も混ぜてくれるんだよな?」

彼はニカッと俺と眞守さんに向けて笑って見せた。

この状況で、だ。

やっぱり、仲間がいると心強い。

「蓮………」

「細かいことはナシ。俺は俺で考えてる!」

「ありがとう」


行動するべきは決まった。

後は、自分の行動と運。



神の敷いたレールはどこへ向かうのか。














評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ