No,04:曲がり角の出会い
number………人間とほぼ変わらない作られた生命体。
製品番号………numberの身体のどこかに刻まれている数字と英字。
桜参亮………この物語の主人公。科学技術者の父を持つ、差別を許さない。人間
鵜川月乃………金髪ツインテールの美少女であり、亮の幼馴染。ドSである。number
谷枝………一言で表すなら『変態』。ドMの称号を持つ。人間
岩沢蓮………茶髪ツンツンの亮の友達。チャラく見えるがお洒落なだけ。number
三嶋翼………40代後半の危ない国語教師 人間
numberの中には特異体質、と呼ばれるものを持っているものがいる。
その真相は科学技術者がどこまでが限界なのか、ということを調べるためだけに作り出された実験台である。やはり人間というのはどこまで行って汚いものであり、命が与えられるものに対して無茶な実験を行っていたのである。しかしそれはつい7年前までの話。内部告発で見つかったその実験チームは潰れ、全員犯罪者として捕えられた。執行された刑は言うまでもなく無期懲役だった。
そのことに関して彼らは、『実験の何がいけなかったのかわからない』と主張していた。
性根の腐った人間であった。命になるものに対してどれだけの酷いことをしてそう言えるのか。
その実験台とされたnumberは、今はセーフティー機能をかけられていてどこかの施設に預けられているのだという。
その実験台となったnumber。製品番号はA-0100000AからA-0100010Aまでのかなりの初期段階での実験だった。
製品番号の読み方としては、最初のアルファベット、7桁の数字、最後のアルファベットはただ、番号を表す。最初アルファベットの7桁の数字が埋まったのなら最初のアルファベットは次の文字へと移行する。それをZまで繰り返したのなら、次は最後のアルファベットが移行する。そうやって番号が被らないようにしているだけなのだ。
なので上に記した製品番号はかなり古いものだと理解できるだろうか。
今現在の一番新しい製品番号はKから始まる最後はHだったはずだ。
さて、話は変わるが一番最初にできたnumberはA-0000001Aであるが、それはどんな者であったかご存じだろうか。学校ではnumberのことは習わないので、知識として得るには文献などを読み漁るしかないのだが、どうしてもA-0000001Aについては触れられていない。
政府が隠しているのか、わざわざ語る必要がないのか、それはどちらともとれない。
つまり、わかることは何もないということだ。最初にできたnumberを知っているというメリットなど我々にはどこにもないのだが、もし政府が隠しているのだとすれば、それは何かデメリットがあるからなのではないだろうか。
毎回思うかもしれない、このような推測は無駄ではないかと。
しかし、現在のことを考えるとして分からないことばかりが多すぎる気はしないか。
政府だけが知っていることに何か疑問は持たないのだろうか。これは最早政府に頼り切っている国が出来上がってしまっているのではないだろうか。
何かが起きて政府の判断が鈍った時のため、私は考える。
numberについて、そして政府が隠蔽しているかもしれないことを。
朝、俺はいつもの時間帯に目が覚めていつもの時間帯に飯を食べ、いつもの時間帯に着替えて部屋を出た。きっちりと玄関の鍵は閉め、エレベーターでエントランスまで降りる。
一瞬のふわっとした感覚を味わいながらもエレベーターは1階で止まり、ドアが開く。
見なれた金髪が見えたかと思うと、それは月乃であった。足を組んで、エントランスのソファーに月乃が座っていた。
このマンションのエントランスにはホテルのようにソファーが並べられている。
はて、月乃は何をやっているのだろう、と思いながらも俺はおはよう、と挨拶をしてからエントランスを出ようとする。
「ちょっと、」
呼び止められた。さぁ、俺は何をしただろうか。
「学校、行くんでしょ。なんで通り過ぎようとしてんのよ」
「え、と?」
訳の分かっていていない俺の隣に並ぶと行くわよ、と促してきた。
どういう風の吹き回しだろうか。朝は一緒に登校したことなんてなかったのだが。
まさか俺が何かをやらかしたのか、それとも………。
ちらり、と月乃を横目で見てみるが怒っている様子ではない。
そういえば俺は荷物係などと言った月乃ポジションに置かれているはずなのに一向に鞄を渡してくる気配はない。こんな不気味なことはない………。
「ちょっと、なんで離れていくのよ」
「あ、いや………」
距離を取ろうとしていたことがバレた。
あ、あれ? ちょっと不機嫌になってないですか?
月乃は頬を膨らませながら怒って───────はないけど、何故か不機嫌になった気がする。
つか、頬を膨らませて怒る奴なんているのか………?
「えーっと、月乃サン? 俺が何かしましたっけ?」
「うるさいっ」
「…………」
「な、なによ……なんで黙るのよ」
何だろう、さっきからおかしいことばっかりだ。いつもならこの辺で切れられて蹴られたり踏まれたりされるはずんだけどな………。
そういう風に思考が回るのもおかしな話なんだが。
心なしか顔も少し赤いような気がする。風邪でも引いたのだろうか。
「月乃、どうしたんだ? 顔赤くなってるぞ」
「っ………! なんでもないわよっ!」
「ひぃっ、すいませんでした………。でも、風邪じゃないのか?」
「っの………ぉ!」
ブォン、と何故か回し蹴りが飛んできて俺の顔面にクリーンヒットすることになった。
やっぱりいつもの月乃だった、とよくわからないところで確認する俺だった。
「っていうことがあったんだよ」
次の授業は体育であるため、俺と蓮は男子更衣室までの長い廊下を歩いている。
「ほー、なかなか面白いな! ツンデレ………」
「ん? なに、つん……?」
「いんや、なんでもねぇって。それよりさ、あそこ」
蓮の指差す先には廊下を走るな! とかかれたポスターが貼ってあった。
ちょうど曲がり角にあたる場所なので、衝突事故とか多いのかもしれない。
「『出会いの曲がり角』って呼ばれてんだぜ? あそこを通る前に出会いって言葉を10回唱えてから走って曲がるとあら不思議、出会いが待ってる!」
「なにそれ、ぶつかる出会いみたいなそんな感じか?」
「そう、まさにそれ! 」
自信満々に言う蓮は、なんだか本気で信じているみたいだった。そんなことで出会いがあったら苦労しないってだれもが思うだろう。つか誰だよ『出会いの曲がり角』なんて名前付けたのは………。
「よし、俺は行く。必ず成功させる! 出会い出会い出会い出会い出会い出会い出会い出会い出会い出会い出会いっ!」
一回多いからな、と突っ込む間もなく蓮は走り出す。
普段絶対に出ないようなスピードで走る。
「うぉぉぉぉぉっ!」
どんっ!
「ま、じか。ほんとにぶつかったぞ」
喜びを噛みしめている蓮の前には国語女教師、三嶋 翼。ちなみに補足説明をしておくが、バツ1の40代後半の単位を取引として学生に交際を迫ってくる危険なオバハン教師である。
「『出会いの曲がり角』で岩沢くんと………? これは………」
「…………、ぎゃぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁああああっ!」
断末魔が聞こえてきたので危険を察知し、放置することにする。
少したって、蓮を引きずって歩く三嶋先生がこちらに向かって歩いてきた。ふふふ……と怪しい笑みを浮かべて。俺はあの曲がり角を曲がったところで何があったのか知らない、知りたくもない。
すっ、と俺の横を通り過ぎる時、半開きの目で蓮は訴えてきた。
『マジ、シャレにならねぇって………』
巻き込まれたくないので、スルーすることにした。
よし、とりあえずさっさと男子更衣室に向かおう。マジで。
蓮が死んだ(?)『最悪な出会いの曲がり角』をあまり意識しないように曲がった。
とんっ
と、ぶつかった。相手は跳ねかえり、廊下の床に尻もちをついてしまっていた。
「わ、わりぃ。大丈夫か?」
先には少し癖のある短髪の髪の女の子がいた。短髪、とは言っても女の子だから肩にかかるかかからないかぐらいの長さである。
俺は目線の先を注意しながら、手を差しのべた。
が、目に入った。
彼女はおびえるようにして俺の手を拒んだ。
「だ、大丈夫です………。お気になさらないで下さい」
「や、しかし俺がぶつかったんだから………」
「本当に大丈夫ですからっ、すみません」
彼女はささっと立ち上がると、小さく頭を下げて走り去っていってしまった。
その時に見えたもの。製品番号は体のどこかに刻まれている、例外はあるが大抵は普段見えないところにある。
彼女の太股には、製品番号が刻まれていた。
ゆえに、彼女はnumberだった。